第20話
そして、冒険者たちにとって最大の目的である『ダンジョンの記憶』であるが、これは意外とあっさり読み取れた。というか、脳筋オーガでも扱えるようにリッチが相当昔に弄ったんだそうだ。
生前、女装癖がある死霊使いだとしてもリッチはやはり賢者の弟子であったというその実力は凄いのだ。
例えリッチになった今でもその有り余る魔力を使って魔法蟲の繭から紡いだ糸でドレスを量産して着てみたり、藁人形を大量生産してそれにドレスを着せたりとちょっとアレがアレなところがあって能力の使い処を色々間違っているような、おかげで世界が平和なような感じだとしても。
とりあえずかつては人物だったけれど今はモンスターであることには違いない。
色々情報過多すぎるけれども。
とりあえず、そんな物悲しくなる理由はともかくとして魔法遺物に縁があまりない冒険者たちからするとその操作性が単純化されているのは大変ありがたいことだ。
流石に女僧侶はこの中で一番魔法のものに関して詳しいし、盗賊男だってそれなりの知識はあるがここまでものすごいお宝にお目にかかるなんて高ランク冒険者に名を連ねて尚、一生あるかないか。そのレベルの代物だ。
具体的になんだそれ、となるとちょっと難しい原理などは置いておくとして。
まず、このダンジョンというものには人為的なものと自然的なものがある。
元々魔力溜りと呼ばれる現象が合って、自然に消えてしまうそれが消えずに土地に影響を及ぼした結果だというのが見解だ。
で、それを人為的に生み出すオーバーテクノロジーが存在したと言われている。あくまで古文書に。
今はそんな危険な術はだめだといった時代を経ているので作り方はわからない。
とにかくこのダンジョンは人為的なものであり、故に記録装置のようなものがある。
かつて勇者はここで心身を鍛え上げたという伝説の通り、記録には勇者らしい人物と、そのそばに寄り添うように立つ偉丈夫の姿を捉えていた。
ただ、映像化して出してくれるのはいいがノイズが激しい。経年劣化というやつなんだろう。
音も殆ど何を喋っているか不明瞭だ。
「無駄足だッタか?」
「いや、世話になってンだ、元々情報なんてあってないようなもんだしよ」
ゴブリンさんが労わるようにぽんと男戦士の肩を叩く。
あれ、なんだろう。町のお偉いさんみたいに「いいからなんでもいい。情報持ってくるまで帰ってくるんじゃないよー」とかブラックな物言いに晒された彼らにはその優しさがやたらと沁みる。
すん……と悲し気な表情を浮かべる冒険者たちに、オーガ兄が戻ってきてドン引きだ。
どうやらオーガ娘が客人の為に茶の用意をしてくれたらしい。
舞い上がるゴブリンさんに盗賊男が若干ギリィっと歯ぎしりして「羨ましくなんて、ねェ……ッ!」と呟いていたが誰も気にしない。もう慣れてる。
そしてオーガ娘が持ってきたお茶菓子がちょっとオーガサイズなスコーンだったんだけども。
美味しいのがまた何とも言えないが、ほおばるほどに口の中の水分が奪われていく。もうモンスターが出して来たからって動じることなく食べるようになった冒険者も肝が据わってきた。
というかこれもきっと慣れだ。
「あ、ああああ!!」
「どうした!?」
淹れてもらったお茶を飲みながら、映像を見ていた女僧侶がびしっと指さした先には偉丈夫だ。
顔の部分は不明瞭だが、長い金髪が見える。
「あれ、あの方は賢者さまです! 私、絵姿を修業した寺院で拝見いたしましたもの!! あの装備、当時寺院で最高のモノだったはずです!!」
「装備……あっ、そうか! 装備の絵は残ってたんだもんな! おい、勇者の装備わかるか!」
「ガッテンだ!!」
盗賊男が映像を睨むようにしてじぃっと見つめる。
不明瞭な上に、色合いも褪せ始めているそれでの判別はなかなかに難しいものだ。
だが盗賊男がきっぱりと言った。
「口元が見えた」
「え?」
「待て、言ってることがわかるかもしれねぇ」
それまで不明瞭だった勇者の顔も、賢者の顔も、やっぱりはっきりは見えない。
だが口元が映っている。あまりにもささやかなそれで、何がわかるというのかと不審そうな仲間を他所に盗賊男が今日一番の笑顔を見せた。
「わぁった!! わぁったぞ、装備は山中に封印したんだ!!」
「ふういん……?」
「山の、中にですか?」
「おう、この見えてた範囲で読み取ると、『勇者』『精霊』『封印』『山の中』『あれはダメだ』『危険』ってまあぶつ切りだけどよ。勇者の装備には精霊が宿るって昔っから言うだろ?」
胸を張って言う盗賊男に、冒険者たちは顔を見合わせた。
ちなみに、ゴブリンさんはオーガ娘と対面で座ってもじもじしていた。爆ぜろ、と盗賊男が呟いたかどうかは定かではない。
「だがよ、その装備の精霊が勇者を見つけてくれて魔王を倒す旅で導きすら与えてくれたんだろ?」
「そのように伝説では……」
「それぞれの装備にそれぞれの精霊が宿るのでしたっけ」
「いえ、精霊そのものは個であり全、全であり個です。それぞれの装備にそれぞれ宿るという考えは間違いではありませんが、別の存在というにはあまりにも近しく……」
「ごめんアタシそういう難しいのはちょっと」
理知的に見えて女戦士はやっぱり脳筋枠である。
女僧侶の説明もそこそこに、拳より大きなスコーンを齧る方に意識をあっさりと向けた。
だが問題は“伝説の勇者(がどこかに持って行ってしまった装備)”の行方だ。
山の中と範囲が狭まったかと問われると結局広すぎる。
伝説で関係がありそうなのは山頂だが、山の中と言っているなら違うかもしれない。そうなると徒労に終わるだろうし、何よりそんなとこまでたどり着けるか。
こちとら一般の冒険者であって、勇者じゃないのだ。
伝説の勇者が辿った道をそう簡単にいけるわけがない。
「どうしたもんか……」
「オヤジぃ、聞いでみるがぁ……?」
「オーガの親父さんか? 詳しいのか?」
「山ん中ぁ、オヤジの縄張りだぁ……」
どうやら悩む冒険者たちを見かねたらしいオーガ兄がオーガ父に話を通してくれるらしい。
ここのモンスターも男前か。
思わずその親切にじぃんと感動する冒険者たち。
どうしよう、最近同じ人間よりもモンスターの方が親切に接してくれている気がする。
そんな風に思ったのは口に出せない。
でも冒険者たちの思いは同じだったのだろう、互いに目配せして、うん、とひとつ頷いた。
決して口には出すまいと。
出したら何かが終わる気がする。
「そうだ、ここまで来たならもうちょっと付き合ってくれよなゴブリンさ……ん……」
ゴブリンさん?
知恵を貸して欲しがっている冒険者たちを他所に、まだオーガ娘と向き合ってモジモジしていた。
この後、オーガ兄に請われたオーガ父がやってきてゴブリンさんにアイアンクロー(弱)をするのだけれども「助けろ! クださイ!」そう叫ぶゴブリンさんからそっと冒険者たちが目を反らしたとしても。
ちょっとその気持ちがわかるかもしれない。
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