第6話 (僕+私)の移動と誤解

僕達は電車を降りて、乗り換えのホームに向かう。駅のホームにはさっきの6両とは比にならない15両編成の快速電車が入ってくる。快速っていう名前を聞くとなんか都会感があって急行よりも速そうなイメージがあるけど、会社によってその立ち位置は変わるらしい。


「ほぇ〜...長いね。雅、この電車何両くらいあr」

放送〈この電車は15両です。グリーン...〉


「アッハッハッハッハッ!」

「ぷっ」

「クスッ...」


奏多が雅に質問しかけるが、自動放送が『今言っとるから黙って聞いてろやぁ!』的な感じのタイミングで奏多の質問に答えた。


それがどこかおかしく感じて、奏多の『え?お前が言うんかい』的な顔に皆笑いを耐えきれなくなっていた。


場の雰囲気が和む。駅のホームに伊勢さんの大きな笑い声が響いて一瞬注目を集めたので少し恥ずかしい。出雲さんも伊勢さんから少し距離を取っている。


「楓、周りの人に迷惑よ。静かにしなさい。」

「はーい」


まるで親子である。


「まるで親子みたいとか思ってないでしょうね。」

「いえ、何一つ思ってないのでご安心を。」

「そう。」


危ない。動揺するところだった。言われる直前に思ってたなんて言えないし動揺したらそれバレるし、バレたらバカにしてるって思われちゃうし...


『大変だなぁ...』


恋愛と女性のご機嫌を損ねないようにすることのバランスは大変だなぁと雅は大きくため息を吐いた。


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『え!?ため息!?』


京は雅の最後の大きなため息に少し動揺を見せていた。いや、外から見ればいつもの控えめなツンツンしている(本人にそのつもりは無い)京だが、内心は明らかに焦っていた。その証拠に画面が着いていないスマホをタップしまくっている。


『あの質問、めんどくさいって思われたのかしら!?定番のノリツッコミみたいな事を言ってみたけど逆効果だったかしら!?』


二人ともまた内心焦り始めたのを奏多と楓は察したのか、定番の『あちゃー』と言った仕草をしながら電車に乗り込んで行くのであった。


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〈えぇ〜まもなく小月ぃ、小月でぇす。お出口は...〉


まもなく乗り換えの駅に到着する。ここで乗り換えれば目的の施設まで一本だ。この駅から富士山が見えるとか見えないとか。


「橿原くん、富士山はどこかしら、確かあなた地理マスターだったわよね。」

「いや、ここからはちょっと...」


出雲さんからいつもより口調で辛辣な質問が飛んで来る。それはまるで『待ってました』と言わんばかりに地理マスターという部分を強調して『それで分からないのに地理マスターなんて名乗る気?』とでも言いたげな口調である。


別に僕から自分が地理マスターだと名乗った訳では無いので、そこで『地理マスターなんて名乗る訳?』と言われても無理がある。まあ言われても出雲さんだから結局許しちゃうんだけどね。でも、


『完全に敵視されてない?』


流石に駅からは...見えないんじゃないかなと思ったので『ここからはちょっと』と言っておいた。いずれ大きく富士山が見えることは確実なのでその時に言ってあげることにした。


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ここら辺から山の景色が続いてきて、到着した電車も富士山のデザインをしてるので、そろそろ富士山が見えてもおかしくは無いのではないかと思い、地理マスターと言ってた橿原くんに聞いてみることにする。橿原くんと話すこともできるし一石二鳥よね!


「橿原くん、富士山はどこかしら、確かあなた地理マスターだったわよね。 」

『うん。ちょっと固いけどギリギリ許容範囲なのではないかしら?』


少しは言葉も柔らかくなってきたのではないかなとギリギリ自分に合格点をあげる。


さて、橿原くんの返答は?


「いや、ここからはちょっと...」


苦笑いで『分かりません多分見えませんすいません』と言った表情と口調で答えてきた。


これに京は『また何かやっちゃったかしら!?』と焦りだす。


いつもより軽い口調で言えたし、会話広げるために橿原くんの地理マスターの話も入れてみたし、富士山の話に上手く繋げられた。


正直少し硬いところ以外文句なしだと思っていた。京はもしかして...と


『もしかしてそもそも話して欲しくなかったのかしら!?さっきも思ったけど迷惑なのかしら...』


と少しテンションが下がるのであった。


その2人のリアクションを見た奏多と楓は、『何がどうしてそうなるねん』と心でツッコミを入れながら乗り換えの電車に乗り込んでいくのであった。


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読んでくださりありがとうございます。


もしこの作品を気に入ってくださったら、次回も是非よろしくお願い致します。

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