第4話 私の逆鱗に触れし者

私達はバスを降りてクラスごとに集合して、その直後に登山開始になったわ。


あまりの手際の良さに私は『え?これで始めちゃっていいのかしら?』と不安になりつつも、誰よりも頼りになる橿原くんが


「先生もいいって言ってますし、何度も聞いては先生方も大変でしょうから」


と、先生にも気配りができる寛大な心を見せてくれたので、歩き始めた偉大なる橿原くんを先頭にそのすぐ後ろを神の導きの如くついて行ったわ。(ナレーターBy京)終。


今京達はルート通りに少し広めの山道を進んでいる。


『あぁ、橿原くんのシャンプーの匂いが降ってくる。なんて幸せなのかしら...この行事に感謝ね。』


と、京は雅を満喫できるこの行事に心の中で感謝を述べつつ登山に集中した。


京たちのクラスはバスを降りてから一番早くスタートしたので前には誰もいない。


『雄大な自然を背景にした橿原くんのかっこよさと言ったらこれ以上は無いと私は断言できるわね。』


京は前を歩く雅の姿を真後ろでじっくり観察しながら心の中でそう感想を述べた。すると...


ドッドッドッ!


歩いていると後ろからものすごいスピードで迫ってくる班が追い抜いていく。そして...


ドンッ

ドサッ


「いっ...」

「奏多!大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫。気にしないでおくれ。」


少し体格のいい男の子が奏多にその勢いのままぶつかって、奏多が転んでしまう。そしてそれを彼女である楓が心配する。


ここでぶつかった男子はそのまま一回通り過ぎて行った。しかしわざわざここまで戻ってきて四人に対し一言、


「チッ、特進科か、なんで前にいんだ?運動出来ねーお前らが前にいると邪魔だろ。」


と、わざわざ嫌味をぶつけてきた。するとその男子は何かにハッとする。


じー...


そう。ぶつかってきた男子は京の事に気づき、無言でじっと見つめ始めたのだ。


すると、その男子生徒の異変に気づいたのか、雅が男子生徒と京の間に入り、


、ぶつかってないか?何かあったらに言うんだぞ。」

「ええ。問題ないわ。」


と、京の名前を呼び捨てで、タメ口口調、一人称『俺』で京に話しかけ、京の元々膝についていた土を軽く落として心配する様子を見せる。これに都は平然と真顔で答える。だが実際のこの時の都の心情はというと、


『キャーーッ!!橿原くんが私を京って!京って言ったわ!しかも私の膝を触ってる!?「俺」っていう口調もカッコよすぎるわよ!タメ口最高!橿原くんの彼女って毎回こんな気持ち味わえるのかしら!?最高すぎるわね!?ハッ!!危なかったわ。顔に出るところだったわね。』


と、目の前の大事に見向きもせずに心の中で大興奮していた。それでも真顔でいられる技術(?)は大したものだ。


しかし、この雅の行動に腹を立てたのか、その男子生徒は、


「おい、顔も整ってねーやつが俺の視界に入り込んでくるな。視界が汚れる。」


と、初対面の相手にかなりハードな嫌味をぶつけるが、


「そりゃどーも。よし、時間も押してるし早く行こう。」

「うん。そうだね。」

「おっけー」

「ええ。」


と、雅は男子生徒の嫌味を軽く受け流し、「時間が押してるから」と、タメ口で先を急ぐ素振りを見せ、上に少し歩き始め、京から離れる。


奏多と楓も立ち上がり、下を向いて止まったままの京に「行こう!」と促す。


が、この時京は...


「下品な言葉遣いしか出来なくて自己中で周りが見えていない世界は自分を中心に回っていると思っている最低の二文字がピッタリのあなたが高貴な最高の男子である橿原くんを語らないで欲しいわね。顔が整ってないのはどっちよ。明白じゃない。あなたみたいなやつはこの私にも到底釣り合わないわね。話にならないわ。さっさと私の視界から消えて欲しいわ。橿原くんで潤った私の視界がゴミ捨て場に変わってしまうわ。この不始末をどう片付けてくれるのかしら、私は一生許さないわ、ええ、一生許さないでしょうね...」


と、いかに怒りが積もりに積もっていたのかがわかる独り言を呟いていた。


京は真顔ではあるが、その絶対零度のオーラと恐ろしい言葉に、直接それを聞いてしまった楓と奏多が絶望を表した顔をすると同時に芯から固まる。


男子生徒には聞こえていない。


京の絶対零度のオーラだけは感じた雅がその嫌な空気を切り裂こうと再び三人に声をかける。


「おーい、行くぞー」

「えぇ。」

「お、おう!」

「ら、ラジャー!」


雅がタメ口で話せばこのメンバーが相当仲がいいという情報を相手に見せつけられる。が、ここで引かないのがこの男子生徒だった。


「そこの京とか言ったか?ちょっとこっちに来いよ。」


と、登山を再開した四人について行き、京に興味を持ったのか、京を誘い出した。しかし、


「いえ、そういうお誘いは結構よ。私にはがいるわ。邪魔よ。どいてくれないかしら。」

「なっ!?」


と、京は普段から"棘のある氷の女王様"であるのに、余計に冷たい声と目付きでその男子生徒を見下し、拒絶した。


これも男子生徒が先程雅を馬鹿にした事への怒りが積もっての事だったのだろう。


京は内心『橿原くんの事を雅って言えたわ!!恋人って思って貰えたかしら!?』と、少々雅の後の反応に期待した。


京はそれを言った瞬間に雅を見ると、雅がビクッとしたのがわかった。それは名前で呼んでもらって嬉しい驚きなのか、予想以上に恐ろしかった京の怒りに対しての恐怖の驚きなのかは分からないが、確かに反応した雅の反応に京は少し喜んだ。


楓と奏多は『こ、こえぇぇええ...』と本気で怒る京を見て芯から震えた。


そして学園のプリンセスこと、氷の女王様の逆鱗に触れた荒くれ者は絶対零度の棘が心に深く刺さったのか、その場で情けない顔をしながら固まってしまった。


雅は心の中で『でかした!』と急いで第1メインスポットである神社を目指したのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。







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