第3話 (僕+私)の学校事情と妄想

新城下高校の特進科は特A組と特B組の二クラスしかない。それも高校一年の一般特進科と中高一貫が混じって二クラスなので一年生の頃は一クラスなのだ。進学科が二クラス、普通科は六クラスある。


僕達特進科生は学校内でかなり優遇されているので、シートピッチが広く、シートも肉厚なバスに乗せてもらえる。しかも一クラスで一台だ。


僕らの班はバスの真ん中寄りの席で、僕の前の席に座り、背もたれを「悪いね」と言いながら限界まで下げているのが奏多。奏多と隣の窓際で、背もたれを下げようとしたらその後ろに座ってる出雲さんに睨まれ(真顔)て倒しかけた背もたれをスっと元の位置に戻したのが伊勢さんである。


まあ図にするとこんな感じだ。


窓 │楓 奏

窓 │京 雅


バスは学校を出発して一時間ほどで目的地に到着する。特進科は親睦旅行となっているが、普通科は第二回林間学校となっている。第一回林間学校は一年生の入学直後に行く。


『旅行』と『学校』という普通科の反感を生みそうな言葉の違いだが、この行事ですること自体は変わらない。強いて言うならバスの違いとホテルの階の違いくらいだ。そもそもバスも乗車時間一時間程度なのだから大した差はない。


それでも自分の良いように解釈して特進科生の愚痴を言ったり、嫌がらせをしてくる普通科生もいる。


新城下高校は地方の私立学校あるあるの、ひとつの学校に幅広いクラスが設置されている学校なのだ。


一つの学校に学科分けがある時点でこういう問題はどうしても発生してしまうものなのだからしょうがないとわかってはいる。


分かってはいるのだが、去年の事件だけは許される行為では無かった。


前にも言ったが、去年この学校の一年生男子が女子生徒を家に監禁したという事件、あれは普通科の生徒が特進科の生徒を閉じ込めたという内容だった。


その普通科の生徒は特進科女子生徒に告白した時、振られたあとの去り際に「特進科だからって調子に乗りやがって...」と言っていた事が明らかになり、さらに問題になった。


だが、学校側はその事件を〈彼が異常なだけだ。〉と判断し、特進科に対しては今まで通りの待遇をすることになった。


問題を起こした彼は一ヶ月程度の停学処分となったが、今では学校に復帰している。彼が起こしたことはほぼ犯罪なので一ヶ月の停学処分で済んだことに学校中が驚いたが、停学期間が終了した直後に彼は何事も無かったかのように学校に登校してきたと聞いている。


『こんな奴がまた特進科と一緒の行事に参加しては自分達の身が危ない。』


そう思ったから僕は班行動で人通りが少なくなる可能性が高い道を避けたのだ。


つい先日結ばれたバカップルや、高嶺の花である出雲さんが被害を被ることになるのは僕が許せない。


『何も起こらなければいいけどな...』


そう祈ることが今の僕にできる精一杯の事だった。


僕はそう祈りながら隣の席の出雲さんが写る、田舎になっていくバスの車窓をぼーっと眺めるのであった。


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私は今、橿原くんの隣に座っている。気分は最高。朝にお風呂に入ったのか、橿原くんのお風呂の匂いが私の嗅覚を活性化させる。


『これはまずいわね...理性が保てなくなりそうだわ...シャンプーかリンスーの香りが最高すぎるのよ。橿原くんの優しいイメージとマッチしたオレンジ色のアプリコットの香り。この香り、帰ったら薬局で探しましょう。』


(真顔。)


京は真顔ではあるものの、ぼーっとしながら隣にいる雅のシャンプーの香りに大興奮していた。


『ハッ!!私は何を...』


京はハッとして頭を冷やすために辺りに気を紛らわすものが無いか見渡す。すると、隣の席でじーっと車窓を眺めている雅の顔が目に入った。


『なんて凛々しいお顔、早く私のものにならないかしら、いや、私のものになる前提というのもおかしな話よね。本当にずっと見ていられるわ。一体何を考えているのかしら。』


こんな風に隣にいる雅を眺めながら、結局雅のことで頭がいっぱいになる京なのであった。



この二人はただ考え事をしているだけなのだが、周りから見れば見つめあっているカップル...と言うより、真顔でただただ見つめあっている男女であった。


それを見た前列に座る二人は、


「ねぇねぇ奏多、これ、何を考えていると思う?」

「出雲さんのこと?」

「両方よ。」

「ん〜、出雲さんは分からないけど、雅は多分何か懸念を抱いているんじゃないかな。ほら、いつもより唇に力が入っている。」

「よくそんなこと分かるわね」

「幼馴染だからね。で、出雲さんはどうなの?」

「あれはただ惚気けているだけよ。頭の中で橿原くんの妄想でもしているんじゃない?」

「へぇ...好きな人のことを真顔で妄想できるのも凄い技術だよな。」

「そうかしら?」

「うん。だって僕だって楓の妄想をする時はにやけちゃうもん。」

「あ〜私も!奏多の事考えるとにやけちゃうわ〜!」


親友ふたりの話から自然と自分達のイチャラブへとシフトチェンジしていくのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。

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