第10話 (僕+私)の世紀の大敗
「あ〜笑った笑った...ふぅ...失礼しました、出雲さん。」
「ほんとよ...勘弁してくれないかしら...で、本当のところはどうなのかしら?」
二人は付き合って数分だと言うのにいちゃついている奏多と楓の後ろを並んで歩く。
本当に笑い疲れたのか、雅は大きく深呼吸して、京に自分の失礼を謝るが、京はここにいる二人以外には意味の分からない「本当は?」という質問をかけた。その質問に雅は
「本当の事ですか?」
「えぇ。本当の事よ。」
と、『身に覚えが無いなぁ』というふりをするが、勘が鋭い京には分かる。少なくとも自分が愛してやまない人の表情くらいは簡単に読み取れる。
「...告白が被った時は本気で笑いすぎて疲れましたね。」
「告白が被った時はですか...」
「...」
京の返答に雅は額に手を当てて苦笑いで沈黙する。
京は気づいていた。
『あの時の橿原くん、名前を呼び合うのもままならない二人を見て笑ってた時は明らかに作っていた笑いだったわ。声も一回目と違って単調で、笑い声もしっかりとした声になっていたわ。』
京は別に雅の彼女でもないのに、雅がそれを自分に隠していたことに少し腹が立っていた。少なくとも『自分にだけは話して欲しい』と思っていた。
「で、なぜあんなことをしたのかしら。」
京は容赦なく雅に質問する。
「...朝も言った通り、人の気も知らないで...って思ったからですかね...僕の恋は...親友の恋に負け...いや、親友の恋に利用されたんですよ。」
「...」
京は雅のふたつの言葉に絶句した。そして雅は続ける。
「別に奏多を恨んでるわけじゃないんです。おめでとうって心から思います。でも...結局彼の中では幼い頃からの親友の叶わない恋を犠牲にして、自分の叶う確率が高い恋を取ったってことですよね。恨めませんよ。自分も同じ立場ならそうなりますから...」
雅は俯いて「ははっ...」と自嘲する。
京はまた新しい雅の発言の一部に絶句すると共に、その理由全体にも絶句した。
「そう...なのね...」
京は頭の中が真っ白になって詰まった言葉しか出てこない。
『橿原くんには好きな人がいた。そしてそれは叶わない恋。それは彼にとっての高嶺の花である女の子がいる...そういうことよ...ね...』
京は落ち込んだ。橿原くんですら高嶺の花と思う女の子がいる。そしてそれが普通の女の子である私である確率はかなり低い。確かにそれなら朝からの少し控え気味な反応に納得がいく。そういう結論に至った。
京は少し頭の中を整理すると、次の問題に視線を向けた。それは橿原くんの言葉全体の事。
『...これって橿原くんだけの話では無いんじゃないかしら...楓も...そういうことよね...でも、意外にも嫌味は全く感じられないわね。私だって同じ立場になったらこうするもの。叶わない親友の恋よりも、叶いやすい自分の恋を優先するに決まってるわ。』
「ふふっ...」
京も少し俯き、自分の額に手を当てて自嘲する。
二人は思った。今回は完全に
『僕たちの完敗だ...』
『私たちの完敗ね...』
奏多と楓の10mくらい後ろを歩く雅と京から見た二人は、どこまでも遠く、そして眩しいくらいに輝いているように見えた。
帰りの電車で奏多と楓は爆睡していた。乗り過ごしのないよう、雅と京は目を覚まし、暗闇の中、ビルの光が流れる車窓をぼーっと無言のまま眺めていた。
そのまま数時間を無言ですごした。乗り換えの時に声掛けとかはしたが、会話という会話は一切しなかった。
電車は終点の一個手前の駅を出発し、みんなの最寄り駅も近くになってきた。そこで何を思ったのか、京が窓を眺めたまま口を開いた。
「橿原くんが好きな女の子って...どういう子なのかしら。」
雅はその質問に一瞬答えるか迷ったが、雅も車窓を眺めたまま、
「...長い黒髪で...キリッとした目つきの、この世の誰よりも可愛い...高嶺の花ですね。」
と言って、奏多を起こしてそのまま開いたドアからホームに降りていった。
それを聞いた雅は
「そうなのね...」
と、一言いって、楓を起こし、二人の後を追うように電車から降りたのだった。
京の口元は、少し微笑んでいるように見えた。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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