第3話
リビング。
数年ぶりに他人がやってきた。
しかし、そこは決して他人の為に使用される事を想定している場所では無かった。
「汚い部屋」
「……ごめん」
リビングとは何か?
そんな疑問が浮かび上がるほどの光景がそこにはあった。
ついこの間まではクロが死に周りの事を気にしている状態では無かったが、改めて見てみると、本当に酷かった。
「ごめん……」
もう一度、謝罪。
しかし、絶句していたのだろう。
何の返事も無かった。
「……」
しかし、改めてみてみると、僕も酷いと思ってしまった。
リビングとは本来、住人がくつろげる部屋である。
だが。目の前にある光景は、そんなものを微塵も感じさせない有り様。
広い部屋いっぱいに雑誌、脱ぎ捨てた服、お菓子の食べ残し、その他いろいろなものが所狭しと散乱していた。
「……」
一応、ソファやテーブルと言った家具はある。
あるが、その上もいろんなモノが占領している。
一言で例えるなら──ブタ小屋。
あの臭い匂いがないだけこっちの方がマシだろうか?
でも、こっちも臭い気がする。
「たったの1週間放置するだけで、こうなるのか……」
「1週間でもこうはなりませんよ」
「……だよね」
こんな汚い部屋に女の子、それもかなりの美少女を入らせるのには、かなり抵抗がある。
でも、彼女はスタスタと部屋の中に入っていった。
「酷いですね……」
「ごめんなさい」
頭を下げることしか出来ない。
床にあるゴミを少し物を退かしただけで、埃が舞い上がる。
どんどん舞っていく埃。
見なかったことにした。
「……」
少し進むと、そこからはキッチンが見えた。
汚れが付いた鍋が、流しの中に無造材に放置されており、食器棚にはコップが芸術的な高さにまで積み上げられている。
あそこまで絶妙にバランスを保てる積み上げ方をマスターするには、相当な年季が必要だろう。
つまりだ。
ゴミ屋敷によくあるゴミが詰まった袋こそは無かったものの、ここは魔境であった。
「……まずは掃除をしてからにしましょう?」
「はい……」
早速、僕は家の主導権を取られるのであった。
***
「あー、疲れたぁ……」
数時間後、僕はソファに身を投げ出した。
たぶんだらしない格好だと思う。
「ご苦労様です。 はい、お茶淹れておきましたよ」
「ああ、ありがとう」
……あれ?
なんだろう。
立場が逆転したと言うか。
なんか僕がお客さんみたいじゃ無いか?
それよりもよく場所が分かったな……。
「つい、この間までここで暮らしていましたから。 だいたいの位置は覚えていますよ」
「ああ……」
そうだった。
生まれ変わりなんだっけ?
凄いものだ。
……なんで心の考えが分かるのかは、この際無視することにする。
「……」
沈黙がその場を制ずる。
湯呑みに口に近づける。
久しぶりに飲んだ緑茶はとても温かった。
「それでさ……」
「はい?」
「君は──クロはどうして転生することができたの?」
最も聞きたかった質問がようやく判明する。
僕は次の彼女の言葉を聞く為に耳を傾けた。
「それは……」
「うん」
「実は……私にも良く分からないんですよ」
「へ?」
斜め上も答えに思わず変な声が出てしまう。
「あの日……貴方を庇って私が交通事故で死んでしまい……それから──」
「庇ったって……」
やっぱり、クロが庇ってくれたんだ。
でも、そのせいでクロを殺してしまった。
僕は席から立ち上がり、「ごめん」と頭を下げた。
だが、彼女からの返事は「辞めてください」と言うものだった。
「でも僕が……」
ちゃんとしていなかったから、とは言えなかった。
彼女が首を横に振ったのだ。
「あれは貴方が悪いわけではありません。それに、私はこうして再び貴方と会えた。 それだけで十分じゃないですか?」
「クロ……」
彼女の優しさに、僕の心は落ちつく事が出来た。
久しぶりに感じたこの感覚。
“嬉しい”のだろう。
「じゃあ、改めて。 さっきの話の続きを話しますね?」
「うん」
クロは一呼吸置くと、語り始めた
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