第9-A話 (僕+私)の苦手なもの
僕は今、出雲さんと二人で遊園地内を歩いている。
出雲さんが美人すぎて隣に並んで歩いている僕が周りの人にちらちら見られている気がする。
〈不釣り合いね〜〉とか言われているのかもしれないと思うと少し怖いが、それ以上に出雲さんと並んで歩けていることに最上級の喜びを感じている。
ちなみに実際雅に向けられている視線はこうだ。
〈あの子めっちゃ美形じゃない?〉
〈ヤバ、イケメンすぎ!〉
〈隣歩いてる子いいなぁ〜〉
〈バイヤバイ!かっこよ過ぎ!〉
〈耳元で甘い声で囁かれたぁい〉
まあそれはいいとして、雅は今とても満足している。なぜなら...
『今日初めて出雲さんの笑顔見たぁ!嬉しいなぁ!もしかしたら今もご機嫌なのかなぁ!』
入場ゲートの手前で京が盛大に自爆し、周りからも可愛い過ぎると思われるほどの笑顔と赤面を雅に見せたからだ。
雅は今の京が気になってふと左を歩く京の顔を見る。京は入場ゲートの前の真顔に戻っていた。
『まぁそうだよね、あくまでもこれがデフォルトなんだね。』
雅は『まあ遊園地に入ったばっかりだし、まだまだこれからだな。』と、現状を受けいれたのであった。
-------------------------
一方京はと言うと...
『これはまずいわ。周りの人達が橿原くんの美しさに目が奪われているわ。隣を歩く私には〈釣り合ってないな〉なんて思っているんでしょうね。悔しいけど本当にその通りよ、許してください。』
雅の隣を歩くという大役に、緊張とともに見てる人の視線は釣り合ってないと言う意味が含まれてるのではないかという勝手な妄想をしては脳内で謝っていた。
しかし実際周りの感想はこうだ。
〈ヤバイヤバイ美人すぎだろあれ!〉
〈ラブコメヒロインかよ!〉
〈「足の裏を舐めなさい」とか言われてぇ〉
〈ハイヒールで踏まれてぇ...〉
〈アニメみたくバニーガール着て欲しい...〉
〈前髪重めだしメンヘラだったりぃ?へへ〉
...これはちょっとマズイ視線のようだ。...まあこれもいいとして、
京は高校二年生最大の危機を感じていた。いや、そもそも京は高校二年生三日目なのだが...まあそれはいいとしてなぜか?それは...
『私...絶叫苦手なのよね...』
そう。京は絶叫マシンが大の苦手なのだ。
先程から表情が硬い(いつも通り)のはそれが理由だ。
『どうしましょう、橿原くんの目の前で変な失態は見せられないわね。でもここには絶叫マシンしかない...もう...泣きたくなってきたわ...』(真顔)
心の中では『ガーン』と言う効果音と共に地面にひれ伏せて号泣していた。
二人は周りから憧れの視線を浴びつつも、実際そんな余裕はなかったのだった。
-------------------------
「最初は何に乗りますか?今はどこも待ち時間ありませんよ。」
「ええ。橿原くんに、任せるわ。私、初めて、ここに来た、のよ。」
どこかカタコトな京に雅は不思議に思ったが、迷わず有名なジェットコースターに乗り込むのであった。その時の京の気持ちは、
『やっぱりそうよね。そうなるわよね。だって絶叫マシンしかありませんものね。あぁ...』
と、絶望を味わっていた。
〈安全ハーネスにしっかりとお捕まり下さい。それでは行ってらっしゃーい!〉
出発の放送に僕は緊張しながらも出雲さんをちらっと見る。出雲さんは真顔でどこか遠くを見ていた。「あぁ...」と言うか細い声も聞こえた気がした。
『あ、これ、マズイやつだ...』
今ここで気づいた。多分出雲さんは絶叫マシンが苦手だ。それでいてこのマシンに乗るのはマズすぎる。
これは全国で最も怖いとされる絶叫マシンの一つ。こんなものに絶叫が苦手な人が乗ったら...失神してしまう...
