第5話 (僕+私)の電車の会話
〈まもなく、一番線に区間急行○○行きが六両編成で参ります...〉
僕たちが乗る電車の接近放送がなり始めて皆ドアの位置に並ぶ。
言ってなかったが僕達が今回向かうのは絶叫系アトラクションが有名な遊園地である。今日は平日なので混雑する心配はない。なぜ休みなのかと言うと、新城下高校の開校記念日は毎年始業式の3日後だからだ。なのでこの日は有名なテーマパークに行く新城下生が沢山いる。早朝5時の駅のホームにも見知った顔がそこら辺にいる。
僕達は駅のホームから到着した電車に乗りこみ、一列に並んだシートに腰をかける。ちなみに並びは僕の隣に出雲さん。対面に奏多と伊勢さんである。奏多は既に伊勢さんとの話に夢中になっており、『あいつら、お似合い過ぎない?』と思うほどに笑顔で話し合っていた。
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私は今橿原くんの隣に座っている。楓と太宰くんは何故かは知らないけど正面の席に座っている。二人とも楽しそうに話している。『私の気も知らないでしょうに。』と言いたくなるくらいお似合いだ。橿原くんもそんなお似合いな二人を真顔で見つめている。
もしかしたら橿原くんも同じことを考えているのでしょうか、
『黙ったままでも良くないでしょう。』と思い、私は勇気を振り絞って橿原くんに話しかけてみることにしました。
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「ねぇ、橿原くん?」
「はい。」
出雲さんが透き通った、どこか大人びた声で僕に話しかけてきた。
「あの二人の事、貴方はどう思うかしら」
「...悔しいですが、お似合いだと思います。」
「そうですか。」
とりあえず一旦は話の区切りが着いた。『結局出雲さんは何が言いたかったのだろうか。でも初めてちゃんと会話した気がする。』
と、雅は曇った心が少し晴れた気がした。
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『冷たい声にはなってしまったけど、何とか会話は出来たわね。』
初めて雅と会話した事に少し満足感を覚えつつも、京は心の中に引っかかるものがあった。
『にしても橿原くんの悔しいですがと言う言葉、何が悔しかったのでしょうか。』
京は気になって気になってしょうがなかった。だからもう一度勇気を振り絞って雅に質問することにした。
「橿原くん。悔しくもって...何が悔しいのかしら」
『ん〜!なんでもっと穏やかな口調で言えないのかしら』
ちっとも温かみの無い冷淡な自分の言葉に苛立ちを覚える。
京の質問に雅は苦笑いをしながらすぐに返答する。
「人の気も知れないで...って感じですかね...」
「...そう」
京は心が揺れた。『橿原くんが私と同じ事を考えている...』
橿原くんが仲のいい普通の男女の関係に憧れを抱いているとは、私は全くもって思っていなかった。
なんせあの橿原雅君だ。付き合おうと思えば可愛い子といくらでも付き合えるはずのに、高校入学以来、学校内の大抵の美女の告白を断り、『恋などしたく無いのではないか』とまで言われている橿原くんだ。
そんな彼が、こう言っては誤解を産むかもしれないが、普通の高校生のカップルのようなやり取りに憧れを抱いているのだ。
私は意外だと思うと同時に、希望も見えてきた。『彼が普通の恋を望んでいるのなら、私だって可能性があるはずよね。』と。私は心のモヤモヤが少し晴れた気がした。
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さっきから冷たい声ではあるが、出雲さんが食い気味に僕に話しかけてくる。流石に無言なのは嫌だったのかな?
それでも僕は彼女から話しかけられて本当に嬉しかった。僕は無意識に『もっと話したい。』そう思い始めていた。
でも僕の場合、好きな人に話しかけるのは結構勇気がいる。なぜなら出雲さんはさっきも冷たい口調、冷たい表情だったからだ。
これを嫌われていると取るか、はたまたその口調が彼女にとって普通の口調だと取るか...
『いいや、ぼくは男だ。こんな所で迷う僕ではない。』
僕は勇気をだして出雲さんに話しかけることにした。彼女が振ってきた話を急に変えるのは彼女のご機嫌を損ねる可能性もあったので、話に乗っかるように彼女に質問してみることにした。
「出雲さんは...二人を見てどう思いましたか?」
僕の中で心臓が暴れているように感じた。彼女は話に乗ってくれるか、それとも拒絶されてしまうか...
「私も...あなたと同じよ。人の気も知れないで...って思うわ。」
出雲さんは冷たい目で奏多と伊勢さんを見るようにして、ため息混じりにそう答えた。
僕は意外感を覚えた。
出雲さんが、言い方が良くないが、普通の男女のカップルのように見える二人に嫉妬の意を表した。
あの出雲京さんがだ。中等部入学以来、学校屈指の美男子たちの告白を断り続け、『恋愛に全く興味を示してないのでは無いか』とまで言われているあの出雲京さんがだ。
そんな彼女が普通のカップルのような2人のやり取りに憧れを持っていた。僕はついさっき出雲さんに、あの二人の行動に対して「人の気も知れないで」と言ったが、僕の方こそ出雲さんの気も知れてなかったのだなと痛感した。
それと同時に僕の心に希望の光が降り注いできたのを感じた。高嶺の花である彼女も、普通の恋愛を求めているのだと。そしてこんな僕でも可能性があるのではないかと。
そう思い込むだけでかなり気分が楽になった気がした。
気がつけば僕達は乗り換えの駅のすぐ手前まで来ていたのだった。
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