16小節…モノクロの心

16小節…モノクロの心



私は紅衣と一緒に開始1時間前から体育館に着く

ひ、ひいいいいい!!!

人がゴミのように多い!!


「く、紅衣!!こんな大勢の前でピアノ弾くの!?」


「当たり前だろ、聞いてもらうために参加してんだぞ?」


「じゃあこんな大勢の前でピアノ弾くの!?」


「落ち着けよ!!2回目だその質問!!」バウッ!!


だ、ダメだ……手が震える

紅衣はなんでこんなに落ち着いてんだろ?

ドイツでもコンクール出てたみたいだし慣れてるのかな?


そして、20分前になる


「やあやあ!お二人さん!お元気ですか?」


マイクがタキシード姿で現れる


「まままままいくくくそそそそれれれににあああああっ」


「ど、どしたの?ふーかちゃん!?」


「気にすんな、こいつたまにバグるんだ」


マイクが目の前にいるのに緊張が……

なんか目眩してきたな…

こういう時は羊を数えた方がいいって聞いた事あるようなないような

羊が1匹、人間が10匹、人間が100匹、人間が6210匹人間が……1277441236241ぎゃあああああああ!!!!


「チーン」


マイク

「ほんとに大丈夫なの?これ」


紅衣

「うん、なんかダメそう」


そしてしばらくすると


「よし!じゃあ余興で俺も弾いてくるわ」


「おう、行ってこい」


マイクがステージに立つ

マイクは不敵な笑みを浮かべてる

こんな余裕そうな顔を出来るのも凄い


そして


【♪〜〜♪♪♪〜〜♪♪〜】


マイクはシューベルトの魔王を弾いていた

確か魔王が1番好きって言ってたような

マイクのピアノは力強さの中に勇ましさがあるような

馬が走ってそうな連打音だったりその中にも静かな風も演出している

凄い…いつもおちゃらけてるマイクのピアノがこんなに凄いと思わなかった

……私も、私と紅衣も負けてない!


マイクの演奏は終わった

沢山の拍手に包まれる

私はマイクの逞しい姿を見て感動していた

こんな大勢の前で堂々としてられるのすごいな


「おつかれ」


紅衣とマイクがハイタッチした

か、かっこいい、何それ!


「今度はお二人の出番だな」


マイクは楽しそうに笑っていた


「よし!行くぞ!ふーか!!」


「ガタガタガタガタガタガタガタ」


「あ、こいつダメそう」


私と紅衣はステージに上がる

今はステージのカーテンが閉まってるため人は見えない


「くくくく、紅衣!緊張しないの?」


「してるけどお前見てるとしなくなったわ!」


「緊張ってどうしたら解れるの!?」


「おまじないかなんかで手のひらに人って3回書いて飲み込むといいらしいぞ」


「わかった!やってみる!

人…人………ぎゃあああああああ!!!人ーー!!!」


「お前もうめんどくせーな!!!」バウッ!!


ああ…どうやっても失敗する未来しか見えない…

合唱コンクールの時もそうだった…

多分…人を見たら……また覚えてないくらい真っ暗になる


「ふーか、面白いこと教えてやろうか?」


「ん?」


紅衣は笑いながらこっちを見る

な、なに?


「ふーかが小学3年生の頃に聞いてた近所のピアノの音、誰かわかる?」


「わ、わかんないよ

あそこ壁の裏側の家だもん」


「あの家、前に日本に住んでた時のあたしの家だよ」


「………え!!!!」


昔の事を思い出す

小学3年生の頃だった

学校の帰り道にピアノの音が聞こえて私はその踊るような音が好きだった

そうだ…紅衣のピアノを聞いて何度も懐かしさを感じていた

紅衣だったんだ……

私のピアノの始まりは…全部紅衣なんだ!!


「ね?面白い話でしょ?」


紅衣は満面の笑みを浮かべていた


「面白い…通り越して当たり前みたいだね」


「そう!だからふーかがピアノを始めたきっかけの場所に行った時、あたしはふーかとピアノを弾くって決めたんだ!

あたし達はお互いのピアノで繋がってたんだよ」


「……紅衣!!」


【ガバッ!】


私は紅衣を抱きしめる

紅衣の温もりが暖かくて落ち着く

お互いのピアノで繋がってた

私と紅衣のピアノの1歩はここからなんだ


「前にモノクロの心を持つって言ってたろ?」


紅衣は私の耳元で囁く


「うん」


「確かにモノクロであるべきだと思う

けど、あたしは違うと思う

モノクロの心を赤にも青にも黄色にもピアノを奏れば、人の心を色付かせれるんだよ!

色付いて、人の世界を変えるんだ

あたしとふーかが、お互いのピアノで世界が変わったように!」


紅衣がそう言った瞬間

カーテンが幕を開けた


人を見るとモノクロに見えた視界だったけど


【♪♪〜〜♪♪〜♪〜〜】


紅衣のピアノの音が鳴った瞬間

モノクロの世界が色付いた


【♪♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜♪♪〜〜♪】


私もピアノを弾く

自分のためではなくて人の心を変えれるように!

紅衣と私のピアノデュオは連弾曲と言われる1台のピアノを2人で弾くものだった

私と紅衣の曲はブラームスのワルツOp39-15という曲

愛をテーマにしたこの曲はまさに今の私たちにぴったりの曲だった


「ふーかー!紅衣ー!かっこいいよー!!」


「輝いてるわ〜」ウットリ


きゅ〜ちゃんにのんちゃん!

それに…こばしり君もいる!

あの人はA組の人…あの人は確かC組…

沢山の人達が私達のピアノを見てる

こうして奏でたピアノはまたモノクロの世界を色付かせる

黒でも何でも全部染まる

ピアノの音色は綺麗で、紅衣の奏でる音は美しい

2つの音で、モノクロの世界は変えれるんだ!


演奏が終わると

沢山の拍手に包まれる

不思議とみんな笑顔になってる

私達のピアノで何かを感じてくれたのかな?

人前に立つと上手くいかないことばかりだったけど

今は鮮明に覚えてる

人が人と交わる音色、人を好きになる音が聞こえる


私と紅衣は2人で並んで礼をする

頭を下げる時に私は紅衣に言う


「紅衣…私決めた」


「ん?」


「私、ピアニストにはならない」

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