第2話 (僕+私)の挨拶。
私立新城下高校は今年で開校101周年を迎える歴史ある高校だが、校舎はピカピカ。開校100周年を記念して全校舎建て替えが行われたのだ。ついでに制服も僕らが入学するタイミングで学ランからブレザーに変更された。
新しい校舎は最新技術がふんだんに使われており、教室の鍵もICカード接触型である。わざわざ早朝に遠回りして職員室まで取りに行かなくて良いのだ。
僕は朝日が差し込み、反射する新しい廊下の床の上をコツコツと上履きの音を鳴らしながら歩き、ドアの上に二年特A組と書かれた教室の目の前で立ち止まる。
教室の電気はまだついていない。一番乗りだ。
僕はまるで新入生のようなワクワクとした気持ちで二年特A組の鍵に生徒証をかざす。ピピッガチャと音が鳴り、赤のランプが緑に点灯したのを確認して、※ソフトクローズの静かなドアを開ける。
人感センサーに反応して教室の電気が自動でつく。
僕はスマホの画面を見て、『うわぁ、はずれだぁ...』と思いながら1番前の右から二番目の席に座った。
クラスや席の場所は校舎玄関前に掲示してあったQRコードを読み取れば、席まで経路案内をしてくれる。
一番前の席は確かに嫌ではある。でも...
『可能性はあるな。』
なんの可能性か?それは言うまでもない。『出雲 京』さんの隣または斜め前の席である可能性だ。
出雲さんは頭文字が"い"なので頭文字に"あ"の人が二人いなければいいのだ。
出来れば1人もいて欲しくない。
生憎、自分と彼女の名前を探すだけで気持ちがいっぱいいっぱいだったので、出雲さんが上から何番目にいたかは覚えていない。
でも確実に言えるのは5分の2、確率で言うと40%は出雲さんと接する席である。
僕のクラスは25人。机の並びは5×5で、右から二番目の一番前の席である僕と接する席は5席で、番号順無しに考えると出雲さんと接する席になる確率はおよそ20%。そう考えると40%はかなり高い数字に思える。
僕は特にすることがないので机に伏せて、ブレザーを頭から覆い、仮眠を取り、予鈴のチャイムがなるまでの楽しみにしておくことにした。
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私はスマホの案内を見ながら二年特A組を目指す。私は出席番号一番だったので右端の一番前の席は確実。
問題は彼。私の後ろではないことは確実。となると接するのはたったの二席。確率が低すぎる...彼の頭文字は"か"。彼が右から二番目の列の一番前か、はたまたその後ろかで、そう考えると確率は低くはない。
『くぅぅうう』
考えれば考えた分だけ緊張してきて、心の中で声を上げる。そしてスマホの経路案内が終了し、既に電気がついていて鍵のかかっていない教室のドアを開ける。
緊張の一瞬。
既に私の隣の席には男子生徒が着席していた。
ドクンドクンという心臓の拍が実際に感じるくらいにまで心拍数が高くなっていくのがわかる。
その男子はブレザーを頭から被っている...背中の真ん中ら辺から頭のてっぺん、腕全体まで隠れている。
『だ...誰だかわからないわね...』
まだ誰とは分からないけど、女子ではない。そこに先ずはほっとする。いや、女子の方が話しかけやすくて気が楽なのだけど、それとこれとは話が別なのです。
とりあえず自分の席についた。隣の子は寝息を立てていて気づく気配はない。
『はやくそのブレザーを取ってくれないかしら...』
心の中でその男子に急かす。
私は予鈴がなるまでソワソワした気持ちでその男子の様子を心の中では五分おきに確認していた。
『もういっそ早く予鈴なってくれないかしら...』
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キーンコーンカーンコーン...
『予鈴だ!』僕はムクっと起き上がって被ってたブレザーを正規の着方に正し、ずっと気になっていた右を向く。
真っ黒なストレートロングの髪の毛の女の子と目が合った。
『え!?まじか!』
僕の隣の席は...
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キーンコーンカーンコーン...
『予鈴が鳴ったわ!さぁ!早く起きてその正体を現しなさい!』
予鈴がなり終わった直後寝ていた男の子の寝息はスッと止まり、ムクっと起き上がってすぐにブレザーを正す。そしてこちらを向く。
サラサラの黒い長めの髪をした男の子と目が合った。
『え!?嘘!?』
私の隣の席は...
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「出雲さん...」
「橿原くん...」
二人は思ったより弱腰な声で互いの名前を呼び合う。と言うより、声が漏れてしまう。
ハッとした二人は最初に言葉が詰まりつつも初めましての挨拶をする。
「は、初めまして、橿原と言います。次の席替えまでよろしくお願いします。」
「ぇ...えぇ。私は出雲です。次の席まで短い時間ですけどよろしくお願いするわ。」
二人とも硬い敬語口調になってしまう。しかし今の二人にそんなことはどうでも良くて...
『出雲さん...「短い時間」って...僕は嫌われているのかぁっ!?』
『橿原くん...「次の席替えまで」って...私は嫌われている!?』
特に意図して言った訳では無い言葉に深く深くショックを受けた。それと同時に、近くで彼を、彼女を見た時に、遠くから見るよりもずっとかっこよくて、可愛くて、余計に距離を感じてしまった。
『こ、これは...』
『厳しいわね...』
両片思いの二人は物理的距離は限りなく近づいたものの、心的距離はまた少し離れてしまったのだった。
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※ソフトクローズ : 引き戸のタイプのドアで、扉を開けると、一番奥まで行かない限り、ゆっくりと元の位置に戻っていくドアのことです。
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