第18話
協議の結果――冒険者たちとゴブリンさんは、ダンジョンへ徒歩で向かう事が決定した。
ロックバードは慣れていないと落ちるだろうと他のゴブリンがぐぎゃぐぎゃと忠告してくれたのだ。ありがとう知らないゴブリン! いや見知っているのかもしれないけどゴブリンさんほどに見分けはつかない! でも親切にありがとう!!
野営準備等をしての別日に出発となった一行は、やっぱり珍妙な一団である。
先頭はホブゴブリンのゴブリンさん。軽装でリュックを背負ったその姿は単なる山登りのおっさんみたいだけども戦闘はそこそこできるらしい。オークレディであるおっかさんのアイアンクローで鍛えられた石頭が特徴だ。見た目ではわからないけど。
今回はオーガ娘にちゃんとお土産も用意しているらしい。そこのところ恋する男である。まあ渡す前にオーガ(父)に握り潰されそうだけれども。色々物理的に。
そして重武装でしっかり準備万端の冒険者たち。
こちらはいつ怪我をしても良いように、野営で物資が不足しないように、あーでもないこーでもないと準備した結果である。主にパワーファイターである男戦士と女戦士が担ぎ、ゴブリンさんと共に先頭を歩く盗賊男が哨戒に当たる。そして一行の中心に女神官という構成だ。
なにせこの森はリッチが治める
弱肉強食で食われる方が弱いんだからしょうがない、生きるためだもの、が横行する自然界だ。
そんでもってモンスターは割と自分のテリトリーを大事にするので間違って立ち入ろうものなら戦闘が起こっても文句は言えない。
これは人間界でもありがちなのでやっぱり本能的問題なのかもしれない。
「ゴブリンさん、土産なに持ってきたんだ?」
「スライムキング、たまに花咲ク。ソれ綺麗! 後、スライムキング、病気のモト、宝石なル。それモラった! 綺麗!」
「へぇー、花と宝石かぁ。……なんだろう、オレがこないだ飲み屋のねーちゃんにそれ強請られてプレゼントした……うっ、記憶が!」
「それただアンタが貢がされてたダケでしょ……?」
「うわあああああ世の中不公平だああああ!!」
「……というか皆さん、スライムキングさんから花が咲くとか病気のモトが宝石とかそこは突っ込まないんですか!?」
敵が来るから大声を出すな。むしろそっちの初歩的な事の方が注意すべきじゃないのか。
誰も突っ込まない。ゴブリンさんは言いたそうだが、黙った。彼は空気が読めるゴブリンである。
そしてそんな女神官のツッコミに対して他の冒険者たちは顔を見合わせた。
女戦士だけはそっと視線をそらしつつ、男二人は生温かい視線を向け、優しく、優しく微笑んだ。
「「もう、色々今更じゃん……?」」
「やだもうこの人たち常識忘れ去った!!」
一体常識とは何であったのか。
とにかく、スライムキングから花が咲くというのも不思議な話なので道すがら見せてもらった。
なんでも丈夫で切っても一週間ほどは枯れることもないというその花は、基本的にはとても弱いものなのだがスライムキングの体内で育つから無事成長するらしい。自然界にも咲くけども、とても珍しいんだとか。
「オーガ娘ちゃん、きっト、喜ンでクレる……!!」
「そうですね、きっとゴブリンさんの真心、伝わると思います!」
「いやーその前にその花、超レアランクの花じゃないかなーってオジサン思うわけヨ」
「プロポーズに使うと必ず成功するって伝説の花だとオレも思うわけよ……」
伝説の花。
プロポーズを成功させる、愛の花。
巷でそんな噂のある、【ジュエル・ラバーズ】。採取ランクSS。
虹色に輝く花弁が美しく、その芳香は人を夢見心地にさせる。魅了効果(小)がある。
要するにあれである。『あれっ、プロポーズされた時はあんなにも素敵だったのに……あれぇ?』となる悲しさを内包させたアレである!
いや、そういうカップルばっかりじゃないけどね!!
でも一般人からしたらその魅了効果(小)でプロポーズの成功率は跳ね上がるというありがたいお花なのだ。でもモンスターには効果がないのでただ綺麗な花なのである。
花からしたらどうでもいいことだけど。
何故スライムキングの体内で育ったかと言えば、種を食べたからだ。スライムキング曰くまずいから消化しなかったらしい。案外グルメなスライムである。
ただ、いつもこの花はスライムキングを苗床にすると急激な成長を見せる。スライムキングの体内でなにか化学変化があったのかもしれない。
スライムキングがこれまた“ツーフー”で動けないから、日当たりも抜群だったし栄養も抜群だったというそういった事すべてが揃った結果かもしれない。誰も研究したことがないからはっきりとしたことは言えないが。
ちなみに、他のスライムたちは好き嫌いがないので消化しているからやっぱりレアな花であることには違いないのでスライム栽培という方法はとれないと思われる。
ついでに、スライムキングの体内にはツーフーが酷くなると石が生まれる。
それが排出されたり取り出されたりすると痛みが減るので、時々ゴブリン村の住人がスライムキングに頼まれて手を突っ込んでは取り出しているのだ。ちょっと間違えて消化されかかったことがあるやつもいるけど。
ゴブリンさんとか。
しかし取り出された石が宝石みたいにキラキラしているということで、ゴブリン村では宝飾品として近年人気になっている。
だから今回、オーガ娘にもプレゼントしようとゴブリンさんも張り切ったということである。
涙ぐましい恋心!
応援してあげたくなっちゃうよね!
なぜか女性陣はそんなゴブリンさんにときめいているようだし、盗賊男は「オレだって……オレだって……真剣だったのに! うわああああ!!」と慟哭するし、それでも歩みを止めない男戦士が我関せずでゴブリンさんと歓談する――そんな奇妙な一行に、誰が近づきたいだろうか。
おかげさまで、初日の旅路はピクニックのような賑やかさであった。
うん、まあ。
気が付いたら森の動物からも、モンスターからも、変人を見るようなまなざしで遠巻きにされているということに気付いたんだけど。
「ちがあああああう!!」
「私たちは冒険者なんだから! えっ、ちょっと待ってなにその哀れんだ眼差し!?」
「モンスターにまで哀れまれた。変人って見られてる。オレ……オレ……」
「み、皆さん落ち着いて! 私たちは元々敵対行為をしに来たのではありません。これから歩み寄れば良いのです! あ、歩み寄らせてくれますよね!?」
「エェー……」
自分たちは常識人だったはずだ。少なくとも、真っ当に生きてきたはずだ。
モンスターや動物たちにまで「シッ、あの人たちと目をあわせちゃいけません!」みたいな空気で見られるとかないわー、ないわー!!
ゴブリンさんと出会って知的ゴブリンが存在したよってギルドで報告した以来の悲しくなる事態に、冒険者たちは必死にゴブリンさんに訴えかける。
しかし、言われたところでゴブリンさんになにができるだろうか。いや、ない。
だってゴブリンさんからすれば、人間とモンスターが仲良くしているのは確かに稀有な事態で、でも悪い事とは言えない。珍しいってだけで、それに対していろんな意見がモンスターにもあるってだけの話なのだ。
「エート、こういう時、ナンテイウんだっけ。あ! そうダ!」
「……なんだよ」
「勇者、言ってタ! 人間、諦め、肝心!!」
「勇者さまあああああああああああ!?」
その日、冒険者たちは。
伝説の勇者に、ちょっとだけ物申したくなったのであった。
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