第6話 (僕+私)の回避劇と作戦
なぜ自分たちより先に本木君がいるのかという疑問は質問する前から晴れてわかっている。どうせ先生に通過報告をしていないか、ほかの班員を置いていったかのどちらかだ。気にするまでもない。
確かにここは学校行事として来ている限り出雲さんや伊勢さんが捕まっても何かされるということは恐らくない。
ただ、恐らくないと言うだけで100%無いという確信もない。山ならそこらの茂みに入ってしまえば誰にもバレずに犯せてしまう。
さすがにそこまでするとは思えないが、犯罪行為に普通に手を染めるヤツだ。手段の内に入れていると考えた方がいい。
そもそも僕としても出雲さんが奴の手に渡ること自体が気に食わない。ここで捕まえて教師陣に差し出すまでだ。
雅は本木が襲ってくる前に奏多に目配せをする。奏多はそれに頷き、楓と茂みに隠れてとある準備をする。
その間にも本木は駆け寄ってくる。
本木の目は完全に京を捉えていた。京はそれに全く動じない所か、汚物を見るような冷たい目で本木を見下す。それはまるで『あなたに私を捕まえることが出来るとでも?』と、本木に挑発しているようにも思えた。
「なんだ!?馬鹿にしてんのかオラァ!!」
と、それを見た本木は余計に怒り、目の前の雅を避けて京の首元を掴もうと、叫びながら右腕を突き出す。そのまま進路と逆方向に勢いのまま連れていくつもりなのだろう。
もう手は目の前まで来てると言うのに京は表情一つ変えない。それどころか余裕の笑みすら浮かべ始めた。
「クソがァ!!」
本木が叫ぶ。
すると直後に本木の視線から京が消える。そして背中を強く押された様な衝撃を感じると共に勢いのまま山道から転げ落ちた。
実はこの時、雅が京を自分の懐に抱き寄せて、ちょうど引き寄せた京の体で隠れる瞬間に、逆の手で本木の背中を強く押したのだ。
そしてそのまま押した手は京の肩に置き、自分は手を加えてないとカメラに証明する。
そう。先程の雅から奏多に目配せしたのは、カメラの準備をしとけという合図だった。
カメラには襲ってくる本木と、ただ京を庇うだけの雅、そしてそのまま勢い余って転げ落ちる本木の一連のシーンが映っていた。
片手で本木を押したシーンは雅に抱き寄せられている京に上手く隠されて映っていない。
そしてその動画をすぐに生野先生に送ると共に、四人でゴールの展望台までの、残り数百メートルを全力で逃げた。
その最中に雅は京に急に抱いたことを謝る。
「出雲さん。急にすいませんでした。」
「いいえ、助かったのでむしろ感謝するのは私の方ね。ふふっ」
雅は集中して走っていたので京の笑い声には気づいていなかった。
男子は女子に合わせて女子の分の重い荷物を背負いながら数分は走っただろうか、
段々と山道が広くなり、アスファルトが現れる。そして展望台の入口で待っていたのは、
「よく無事に帰ってこれたな。動画は受け取った。本当によく無事で帰ってきた。これはしっかりと上に提出しておく。君達には本当に感謝する。」
そう言って先生は深く頭を下げて軽い足取りでほかの先生方の所へと向かった。
実は前回の事件の際、特進科、進学科側の教師陣は『二度と同じこと起こさぬよう警察に介入させるべきだ』と主張したが、普通科と上部の教師陣は『これは個人間の問題だ。本人の言葉だけで証拠はない。そこまでする必要は無い。』とそれを否定し、上部の決定権で一ヶ月程度の停学処分になった。
もちろん本木本人が改心する訳も無く、今まで通りに、いや、今まで以上に特進科への恨みを募らせていた。進学科特進科の教師陣は本木の次の犯行を恐れていたが、とうとう今日になってそれが起きてしまったのだ。
が、今回は特進科生徒の証拠映像が教師陣に公開され、警察沙汰になるほどの問題ではなかったものの、本木は停学解除後に度々進学科、特進科の生徒と理不尽な揉め合いになっていたことから、本木には無期停学が学校側から言い渡された。
これで進学科、特進科の教師陣の心の雲りは晴れたことだろう。
生野先生は僕たちに危険なことをさせてしまったお詫びにと近くのコンビニで好きな物を買ってやると言われたが、生野先生が悪い訳では無いので四人揃って遠慮しておいた。
僕達は四人並んで京と雅以外の二人は展望台から見える景色を堪能していた。
京はと言うと、
『はぁ...私は橿原くんに抱かれたのね。抱かれたのよね?橿原くんだから本木を私に触れさせないように『何かはするはずよね』とは思ったのだけど...これは夢かしら...?えへへへへ...』
実は京は走っている最中も、捕まる寸前にニヤッと笑ったのも、余裕の笑みだったのではなく、ただ単に雅に触れられて、抱いてもらって心の底から興奮して顔に出てしまっていただけなのだ。
ちなみにその前の本木への冷たい視線は本当の冷たい視線だ。抱き寄せられるために雅が京に触れてから、笑みがこぼれてしまったのだ。
雅はというと、
『あぁ。やってしまった。やってしまったよ...とっさの判断だったからと言っても...ぁぁあああ!抱いてしまった!抱き寄せてしまった!でも出雲さんかわいかったぁぁあああ!!』
と、心の中で感情の大氾濫が起きていた。
皆は(雅と京は心を落ち着かせるために)大きく深呼吸をした後に下山してすぐに宿泊するホテルへと向かったのであった。
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