第二章 親睦旅行

第1話 (僕+私)の席替えと争い

〈起立 礼〉

〈おはようございます〉

〈着席〉


今日も何気ない一日が幕を開ける。遊園地に行ってから二日後の月曜日。ホームルームの挨拶が終わり、先生の話が始まる。


〈今日は2時限目と3時限目の世界史の時間を使って特組の親睦旅行の計画を立てる。グループは一貫校生二名と特進科生二名のグループで、ひとつの班だけ五人グループになる。予めグループが出来ているところはホームルームの直後に先生のところに報告してきたまえ。以上だ。〉


『なるほど。そういえばそんなのもあったな。僕はまあ、出雲さんと組めれば最高だが、出雲さんのところには男子が沢山集まるだろうし、一昨日一緒に遊園地に行ったばかりだから余ったところでもいいかな。』


雅は面倒事になると思い、余った人と適当に組むことにした。


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『なるほど、ということは私も橿原くんと組める可能性があるというわけね。』


京は一昨日の電車で雅に最後に言われた『長い黒髪のキリッとした目つきの...』という発言に、少し『私も可能性はあるのではないかしら。』と自信がついていた。なのでここはぜひ雅を誘いたいところなのだが、


『橿原くんを引く手はあまたよね...一昨日遊園地にも一緒に行ったわけだし、今回ばかりは余ったところに適当に入ることにするしかなさそうね...』


と戦から手を引くのであった。


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〈じゃあ、この班で決まりでいいな?〉


クラスメイト全員が大きく頷く。


〈話し合いの際に机の移動は時間の無駄だ。一学期の間はこの班で席を組むことにする。〉


先生の最後の言葉にクラスがどよめく。


まず僕の班は誰なのかを教えよう。僕の班は...


奏多と伊勢さんと出雲さんだ『よっしゃぁぁあああ!!!!!!』


なぜか班決めが始まった途端僕と出雲さんに近寄るものはいなかった。代わりに、一昨日の完全勝者である奏多と伊勢さんが「やーやーやー」「組まないかい?」とやってきた。


『僕の元に人が来ないのはいいとして出雲さんの所に人が来ないのはどうしてだ?』と雅は不思議に思っていた。理由は簡単だ。クラスの女子たちは、


〈ヤバイ、神聖すぎて一緒に組みませんかなんて言えないわよ!〉

〈眩しすぎて無理...〉

〈私がいると橿原くんの名前に傷をつけることになっちゃうって!〉

〈恐れ多い...〉


と、ある意味で避けていた。


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『...なぜ私だけでなく...橿原くんにまで人が集まらないのかしら...』


同じことを京も思っていた。しかしそれも理由は同じ(?)である。


〈俺あの人と一緒になったらドMになるからやめとくわ〉

〈むしろいいじゃん!夜に部屋押しかけて罰としてムチで叩いてもらえよ!〉

〈山道で転んだ俺に手を差し伸べ出さずに踏んで欲しい...〉


...ただ自分の癖が変わるのを恐れてただけであった。


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班や行動を二、三時間目に決めるとして、この朝の時間に次の席を決めることになった。


席全体をブロックで分けてそのブロックを班の代表者が選ぶ形だ。


僕の班の代表は、まあ、僕である。じゃんけんで好きな場所を選べると言うので、後ろの窓際の席を狙うべくジャンケンに本気で挑もうとしたのだが、ここで雅に予測できなかったことが起きた。


クラスの皆が、〈君たちの班はまず好きなところを選んでくれ。俺らはその残りをジャンケンするから。〉というのだ。


命にかけるは言い過ぎだと思う。なぜみんながそんなこと言い出したのかは分からないが、さすがに自分だけ好きに選べるというのは皆に悪いので、


「いや、僕もするよ」


と言ったが、今度は女子が


〈橿原くん!お願い致します!このとおり...〉


と、土下座までし始めてしまったので、


「あ、ああ。分かりました...」


と、僕が折れることになった。いや、折れるって言っても自分の好きなところを選べるのだから嬉しいことには変わりないのだけれど...そこは有難く、最初から狙っていた窓際の後ろを獲得した。


僕の席は窓際の後ろから二番目。その隣が出雲さん。その後ろが伊勢さんで、僕の後ろが奏多だ。


それが決まった途端、男子女子混合のじゃんけん大会が始まった。


皆すごい気迫でジャンケンをする。勝ったものは全力で泣きながら喜び、負けたものは地面にひれ伏し涙した。


『なんだこれ。』


シンプルに僕はそう思った。


1位になったのは女子三人男子二人のグループで、すんなり決まるのかと思ったら女子は女子の中で、男子は男子の中でまた全力のジャンケン大会が始まった。1位になった女の子は名前を僕の前に置き、買った男子は出雲さんの前に置いた。


二位、三位のグループもグループ内で壮絶な争いを繰り広げ、自分の席を獲得した。


『いくら一学期ずっとこの席だからって気合入れすぎでは?』と思ったが、それほど今の席に満足していなかったのだろう...


席決めが終わり、僕らは新しい席へと移動するのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。




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