『なぜ気が付かなかったんだ!...僕は...くっ...無念!...耐えてくれ、出雲さん...』
もはや雅は祈るしか無かったのだった。
-------------------------
私はもう諦めた。背中から上半身を固定するハーネスが固定され、行ってらっしゃいの合図とともに動き始めた。「あぁ...」と言う小さな悲鳴が漏れ、私は遠くを見る。そして暗闇に入った途端の急な加速と共に体が沈み、私の絶望の3分間が幕を開けたのであった。
-----
「あ...あぁ...」
「すいません、気づいてあげられなくて...」
「い、いいのよ...苦手って言わなかった私が悪かったのよ...」
私は気遣ってくれる橿原くんに自分が悪かったのだから気にしないでと言う意の言葉を返した。
「じゃあ次からはどうしますか。」
「そうね...少し休ませて欲しいわ。」
「じゃあ休みましょうか。」
「ええ。」
私は少し休憩を貰うことにした。そこで少し疑問に思ったことを橿原くんに言ってみることにした。
「橿原くん。ここはジェットコースター意外何かあるのかしら。」
京は流石に絶叫マシンしかないわけは無いと思い、何も乗らないとなると橿原くんにも迷惑だと思ったので、せめて私が乗れる何かがあればと聞いてみたのだ。
「そうですね。今日は晴れてますし、夕方は観覧車に乗るとして、お化け屋敷などはありますね。」
「それなら行けるわ。お化け屋敷に行きましょうか。」
「は、はい。」
雅は詰まった返事をするが、都はそれに気づかない。
『何とか楽しむことは出来そうですね。橿原くんには感謝しかありませんね。そして相変わらず心が広くて素敵だわ。』
と、京は心の中で少しほっとしつつ、雅に感謝を述べ、最後に惚気けるのであった。
-------------------------
『お化け屋敷の要望が出てしまったかぁ...』
今度は雅が焦っていた。そう。雅はお化け屋敷が大の苦手なのである。
しかもここのお化け屋敷は日本一怖いで有名であり、かつ、50分近くお化け屋敷の中に閉じ込められるのだ。雅にとっては地獄でしかないが、ここの遊園地において遊ぶものがほとんどない京にとっては唯一楽しめる場所だ。
男の僕がここで弱気になる訳には行かないのだ。
僕は右手と右足を連動させながら「さ、さあ行こうか...」と言って歩いた。勿論無意識だ。それを見た京が「...?橿原くん。歩き方が変よ。」と冷めた声で雅に言う。雅は
「あっ!?申し訳ない!?」
と謝る。
「どこに謝る必要があったのかしら。」
と、京。
「いや、そうですね。ハハッ...」
と、かわいた笑顔で返す雅。
雅はお化け屋敷に入る前から恐怖と緊張で体がカチコチに固まっていた。それを京は見抜いたのか、雅に問いかける。
「...もしかして橿原くん、あなた、お化け屋敷駄目なのかしら。」
『これは誤魔化せない...』
『もう全て見通してるわ』と言う京の確信迫った視線と目つきに、雅は『意地張ってもしょうがないよな』と諦めて、京に本音を言うことにした。
「はい...僕お化け屋敷は本当に苦手なんです...」
「...」
流れる沈黙に『やっぱりこれはマズイッ!?』と雅が京の顔を伺う。雅が予想してた京の返答は「あなた男のくせにお化け屋敷が苦手なのね。フッ」だ。そんなこと言われたら男として号泣する。
が、実際の京の返答はそうではなかった。
「誰しも苦手なものはあるわ。私だってさっき絶叫マシンが苦手だって言ったばかりじゃない。私にはそういうことは正直に言って欲しいわ。」
と、クスッと微笑みながら雅を慰めた。京の回答に雅は...
『神だぁ...出雲さん神すぎるぅ!...美しくて可憐なだけでなくて心まで広いなんてぇ...』
と心の中で号泣した。『私だけには教えてね!』と言う京の遠回しの言葉は雅に届いていなかったが、少しして雅は
「ありがとうございます。」
と京に言って、二人でゆっくりと遊園地の中を散策したあと、夕方に観覧車へと向かうのであった。
______________________________
読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます