オーガ(父) 編
第37話
一行は、ゴブリンさんが行きたいというところを優先した。
今までの旅はほぼほぼ冒険者たちが与えられてしまった無理難題を解決するために、ゴブリンさんが協力者……協力モンスター? として一緒に行動をしていただけなのだ。
そういうわけで冒険者たちは感謝の気持ちも込めてここはゴブリンさんを優先して当然だと満場一致で決まったのである。
……別に戻ってからのギルド対策が面倒だから目を逸らしているわけではない。決して。
最悪リッチやゴブリン村のみんなに匿ってもらえば生きていける。
寧ろギルドで
「で、ゴブリンさんこの道って確か……オーガの兄貴さんに会いに行くのか?」
「違ウ」
「おっ、じゃあとうとうオーガ娘ちゃんに告白する気になったのか!」
盗賊男の言葉に、先を歩くゴブリンさんの耳がぴくぴくと動く。
その様子を肯定と見た盗賊男がにやぁーっと笑みを浮かべる横で、女性二人がぱっと表情を輝かせて興味を示した。
「えっ、今から行くですか、では途中でお花など用意しては?」
「プレゼントとかお土産とかは用意しなくていいの!?」
「うっわ出たよ、そうやって女はすぐ貢がせようとする……」
「うるさいな、お前とゴブリンさんを一緒にするんじゃない!」
「そうですよ、大体飲み屋のおねえさんたちに振り向いてもらいたいからと貢いでいたのは自ら選んだ行いでしょうに……」
「くっそ容赦ねえ!! 仲間なのに慈悲がない!!」
いつものようにギャァギャァと騒ぎ出した一行を、遠目にモンスターたちが見物しているが気にしてはいけない。
もはや彼らは森に受け入れられているのである。
ただし、弱肉強食の掟に則って、空腹な魔獣などがいたら襲われるかもしれないけれど。昨日の友は今日の敵、それが弱肉強食の掟なのだ。世知辛い!
その場で足を止めて言い争いを始めた仲間たちの様子に呆れつつも、男戦士がちらりと視線を向けて「悪いなア」と言えば、ゴブリンさんはただゆるゆると首を左右に振っただけだ。
「ソンなに間違っテイないイ」
「ん?」
「オデ、オーガ娘ちゃん、告白したイ」
照れくさそうな表情(多分)をしたゴブリンさんの口から、はっきりとそう言葉が出た。そのことに思わずギャァギャァ騒いでいた冒険者たちもぴたりと争い止める。
大きな声ではなかったのに、それははっきりとしていて、それこそがまさにゴブリンさんの決意なのだと感じさせた。
ぶわっと涙を浮かべた盗賊男がゴブリンさんと肩を組むようにしてバシバシと叩けば、ゴブリンさんは嫌そうな顔をするがそれでも引きはがすことはない。
「頑張れゴブリンさん! 骨はオレが拾ってやらぁ!!」
「お、おゥ……」
「そんじゃあ一世一代の告白だもんな! オーガ娘ちゃんに出てきてもらって花畑とか雰囲気ある場所……」
「違ウ、まずオーガ父、会う」
「えっ?」
オーガ父と言えばあれだ。
ダンジョンの
そして最近冒険者たちも知ったことであるが、モンスターにも家族愛が存在しており、それはゴブリンさんたちだけが少数というわけではないのだということだ。
というわけで、オーガ父は友人の息子であるゴブリンさんのことも可愛がってくれているようだったし(物理)、娘と息子を大事にしていると親父さんも教えてくれた。
そして友人が受け入れている人間である冒険者たちのこともある程度は受け入れてくれているようだったことから、寛容の心も備えているのではと思うのだ。
単純に言語的交流ができなかったので雰囲気で判断した点は否めないが。
「なんでまたオーガの親父さんに会うんだ?」
「オーガ娘ちゃん、告白すル。まズハ道理を通ス! オーガ父の許シ、もラウ! マズはそコかラ!!」
「漢前かよ!!」
魔物の世界は弱肉強食でどこか獣のようであるが、彼らなりの秩序が存在する。
中でも異性交流……つまり嫁取り問題は大きな比率を占めている。
それは次世代を繋ぐためなのであるから当然と言えば当然であるし、ダンジョンの主たるモンスターの娘を「本人が良いと言ったから」であっさり雑魚モンスターにくれてやったとあってはオーガ父の立場上よろしくない。
勿論、冒険者たちから言わせると明らかにあのオーガ娘はそんじょそこらの雑魚なんか目じゃないしむしろボスモンスタークラスにしか見えないのでその彼女が認めたんならそれでいいんじゃないかと思わなくもないのだが。
ついでに言えば、ゴブリンさんだって人語を解すわリッチやらドライアドたちから信頼されている様子だわで、要するに雑魚モンスターと呼ぶのはいかがなものかと思うがそこはまあ突っ込まなかった。
だがなによりも、道理を通さねば告白するわけにはいかないと鼻息荒く覚悟を見せたゴブリンさんに、思わず全力で盗賊男が突っ込んだがその内容は寧ろ感心しているようだ。
「くっそ、ゴブリンさんかっこよすぎるぜくっそう……!!」
「盗賊男、なンか暑苦シイ。離れテ」
勢いづいた盗賊男が抱き着こうとするのをゴブリンさんは全力で拒否する。
なにせ盗賊男からすると、今まで『とりあえず彼女欲しいから声かけよう』精神でチャレンジして失敗してきた男。
なので、道理を通す……その姿勢カッコイイ……そういう感化されやすさがどうしてもあるのだ。まあ、じゃあそれを実践できるのかというとできるタイプではないので結局ナンパの絨毯爆撃で大体失敗するオチなのだが。
「あーあ、また始まったよ……」
「落ち着いていれば割と見目好く見える方なのですが……」
冒険者としての盗賊男はそれなりに優秀な男なのだが、こういうところが残念なのだよなあと女戦士が呟いた気がするがそれを彼が耳にすることは、なかった。
ある意味愛嬌と取れなくもないのですが、と女神官がフォローめいたことを口にするが、その後が続かなかったのでやはり世の中は厳しいらしい。
その辺りは総スルーで顎をさすった男戦士が、うん、と頷いた。
「そういうことなら、見届け人になってやるからな」
「アりガトう」
「だが行ってすぐ相手してもらえるもんなのか? ダンジョンの主だろ?」
「どウセ、最深部まデ辿り着く冒険者、ソウ、いナイ」
「あー、あのダンジョンの場所も知ってるやつがいるかどうかだしな」
何せ冒険者たちも知らなかったのだからギルドで把握している人間がどれほどいるのか。その事実がまずあったので、確かにそれなら暇なのかもしれない。
寧ろ暇つぶしということで喜んでひねりつぶしに来るかもしれない。
「……物理的に骨を拾う話にならないよう、頼むぜゴブリンさん……」
どこの世界でも、娘を簡単にくれてやる父親は少ないのだろう。
もし自分が妻帯して娘がいたなら、きっとどんなに良い相手だろうと一発ぶん殴るだろうと常々思っている男戦士はオーガ父の気持ちに勝手に同調しつつ、それでもあの破壊力を思うと友であるこのホブゴブリンの無事を願わずにはいられないのであった。
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