15小節…モノクロの文化祭3-3


次の日

私は紅衣と一緒に学校に行く

満員電車にも少し慣れたような気がするけど


「すいませーん!通ります!」


みたいなこと言うのはいつも紅衣だった

私はこの一言を言える勇気がない

んーたまには私もそういうの言った方がいいのかな?

なんて思うけど言えないのはわかってる


「いよいよ本番だな…ふーか」


紅衣の声色から気持ちの高ぶりが見られる


「そうだね」


「あたしは、ふーかとピアノを弾けることが何よりも楽しくて幸せだ

最高の演奏会にしよう」


「うん!」


学校に着く

相変わらずこばしり君は1人で黙々とお菓子を作っていた


「お、今日は何作ってんだ?」


紅衣がこばしり君の作業スペースに顔を覗かせる


「チョコクッキーだ」


「ふーん、じゃあこのケーキ1個もらうな」


「おおい!!1個でワンホール持ってくバカいるかよ!」


「あたしくらいだな、ケーキ食えるならバカでいい」


紅衣はケーキを頬張る


「紅衣ー?こばしり君朝から1人で作ってるんだから

つまみ食いでもダメだよ」


「ふーか、桜がなんであんなに綺麗かわかるか?モグモグ

咲いて散るから美しいんだモグモグ

その点ケーキだって一緒だろ?モグモグ」


「それっぽいこと言って説得力出そうとしない!

ほっぺにクリームついてる!可愛い!」


私はティッシュで紅衣のほっぺを拭く


「相変わらず仲良いなーお前ら」


こばしり君が呆れた顔で言うと


「羨ましいか??ふーかにほっぺのクリーム取ってもらうのが」


「お前本気でぶち殺すぞ!」


そして紅衣は私のほっぺにクリームを付ける


「ほぉら、取ってあげろよ、ふーかのほっぺについたクリームをよぉ」


「お前ケーキワンホール食った挙句のその言動性格悪すぎだろ!!」


何してんだろ?紅衣

こばしり君はティッシュを持って私に近づく

すると


【ちゅ〜〜!♥】


紅衣が私のほっぺのクリームを口で取ってきた


「ちちちちちょ!!紅衣!?」


「ん〜お〜いし〜!」


紅衣は恍惚の表情でこばしり君を見ていた


「お前…本当に最悪な女だな」


く、紅衣にほっぺにちゅーされちゃった!!

ドキドキがクレッシェンド!!


そしてまた文化祭が始まり

いよいよ本番直前!!


「そういえば紅衣!お母さんがね

私と紅衣の衣装買ってきてくれたの!」


私は持ってきた手提げ袋から衣装を取り出す


「薄い赤と薄い青の衣装!

紅衣は薄い青の方がいいかなーってお母さんが言ってたからそうしよ!」


「す、すごい!綺麗な服だな

いいのか?お金払うよ?」


「いいの、紅衣がもしピアニストになった時にまた使って欲しいから」


「最高の家族だ」


私と紅衣は衣装に着替える

洋菓子屋はコスプレ有りだからこれでお店やってもいいよね?


「おー!紅衣ちゃんにふーかちゃん!

今日はよろしくなー!」


別の教室から来たマイクが顔を覗かせる


「え?何が?」


紅衣がぽかんと聞く


「何って演奏会俺も出るんだよ!

2人の前に出るから余興みたいなもんだな!

にしても2人の衣装えっちだなー!

ふーかちゃんはおっぱいが強調されて紅衣ちゃんは無い胸と細さが強調され」


【ゴスっ!!ゴスっ!!ボコー!!】


「お前いい加減殴るぞ?」バウッ!!


「さ、三発殴ってます

何なら毎回殴られてます」


私と紅衣はこの衣装のままチラシを配る


「お願いします!14時からピアノの演奏会があるついでに洋菓子屋さんに来てください!」


白状な紅衣は笑顔でピアノの演奏会の宣伝をする

私もチラシ配らないと!


「~~です~~~~ま~~~~~す」


人を見れば見るほど声が小さくなる

あーーなんて情けないんだ


「ふーか、2人で近くで配るより遠くで配った方が良くないか?」


「良くないよ、紅衣が居ないと私声出ないもん」ニャオン


「何とかしろよそこは!!」バウッ!!


紅衣の言うことには逆らえないため紅衣とは離れてチラシを配る

まあ今日はピアノの演奏会の宣伝もあるし頑張らないと


「おおおおおお!お願いします!!」


通る人にチラシを配る

そんな人混みの中

マスクとサングラスを付けた怪しい人が私を見ていた

な、なに!?怖いんだけど

顔は完全に隠れてるから何歳かは見えない

長いコートを着ているから服も見えない

でも確実に男の人だ


「あ、あの、ピアノの演奏会……」


「天地冬華だね?」


私の言葉を遮って聞いてきた


「そ、そうです」


「ふふ……ふははははは!!

見よ!!ふーか!このモノクロのパンツを!!」


【バッ!!!】


男の人はコートを広げて中の服を見せてきた


「きゃあああああああああーーー!!!!!!」


私はこの世の終わりくらいの勢いで叫んだ


「お、おい!パンツって下着のパンツじゃないぞ?

ほら、見て!ちゃんとしたズボンだよ!」


「きゃあああああ!!!!!」


「なんでえええ!!!」


露出魔ーー!!!!こわーーーい!!!!


「何してんだてめー!!」


【ゲシッ!!】


後ろから男の人の声が聞こえて

男の人を蹴り飛ばした


「い、いったー!!何すんの?

俺41歳だよ?骨ボロボロだよ!?」


「何者だてめー」


現れたのはこばしり君だった

こんな颯爽と現れてくれるなんてさすがお人好し!

めっちゃ怖かったよー!!


「何者って嫌だなー」


男の人はサングラスとマスクを外す


「………え!!」


私は男の人の顔を見て仰天する

ま、まままま、まさか!!


「お父さん!?」


「ひっさしぶりだね!ふーか!

ちょっとでかくなりすぎなんじゃないか?」


どのくらいぶりだろう

あんまり覚えてないけどお父さんなのはわかる


「あああ、天地のお父さん!?

す、すみません!こんな無礼なことを!」


こばしり君も慌ててる


「はっはっは!!仕方ないよね

脅かしたのはこっちだ、」


お父さんは汚れた服を払いながらいった


「ど、どうしたの!?いきなりすぎない!?

お母さんは!?小夏は!?今どこに住んでるの!?ご飯食べてる!?」


「質問が多いよふーか

まあ積もる話も多いだろうが今は置いとこう

ふーかが文化祭でピアノをやるってお母さんから聞いて俺も聞きたくなって来てしまったんだ

10年振りの日本と10年振りの休みだ!」


お父さんは親指を立てた

そんな…私のピアノのために?


「ふーか!どした!?めっちゃ叫び声聞こえたけど!」


紅衣も慌ててこっちに来てくれた

そしてお父さんの顔を見て紅衣は


「え!!!夢咲来夢!?えええ!!!

本当にふーかのお父さんなんだ!!すごー!!」


「話には聞いてるよ、紅衣ちゃんでしょ?」


「あ、あはは、私のお父さんです」


私は紅衣に紹介する


「夢咲さん!!日本で1番尊敬してます!

どうかふーかにピアノ教えてあげてください」


「はっはっは!ピアノが上手くなるコツならまずこのモノクロのパンツを履いてからだ!」


お父さんはコートを広げて中の服を見せる


「きも!何このおっさん!」バウッ!!


「あれ!?紅衣ちゃん!?

さっき1番尊敬してるって言ってなかった??」


お父さんも紹介出来たってことで

私は刻一刻と時間が経つのを感じていた


「じゃあ、ふーか、紅衣ちゃん、悔いのないように頑張るんだよ?

また後でね」


お父さんは一足早く去っていく

後もうすぐで出番だ


「はあ、夢咲来夢があんな変なおっさんとはなー」


「あはは、私も久しぶりに会ったから何話したらいいかわかんなかったよ」


「まあいいや、とりあえずまたチラシ配ってくるわ」


紅衣はまた離れたところに行ってチラシを配る


「なあ、天地」


こばしり君は私を呼び止める


「何?」


「ピアノの演奏会は何時だ?」


「14時からだよ」


「わかった、俺も行く」


「えええーー!!!こばしり君ピアノ好きなの!?」


「好きとかじゃねーよ!

じゃねーけど、見に行くよ天地のこと」


「じゃあこばしり君見つけたら"ミ"の音出すね」


「"ミ"はわかんねーよ!!」


そして私の後ろからは


「ふーかー!そろそろピアノの演奏会でしょ?

見に行くからねー!」


「その服……いいわぁ」ハァハァ


きゅ〜ちゃんとのんちゃんが居た

そっか、色んな人が見に来てくれるんだ

凄く緊張する

でも、この緊張を乗り越えたら、モノクロの世界がまた広がるかもしれない


「ふーかこっち来て、髪の毛セットしてあげる」


きゅ〜ちゃんは私の手を引いて教室に行く


「いいの!?昨日ものんちゃんにやってもらったよ!?」


「いいのいいの!

形は違うけど夢を追うもの同士!

ふーかが可愛くなる魔法をかけるからね!」


きゅ〜ちゃんは私の髪を巻く

手際が良くて丁寧だった


「きゅ〜ちゃん上手だね」


「まあね!好きなものだしさ

本気で目指すんだ、美容師を」


きゅ〜ちゃんの表情は逞しかった

そうだよね、夢を追う人はいつだって素敵で輝いてる

私も今日の演奏会で輝きたい!


「よーし!完成ー!かわいいよ!ふーか!」


きゅ〜ちゃんは私に鏡を見せてくれる


「ほんとだー!かわいいー!」


「でしょー!これで演奏会頑張るんだよ」


「ありがとー!」


私がお礼を言うと

きゅ〜ちゃんは私の手を取って真剣な眼差しを送る

ど、どうしたんだろ?


「こばしりのこと、前向きに考えてね?」


きゅ〜ちゃんはキリッと目の色を変えて言った

一体どういうことかわからなかった

……けど


「なーんてね!ふーかにはまだわからないと思うから

その時になったら教えてやろう!

んじゃー!演奏会見てるからね!じゃあねー!」


きゅ〜ちゃんは颯爽と去っていった

なんの事かはわからなかったけど

そんなことを気にしていられるほど時間と自分に余裕はなかった

もうすぐだ…


「ふーか、行くぞ?」


紅衣が教室を覗かせる


「うん!」


私はまだ怖かったから紅衣の手を握った

握ったまま体育館に向かう

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