第7話 私の進展と惚気
京達は遊園地のゲートまで到着した。平日なだけあって人もそれなりにいる程度である。
『これならずっと並んで一日終わるということはなさそうね。』
相変わらず楓は太宰くんと楽しそうに会話している。
『楓は私に気を使ってくれてるのかもしれない。』
京は周りの雰囲気と前を歩く二人を見て現状のある程度のことを頭に入れておく。
『橿原くんには今日の移動の段階でどう思われているかは分からないけど、好印象ということは無さそうね。』
「...でも彼もせっかく高いお金を払って来てるのだから楽しまないと損よね...」
ボソッと京は考え込むように呟く。
『ここは私がまた勇気を振り絞って橿原くんに一緒に回らないかとお誘いをするべきよね。いや、お誘いだと断られたりでもしたら私の心は絶対に折れるわ。ちょっと頑張って、提案する感じで行ってみましょう。』
京は積極的に声をかけていくことにした。が、ここで雅を"お誘い"するという行為に緊張して声が強ばってしまった。
「橿原くん。あの二人を見る限り、私達とは別の行動になるわ。一人で回るのは貴方にとっても本望では無いでしょう?だから私と回りましょう。学生にとって貴重なお金が無駄になってしまうわ。」
「は、はい。そうしましょうか...」
『ギャーーッ!言った自分でも引くほど冷たい女って事だけは分かるわ!超上から目線じゃない!どうしましょう!!どうしましょう!!...って...』
「...え?」
「え?...いや、え?って...」
京は自分の台詞に『やってしまった。』と思っていたが、自分の命令に「はい」と言った橿原くんに驚く。
「え?...いいのかしら?」
一応京は雅にもう一度確認を取る。
「え、何がですか?」
「私と一緒に回ってくれるのかしら?」
「ええ。勿論ですけど...」
雅は京の命令に勿論と答えた。
『キャーーーッ!!橿原くん優しすぎないかしら!?やっぱり神よ!!橿原君は神様の子なのよ!!』
京は心の中でスキップしながら両手を上げて泣きながら喜ぶ。
こんな自分でも引くほど冷めているとわかる命令に乗ってくれるとは京は全くもって思ってなかった。
京は少し顔に出るほど浮かれていた。それを見た楓が少しニヤつく。悪い顔だ。
「『回ってくれる?』ってことは出雲さんも僕と回って欲しかったってことですか?」
「勿論じゃない!当たり前よ!」
京は勿論!と雅に左手でgood!と親指を立てる。それを見た雅はポカーンとした表情で京を見る。楓の隣で奏多が腹を抱えて笑っている。京はもう一度さっきの雅の声を脳内再生する。
そこで京は自分が何をしたのかに気づく。
そう。この質問をしたのは雅などでは無かった。楓だったのだ。
「ハッ!!...これは!その!違うのよ!」
京は顔を真っ赤にして雅に「No!No!No!」と両手を激しく振る。
何が違うのか分からないが、とにかく自分が雅のことを好きだということがバレて、余計に雅から避けられる事を懸念して「これは違う!」と何とか理解して欲しかった。
「まぁ、出雲さんが自分と回ってくれるのを嫌でないのなら是非ご一緒させてください。僕も誘うつもりだったので。」
「あ、ありがとう...ございます...」
この時、雅の言葉は京に「ご一緒させてください。」までしか届いていなかった。なぜなら、
『あぁ。神。控えめに言って神よ。私はあんな命令をしたのに、「自分と回ってくれるのが嫌でないなら」ですって。最高。最高すぎるわ。』
と、京は自分の素っ気ない酷い提案に、京視点で嫌か嫌では無いかで判断してくれる雅の心の広さに心の中で惚気けていたからだ。
『あの顔は...気づいてないわね...もし橿原くんの最後の言葉に京が気づいていたのなら、この2人が結ばれる未来がもう少し近づいてきたのかもしれない。
でも、京が今心の中で満足しているのも確かな事なのよね。
終わりよければすべてよしよね。
二人の恋はまだ始まったばっかりだし、ゆっくりゆっくり着実にゴールに近づいていけばいいんじゃない?』
と、楓は少し氷が溶けた女王様(表面上)の様子を見て思ったのであった。
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読んでくださりありがとうございます。
もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。
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