装備の行方を追え! 編

第21話

 この山中のどこかに勇者が勇者装備を封印したらしい。

 その言葉に、オーガ父も顎をさすって考える様子だった。


 ちなみに、ダンジョンの記憶によるつい最近の画像ではオーガ父が満面の笑み(怖い)でマグマに浮かぶ小島の上、マグマでできたゴーレムであるラヴァゴーレムを素手でぶん殴っている姿だった(怖い)。

 ちょっと気になって何してたのか聞いてみたところ、日々の鍛錬なのだとか。

 マグマぐらい素手で掴めないでどうすると逆に問われたのでモンスターも大変なんだなあと遠い目をした男戦士だったが、オーガ兄に必死で否定されたのでやっぱりオーガ父が特別脳筋なだけだったようだ。


「ぐぉ……、お、おお……?」


「グギャ?」


「グアアアアア!」


「な、なに!?」


 突如として目を見開いて大声をあげたオーガ父に、冒険者たちは思わず身を竦め身構える。

 だがオーガ父のアイアンクローを喰らってダメージを受けているはずのゴブリンさんはどこかぐったりしつつも慌てる様子はない。

 もしかしたら頭を掴まれて揺さぶられるそれにちょっと危機感がドロップアウトしているだけなのかと冒険者たちが心配そうに視線を向けたところでゴブリンさんとオーガ父がどうやら会話をしているのだとようやく気が付いた。


 いやだって、グギャグギャ、ぐおおで会話だってすっかり忘れていたよ。

 彼らがあまりにも人語を上手に操るものだから……。


「オーガ、言う。山中、一杯、穴、あル。風穴、鍾乳洞、たダの洞窟。色々。全部見る、無理。オデの父親、占う。きっト結果出す。言う。……ちょット心配」


「父親の事をもっと信じてあげよう!?」


「マア、シャーマン歴、長いシ……大丈夫、多分大丈夫……ダイジョウ、ぶ……?」


「ちょっとそんな疑問形で終わらせないで!? 頼りになるのが親父さんなんだろ!?」


「多分! 大丈夫! ……だト思ウ?」


「だから!!」


 どうしてこうゴブリンさんが懐疑的なのか、冒険者たちにはわからない。

 自分の父親だけにちょっと照れるのか、それとも反抗期なのか。うん? モンスター家族にも反抗期ってあるんだろうか。いや、コミュニティを形成しているし文化的でもあるのだし、あってもおかしくはないのだけれども。

 なんだろう、モンスターってなんだっけ。


 考えてはいけない。感じるままでいいんだ!

 なんて誰かが呟いた気もしないでもないが冒険者たちは深く考えることを辞めた。


 そして彼らはまた徒歩でダンジョンを後にしたのであった。

 結局、ヒントは元来た場所――平和なゴブリン村にあったなんてどっかで聞いた笑い話みたいなオチじゃないかと思うんだがそこんとこどうだろう。


 ちなみに、ゴブリンさんの恋路だがこちらは何気に順調なようだ。

 例のスライムキングから生えた花は大変喜ばれたようであったし、オーガ娘の方も顔を赤らめていたし、そんな二人の様子をオーガ兄とオーガ父が歯ぎしりしながら見守っていたし。あれは怖かった。


「それじゃあ戻るまでにできることを考えようぜ」


「そうだなあ、どうせ徒歩で来た道を戻るわけだしな」


「封印の場所を見つけたとして、どうやって封印を解くか、とか?」


「そりゃ封印の場所を見つけたんなら報告でいいんじゃないか? 行方を探せしか言われてないじゃん」


 盗賊男が尤もな意見を言うが、それに対して女神官が難しい顔をした。

 理由は言わずもがな、勇者が“封印すべき”と判断したということは危険物である可能性があるからだ。

 伝承と共に残されている絵で見る限りは美しい装飾の施された装備としか思わなかったが、実際はどうなのか怪しい。

 なにせ勇者が世界を救った事こそ事実だ、その勇者が『危険』と判断したのだから。


「場所を見に行くのすら危険という可能性は?」


「……それもあり得るな。なあ、ゴブリンさんはどう思う?」


「安全かドうカ、占エば? オヤジ、占う、得意!」


「そっか、シャーマンだもんな」


「ちなみにどんな風に占うんですか?」


「骨! 使う!!」


「わぁぉ、超原始的だった!!」


 まあ水晶玉を使ってやるような、占い小路と呼ばれる街の路地に居るような怪しげな連中と同じにするのも変だろう。ゴブリンシャーマンな訳だし。“ジョブ:シャーマン”で“種族:ゴブリン”なわけだし。

 しかも村長してるくらいだし。


 いつもちょっとした失言をしては嫁オークのアイアンクローに悲鳴を上げたり語尾がゴブであるお茶目なゴブリンシャーマンだけど、もしかしたらすごい力を秘めているのかもしれないし。なにせダンジョンマスターであるオーガ父が推薦するくらいなのだから。

 あ、でも友人関係だからか?


 そんな考えが冒険者たちの脳内を駆け巡ったとか駆け巡らないとかよくわからないが、まあ他に今のところ頼る術もない。


「後、変ナ薬とカも作レる。惚れ薬、自白剤、麻薬、そのほか、なんでもゴザレ!」


「ちょっと待て、なんか色々ヤバそうなもんばっかりじゃねえか!」


「惚れ薬!?」


「馬鹿につける薬はないのかな」


「そレはチょっト……なイ、と思ウ」


 そっと女戦士の真剣な小声に、ゴブリンさんも真剣に、そして申し訳なさそうに首を振る。

 誰を指し示しているのかは言わない。だって二人とも大人だからね!


「でもよく考えたらモンスターの薬って俺たち人間にも効くのか?」


「効ク。強さ、違ウケど。あ、でモ……惚れ薬トカは、わかラない。需要、ナイ!」


「需要、アル!!」


「お前は黙っとけ」


 盗賊男の口に土産で持たされたオーガ娘の拳骨スコーンが詰め込まれた。

 ちょっと深く入った気がしないでもないが、女神官がすかさず水筒を渡していたので大丈夫だろう。


 惚れ薬に関しては、その昔は需要があったんだそうだ。

 婚姻をしやすくする、という目的ではなく円滑に他種族と友好関係を築くためだったらしい。


「惚れ薬、調節する。好感度アガル! ……らしい?」


 というのも、ゴブリン村の初代がそうやって使うといいよと勇者から教わったんだとか。

 勇者は賢者から教わったそうなのでロクな使い方してねえな! と冒険者たちが思ったのは秘密だ。

 ちなみにそれを証言したのは、勿論リッチである。


 平和を愛すゴブリンたちはその存在をほかのゴブリンに疎まれたりもしたので、色々と最初の頃は苦労したらしい。

 住処を求めて転々と土地を移動し、その先で他の種族の集落と取りあえず戦争になる前に友好関係を築くために用いていたと考えるなら、相当平和目的の使用なのでちょっと色々勘繰ってごめんね、そういう気持ちを冒険者たちに抱かせた。

 寧ろパーティ内で疚しい目的に使おうとしたヤツがいて大変申し訳ございませんでした、となったわけだがゴブリンさんがそれを知ることはない。


 そして彼らが無事にダンジョンからの帰路を歩み終えたその時、ゴブリン村では。


「助けロくださイ冒険者たちゴブ」


「親父さん、なにしてるんだ? 新しい遊びか?」


「そんなワケないゴブ!!」


 柱に括りつけられた、ゴブリンシャーマンである村長がいたのだった。

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