第4話


「──こんな感じですけど……」


「……」


彼女による一連の話を聞いて、僕の脳内CPUは処理落ちしかけていた。


だってそうだろう。

理解が出来ないのに、また理解が出来ない話をされるんだ。

それも何度も。

クロは要所要所で丁寧な解説をしてくれたが、正直に言って、彼女の話の半分も理解する事が出来なかった。


「申し訳ございません。こんなことを一度に告げても混乱するだけですよね?」


「……正直言うと、少し訳分かんなくなってる」


明らかに落ち込んでいる少女。

だけど、僕は「でも」と続けた。


」クロがそう言う体験をしたなら、それが事実なんだと思う。それに、今は分からなくてもこれから少しずつ理解して行くから、心配しなくても大丈夫だよ」


「でも……」


やせ我慢に見たのだろうか。

心配そうな表情になるクロ。


「本当に大丈夫だよ」


──心配してくれてありがとう。

とニコッと微笑む。


「はい。 貴方がそう仰るのでしたら……」


僕の微笑みを見て、彼女もようやく落ち着いた。

湯呑みを口につける。

お茶はまだ温かった。


「……ところでさ」


話題を変えたのは、それから間もなくだった。


「クロはこれからどうするの?」


「あっ、その件ですが……」


「ん?」


どうしたんだろう?

湯呑みを置き、僕はクロの顔を見る。

彼女の顔は少しばかり赤くなっていた。


「貴方さえ良かったら、その……また一緒に暮らせませんかな、と……」


モジモジと告げるクロ。

さっきまではしっかりしていたから、ついつい可愛いと思ってしまう。

そして、僕の答えは決まっている。


「大歓迎だよ。また、前みたいに楽しく暮らせるなら、僕も嬉しいからね」


「……本当によろしいのですか?」


「何で?」


僕はクロが何故そんなに念を押すのか分からなかった。

だが、少し考えた後、ようやく彼女が顔を赤らめている訳が分かった。


「そっか……今は人間の女の子だもんね」


そう。

彼女の提案を呑めば、今日から自分と同い年くらいの美少女と生活を共にすることになるのだ。


「私は別に構わないんですよ? ですが、もし貴方が嫌だって言うなら……」


彼女の言葉に「そんなことないよ」と声を荒げて否定する。

その声量は発した張本人である僕も驚いてしまった。


「あっ、ごめん……」


思わず謝罪する。

だけど、次の瞬間、何か暖かい物が僕の体を包み込んだ。


「ありがとう」


近くでクロの声がする。

どうやら僕は抱きつかれたらしい。

一気に体が熱くなる。

もし漫画の世界だったら『だきっ!』なんて擬音がつくかもしれないほどの密着だった。


「私ね……貴方に一緒に暮らすが嫌だって言われたら、どうしようかと思ってました」


「そんなことないよ」


また即座に否定する。

だが、今回はあんまり声が出なかった。


「どうして?」


「だって……僕は、クロの事が大好きだから……」


横を向きながら、人差し指でポリポリと頬を掻く。

たぶん、僕の顔はりんごみたいに真っ赤だろうな。


「……本当ですか?」


「ここで嘘を言って、どうするの?」


その言葉に、クロは「そうなんだ……」と微笑んだ。

そして僕の体から少し離れる。


「私も貴方の事が大好きでした。数年前、雨の日に私を拾ってくれたあの日から。 そして、今はもっと好きなんです。大好きです!」


告白。

それも美少女からの人生初の告白だった。

赤かった顔がさらに赤くなる。

それは彼女も同じだった。


「……うん。 僕もクロと出会ったときから大好きだった。 キミの見た目が可愛いと思った。 キミの瞳に憧れた。 でも、それはキミを飼い猫として好きだったのかもしれない」


申し訳なさそうな表情になってしまう。

だが、クロはそんな僕に「良いんです」と笑いかけた。


「例え、猫としてでも、人間としてでも、私は貴方が私自身を好きになったくれた事自体がうれしいんです」


だから、そんな顔をしないでくさだいと、もう一度抱きつかれる。

1回目は再会の抱擁。

2回目は告白の抱擁。

そして今は感謝の抱擁。


「クロ……」


また彼女の優しさに心が満たされる感じがした。

思わず「うん」と頷いてしまう。


「僕は猫だったクロも、今のクロも大好きだよ。 だから、これからも、一緒に暮らさない?」


今度は僕が彼女に笑いかけた。

すると、クロは満面の笑みを浮かべて答えたのだった。


「はい!」

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死んだ飼い猫が女の子に生まれ変わって帰ってきたお話 綿宮 望 @watamiya

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