第9-B話 (僕+私)のカップル誕生!?

「ぅうわああああぁぁぁ!!」

「キャーーーーーーーッ!!」


楓は両手を上げてジェットコースターが落ちると同時に叫ぶ。奏多はこの叫び声からして絶叫マシンが苦手なようだ。バーを全力で握りしめ、悲鳴をあげている。


「うぁッ!?うっ!ひぃぃ!?」

「アッハッハッハッハッ!!」


何かある度に変な悲鳴をあげる奏多をおかしく思ったのか、楓は日本で一番高いところから落ちるジェットコースターで落ちてる最中なのに、奏多の方を見て爆笑している。


『ヤバイヤバイヤバすぎ!?ってか楓さんなんでそんな余裕なんだよ!?』

『はあぁぁぁ...笑った笑った...』


奏多はジェットコースターから降りて、三半規管が弱くてフラフラしてしまう楓を支えながら『こいつやべぇ...』という目で楓を見る。楓は『笑った笑った〜』と腹筋をおさえている。


ここで奏多はふと思う。


楓の反対側の肩には男の人の手がしっかりホールドされている。自分が指を動かすと、その手も連動する。


『...ん?待てよ?楓さんを支えてるのは僕?え?え?』


そう。ジェットコースターでの恐怖と楓のおかしさに気を取れていたが、


『今...僕は...楓さんに自然と触れている!?と言うより肩組んでる!?』


そう。奏多は今、好きな女の子に触れているのだ。


『肩が小さい。全力で握れば砕けてしまいそうだ。肩周りの肉付きもなんというか、柔らかい...本当に女の子なんだなぁ...昔は普通に触れ合ってたのにな。なんか人前で堂々と二人くっついて歩くのも、今じゃ小っ恥ずかしいなぁ...』


奏多は楓の体の変化を昔と比較し、実際に触れてみて実感する。そこで『ハッ!!俺は何を考えているんだ』と、軽く赤面して、それが楓にバレないよう楓の反対側をフイっと向いたのだった。


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『あ〜笑った笑ったぁ...ん?...あれ?私ってもしかして今...奏多くんにホールドされてる!?ぇえ!?嘘!?』


楓も奏多のジェットコースターの顔や叫びが面白すぎてそちらに気を持ってかれていたが、少し落ち着いて好きな男の子に支えられていることに気づく。


『...身長も体格も大きいわけじゃないのに...なんというか、大きく感じる...私の肩を握る手もしっかり固定されていて安定感がある。腕も硬い...もう立派男の子なんだね。昔は私の方が大きかったのに...』


楓も奏多の昔の姿と比較して、今の奏多の男の子らしい体つきに『もう昔とは違うんだよね。』と、異性の男の子に支えられることに少し恥ずかしさを覚える。


楓も少し赤面して、既に視線を外している奏多と反対方向にフイっと顔を向けたのだった。


オレンジ色の夕焼けがそんな素直になれない二人を照らす。二人は自然と観覧車の方へと向かっていったのであった。


そして、そんな甘酸っぱい雰囲気を醸し出す二人をこっそり追いかける二つの影が少しずつ奏多と楓に迫ってきていたのだった。


-------------------------


「ありがとう...」

「うん...」


観覧車に乗り込み、足のふらつきも治まった楓を奏多はゆっくりと肩から手を離し、席に座らせる。


二人の間にはどことなく気まずい空気が流れている。


奏多は楓が座った席の対面の席に座り、膝の上にある拳を力強く握りしめ、覚悟を決める。


『よし、上がり切る前に決着をつけよう。』


一方の楓も、膝の上に置いた手でスカートをギュッと握りしめる。


『今言わなくちゃ。次がいつ来るかなんて分からない...』


二人の頬を一滴の汗がつたう。


今二人が乗る観覧車のゴンドラは四分の一地点まで来ている。


『よし!』

『今よね!』


二人は覚悟を決めた。建物に隠れていた夕日が二人の乗るゴンドラの中に差し込んでくるその瞬間だ。


二人の顔を夕陽が照らした。


「楓さん!ずっと好きでした!付き合ってくださいっ!!」

「奏多くん!私はあなたのことが好きです!付き合ってください!!」


一瞬の沈黙が、頭を下げた二人の間を流れる。


「へっ?...」

「えっ?...」


二人揃って間抜けな声をもらしながら顔を上げ、互いを見つめ合う。


そしてまた少しの沈黙が流れたあと...


「ぷっ...アッハッハッハッハッ!!ひぃひぃ、もう駄目!クックックッ...」


この一連の出来事に笑いを耐えきれなかったのは...


「ちょっ!!橿原くん!?それは失礼だと思うのだけど...」

「!?」

「!?」


ひとつ後ろのゴンドラに乗っていた雅だった。観覧車に乗る前にいい雰囲気を醸し出していた楓と奏多に気づき、二人してこっそりついてきたのだ。


このゴンドラは足元こそ見えないものの、天井と壁の透明な板には沢山の丸い穴があり、声がダダ漏れなのだ。それで二人とも叫んで告白したものだから、後ろのゴンドラにいた二人にもしっかり聞こえてしまったというわけだ。


観覧車はてっぺんに上り、ふたつのゴンドラが並ぶと、奏多が雅に「お前ぇええ!!」と叫びながら指を指してきたが、雅はそれにこう答えた。


「お二人さん。返事はどうなったの?返さないと失礼じゃない?プックク...」


その答えに二人は顔を真っ赤にして一瞬で互いを見つめ合う。


雅は最初こそ真面目な顔で言ってたが、途中で耐えきれなくなり、また吹き出してしまった。


「橿原くん...あなた...そういう子だったのね...」


と、京も若干引いている。でも...


「よろしくお願い...します...」

「え?...」

「か、かかかっ奏多!よろしくって言ってんの!」

「おおおおう!よっよろしくっ!か、かかかか楓!」


「アッハッハッハッハッ!!」

「...」


互いを急に呼び捨てで呼び合うものだから、名前を言うまでに頭文字を連呼してしまう。それに大爆笑する雅、無言で雅にジト目を向ける京。


この日、新たなカップルが誕生した瞬間だった。


ゴンドラから見える富士山はそんな二人を祝福するかのごとく、夕日に当てられ輝いていたのだった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。



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