第10話
スライムキングなる存在は、それこそ大分昔から存在するという事は冒険者たちも聞いたことがある。
所謂、幻のモンスターだ。
その存在そのものが本当に実在するのか危ぶまれるほど目撃例も少ないモンスターが、今彼らの目の前にいるというのはまさに伝説が真実であったのではという思いを強める。
さて、少し話は遡るが──“勇者”というキーワードがゴブリンさんから出た。
それがあったからこそ、平和的思考を持っているとはいえモンスターであるゴブリンさんたちの存在を許容しようかとギルドが言い出したのだ。
そもそもは遥か昔、とりあえず、色々年代はすっ飛ばすとして。
世界のどこかに、魔王がいた。当時は今と違って大陸全体の形が違ったというので、正確な位置はわからない。だが魔王は恐ろしい存在であったことは伝わっている。
そして魔王とモンスターによって、人間族やエルフ族といった『善』とされる人型の種族たちは追い詰められていき人々は祈った。その結果、神がその祈りを聞き届け、勇者をこの世界に招いたという伝承があるのだ。
神によって異界から招かれた勇者は人々の願いを聞き届け魔王討伐の旅に出た。その時に勇者は旅の途中変わり者と呼ばれる後の英雄たちを仲間とし、道中は敵対しなかったモンスターにも『善』の人々と変わらず平等に接したという。
最終的には魔王を倒して人々に称えられたというが、そのまま姿を消してしまい行方はようとして知れず、ただ彼は元居た世界には戻れなかったのではないかと伝えられている。
魔王を倒した勇者とその仲間たちは皆姿を消し、唯一消息が分かるのは仲間の一人、大賢者の弟子であるゴブリンさんたちが暮らす森の奥に居るというリッチ……というわけなのだ。
で、じゃあこのスライムキングってのはどう関わるのか?
そう、勇者が“平等に接した”というモンスターの一匹、というやつなのだ。
そしてゴブリンさんのご先祖もその一匹、ということらしい。
「スライムキング、冒険者タち、歓迎してル! 歓迎のスライムショー、始マるって!」
「お、おう……え、これ喜ぶべきなんだよな? 歓迎されてるんだもんな?」
「でもスライムショーってあれでしょ、跳ねて潰れて混じって最終的に破裂しちゃうんでしょ?」
「……こ、これも神が与えたもう試練です! あらゆる生き物はそれぞれの環境の違いによって感じ方が違うのです、それを理解してこその……ッ」
「ああ、うん……人間。諦めが肝心よね……」
冒険者たちの最大の任務は、『ゴブリンさん』を通じてかつての“勇者”についての情報を出来る限り集めること。そして王国にとって失われた聖なる武器の数々の行方を探し出すこと……となったのだ。
急げとは言われていないし、できたらリッチの動向も掴んで来いという色々無茶ぶりをされた結果どっちかっていうと人間側の都合よりも平和主義のゴブリン村の方が穏やかに過ごせているという現実を冒険者たちは最近直視できないでいる。
それでも足を運んではゴブリンさんと遊び、オークレディの料理に舌鼓を打つのだけれども。
すっかり馴染んでんじゃねえかというのはナイショだ。ちなみに最近のゴブリン村での流行は“ゴブリンさんが転んだ”というゲームでちょっぴりバイオレンスなので、女神官は大活躍する。
まあそれは置いておくとして。
特等席として案内された周囲にぷるんぷるんしたものがあっちゃこっちゃの沼から出てきて並ぶ姿は強烈だ。どいつもこいつも顔がない、要するにスライムだが揺れっぷりが半端ないのでどうやらスライムショーが楽しみでならないらしい。
ああ、うん。知能がないとか思ってごめん。感情表現豊かなんだね……そう半透明のゼリー状なモンスターに囲まれて体育座りをする冒険者たちの表情はどことなく虚ろだ。
ゴブリンさんは楽しみで仕方ないらしく、最前列で小さなスライムたちと一緒に目をキラキラさせていた。子供か!
それぞれの期待度には天と地ほどの差があるものの、始まったスライムショー。
赤色は花を摂取したらしい。
黄色は実を摂取したらしい。
緑色は草を摂取したらしい。
青色は元々そういう色をしたやつが担当らしく、代わらないのが不満らしい。
そして問題の黒だが、べっとべとの油まみれみたいなスライムだった。
ああうんなるほど、あれは環境に悪そうだ。
流石のスライムたちも若干引き気味で、慌ててゴブリンさんが持ってきた毒消し草を与えていた。ショーが出来なくなるから全部は与えず、調節しつつな辺りがなかなか難しいらしいが、そこは慣れているんだとか。
そしてゴブリンさんが説明してくれた通り、飛んだり跳ねたりぶつかり合って混じり合って時々破裂して飛び散って……ああうん、なんだろうこれ面白いかもしれない。ある意味混じり合ったものが綺麗に分裂したりとかはマジックの域だと思うけれども、分裂が上手くできなくて端っこが混じり合っちゃったりとかハラハラドキドキものなのだ!
まさに手に汗握るスライムショーだった。
「ハー! 楽しカッた!」
「……おう、なかなかのアクションだったぜ、あれ……」
「超ドキドキした。赤いのと青いのが混じって紫になっちゃった時とか」
「そばに寄ってきた緑のをゴブリンさんが
「アレは、ツイ……」
色々あったショーだったようだ。
だがワイワイとショーについて話し合う彼らを、ぷるん、とスライムキングが誇らしげに見守っている。
どうやら彼(?)にとっても大満足だったようだ。
そして黒いスライムはショーが終わってから残った毒消し草を全部食べて綺麗な半透明の姿に戻って満足そうに震えてから沼に沈んでいった。疲れたらしい。
「ソウダ、男戦士! スライムキング、色々教えテクれル! 聞きたいこと言う、オデ、通訳!」
「おっ、本当か!?」
「スライムキング、勇者、一緒いた。魔王倒す、後、旅一緒シタ言う!」
「すげぇ……伝説が明かされるってやつだな!」
「本当に勇者がいたのね!」
「そして勇者さまは、モンスターたちとも心を通わせておられたのですね……!!」
「ついでにこれで俺たちも一躍有名人になれるかも!? きゃっほー!!」
最後の最後に本音駄々洩れの盗賊男はともかくとして、スライムキングは白い体躯をぽよりと揺らす。
ゴブリンさんがその真横に座るようにして、冒険者たちと対峙するように座り直した。相変わらずスライムキングはどこが正面かわからない、餅のようなもので──その体の端っこの方に、ほんの少しだけカラスの足っぽいものがはみ出ていたことは、見えないものとした。
冒険者たちは、ちょっとだけ今、助けて欲しかった。主に視覚的問題で。
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