第5話 (僕+私)の登山と注意

僕は驚いた。何に驚いたかって?それは...


「いえ、そういうお誘いは結構よ。私にはがいるわ。邪魔よ。どいてくれないかしら。」


と、出雲がぶつかってきた男子生徒に怒りを顕にしたことにだ。


今まで雅は京に『怒っているのかな?』と感じたことはあるが、京がはっきりと相手を遠ざけた...いや、拒絶したのは初めて見た。何もまだ京と出会って二週間程度なのだが、


『嫌だったらちゃんと嫌だって言うんだ...』


と、少し京を見る目が変わった。まあ彼女から溢れ出る絶対零度のオーラには気圧されたものの、つまりは今までの雅の行いは特段嫌われていたわけではなかったということだ。それを知れただけでも雅にとっては大きな収穫なのだが...


『それよりも!雅だってさ!あのクールな声で「私には雅がいるわ。」ってカッコよすぎ!いやぁ本当に出雲さんのものになりたいなぁ...惚れてまうわ!ってかもう惚れてるんだけどね。』


と、恐怖の前に喜びを感じていたのだ。確かに冷静沈着な雅ではあるのだが、こういう面では雅もやはり高校生なのだ。


雅と京は内心惚気けたまま、楓と奏多は京に恐怖したまま最初のスポットである白城はくぎ神社に到着した。


白城神社には既に先生方がいて、僕らは担任の生野いくの先生の元に向かい、第1ポイント通過の報告と、先の一連の問題を報告した。先生は


「そうか...それは...恐らく本木だろうな...」

「なっ!?」

「なるほど...」

「やっぱりね〜」

「それもそうか〜」


言い淀んだ生野先生の言葉に四人全員が納得してしまう。そう。その本木君こそが女子生徒監禁事件の犯人なのだ。皆新城下高生なだけあって名前だけは知っているが、実際の顔は見たことがなかった。


「...だから警察を通すべきだと言ったんだ...」


先生が苦虫を噛み潰したような表情をして呟いた。そしてそのまま生野先生が、


「橿原。君に私の電話番号を教えておく。何かあったら直ちに電話かメールをしてくれ。」

「...いえ、先生、太宰にも先生の電話番号を教えて頂けると助かります。」


と生野にお願いをする。


生野は最初、雅のその言葉の真意を理解できなかったが、


「そうだな。一応二人に渡しておこう。では橿原、太宰、もしもの時は頼むぞ。」


『橿原には何か考えがあるのだろう』と、生野は二人に電話番号を教えた。


「助かります。何かあったら女子を護るのは男子ですから、片方では可能性がありますので。」


と雅は答えて生野は『なるほど』と頷いた。


「何かあったら頼むぞ。には気をつけて行ってきたまえ。」


『次は暴力や奇襲もあるかもしれない、注意しろ。』と生野は四人に念を押す。


「「「「はい。」」」」


と、先生の忠告をありがたく受け取って僕達は登山を再開した。


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生野先生は若い女性ながらもキビキビした良い先生だ。言葉遣いも軍とか自衛隊のお偉いさんの様な喋り方をしている。一人の女性としてかっこいい女性教師には憧れる。何より...


『あの胸よ。どうしたらああなるのかしら。』


京は自分のものと比較しながら生野に嫉妬する。京も高校二年生にしてはかなりご立派な物をお持ちになっているが、自分より大きい者(物)には嫉妬する。


高一(中等部)までは大きくて体を動かす際に邪魔なものだと思っていた。男子からの視線もかなり嫌だった。そして実際大きくて邪魔だとか見られるのが嫌だと思う女子も多い。


しかし男子は大きい方が好きな人が多いらしい。


京は...


「前に楓から太宰くん越しに聞いた話で、橿原くんが大きい方が好きと知った途端に私は自分の大きいものがとてつもなく好きになったわ。なんなら『もっと大きくならないかしら。』と考えたり、自分より大きい母親にどうすればいいか聞いたほどよ。楓はどうすればいいと思うかしら。」


と自分より小さい楓に事の経緯やどうすればいいか聞いたほどであった。もちろん楓は「嫌味?」と京に返した。


京はそんな自分の胸を気にしながら登山道に入っていった。


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「少し休みますか?」

「えぇ。そうさせてもらうわ」

「疲れたぁー」

「楓、あと少しだから頑張って、ほら、」


僕らは石切場にも到着し、違うクラスの先生に通過の報告と、問題無しの報告を終え、本木君の到着報告の有無の確認もした。そして展望台に向けて出発していた。


ここまで本木君から逃げてきたので中々休む暇もなく、女性陣は疲れ切っていた。時間にも余裕があり、僕は本木君との距離もだいぶ稼げたと思い、ゴールは近くにあるものの、少し休憩をすることにした。


「にしても橿原くんも太宰くんも随分と体力があるのね。」

「あ〜それなぁ〜いいなぁ〜」


女性陣が登山で休み無しに息切れひとつしてない男性陣に軽く嫉妬する。


「何かしてたのかしら?」

「まあ、小中9年間僕らは野球部でしたから。」

「そゆこと。」


そう。雅と奏多は野球部だったのだ。しかも小学校中学校と全国大会にスタメンで出ているほどの実力者だ。トレーニングも並大抵では無かった。高山トレーニングも幾度となく乗り越えてきた。こんな地方都市近郊の山なんぞこの二人にはそこらの平地と何ら変わりない。


「そうなのね。」

「へぇ〜」


と二人とも雅と奏多に関心を寄せる。


少し時間が経ち、四人は再びゴールを目指すことにした。と言ってもあと1km無いくらいだ、『これならもう問題なさそうだな。』と雅を含めた誰もが思っていた。


しかし、先頭だったはずの僕らの前から、一人の新城下高生が近寄ってきた。


そう。本木君だ。


彼は「いやぁ〜、そこの京っていう女がどうしても諦めきれなくてなぁ〜」


とターゲットを京に絞り込む。そして京を捕まえようとばかりに一気に駆け出す。


『これ学校行事なんだからこれで出雲さんを捕まえたとしても本木君が罰せられるだけで、この後出雲さんをどうすることも出来ないんだけどな。』


と、『つくづく馬鹿だな』と雅は心の中で呆れながら京の前にサッと立ちはだかるのであった。


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