17小節…モノクロと2つの音

17小節…モノクロと2つの音


「私、ピアニストにはならない」


「…………」


そう言って私と紅衣は頭を上げてステージを去る

またこんなこと言ったら紅衣に怒られちゃいそう

そんな心配をすると


【ガバッ!】


紅衣は私を勢いよく抱きしめた


「ふーか、今日の演奏楽しかった?」


紅衣がいつになく優しい声で聞いた


「楽しかったよ!本当に楽しかった」


「……よかった」


「……紅衣?」


顔は見えないけど紅衣は泣いてる気がした

どうしたんだろ?

でも、楽しかったのは本当だった


「あたし、本当は不安だったんだ」


弱々しい声で紅衣が言う


「ふーかが人の前に立つと緊張するのわかってた

今回のでトラウマになったりしてピアノを弾かなくなったらどうしようって

でも、ふーかは楽しめたんだよね?」


「うん、楽しかったよ」


「頑張ったな!」


紅衣は涙を流しながら私の目を真っ直ぐ見て言った

本当に紅衣のそのキラキラした目に弱い気がする


「ピアニストにはならなくてもいいよ

でもさ、やっぱピアノって人に見せるのが最高だろ?

ピアニストじゃなくてもいいんだよ

あたしは夢があるからピアニストになるけど

ふーかはまた違う道でピアノを続けて欲しいな」


紅衣が珍しく微笑んでる

その優しい言葉は私の心に突き刺さるようだった

うん、その通りだよ

私はピアニストにはならないけどまた別の形でピアノを弾きたい

プロじゃなくてもいい、人の前に立ってピアノを弾いて人の心に響かせたい


「私、やっぱり人が好き」


「……ふーか…」


今まで嫌いだった人だけど

ピアノを通してだと好きになれる


「だから紅衣、私はピアニストにはならないけど

ピアノは続ける!今度お父さんに習ってもっともっと上手くなる!

紅衣がピアニストになるの応援してるから」


「うん!あたし達は違う道を行くかもしれないけど

ずっとずっと"親友"だ」


「紅衣、ん!」


私は手を上げる


「おつかれ」


【パチンッ】


私と紅衣はハイタッチをした


体育館を出ると


「ふーか〜!紅衣〜!」


きゅ〜ちゃんが走って私達の所に来る


「かっこよかったよ!ピアノってすごいね!」


その後にのんちゃんも来る


「興奮したわぁ〜」ハァハァ


「ありがとー!2人の声聞こえてたよ!」


私は2人の手を掴んで言った

そして


「あ、こばしり君!」


私はゆっくりと歩くこばしり君を見つける


「おう、見てたぞ」


「どうだった!?」


「お前輝いてたぞ」


「えええーー!!ほんと!?」


「おう、地味子卒業だな」


「バウッ!!」


横から紅衣が入って吠える


「な、なんだよ!」


「悪い虫を追い払ってんだ」


「どういう意味だよぶち殺すぞ?」


そしてそして


「やあー!お二人さんすごかったねー!」


マイクも現れる


「すごかった!?」


私が聞くと


「うん!ふーかちゃんの指捌きとえろい胸!

紅衣ちゃんの表現とえろい腰!」


【ボコー!!】


「そしてふーかちゃんの谷間!」


【ボギー!!】


「紅衣ちゃんのクビレ!」


【ボコー!!】


「ふーかちゃんの流れる汗!」


【ボギー!!】


「紅衣ちゃんの口唇!」


【ボキ!バキ!ボコー!!】


紅衣

「なんでこいつ止まんねーんだよ!!」


マイク

「とにかく!聞いてて最高だったんだ!」


マイクにも伝わったんだ


外に行くと


「ふーか!」


お父さんが居た


「お父さん!どうだった!」


「めちゃくちゃよかったよ!

あんなに心が弾んだのは久しぶりだ

若さっていいな!」


「うん!私も楽しかった!

だから、ピアノも続けるよ!」


「そっか、よかった!」


お父さんも喜んでくれている

私達のピアノでこんなに喜んでくれる人がいるのも嬉しい

もう、人に怯えなくていいんだ

人が嫌いな自分から1歩進むことが出来た



月日は流れる

私は春の暖かさを感じながら最後の学校を過ごしていた

校歌を歌う、伴奏は紅衣のピアノで流れる

私と紅衣は最後の文化祭で金賞を取る事が出来た

1番輝いていたグループに贈られる賞らしい

そんなことは関係なしに私達は楽しいからピアノを弾いてるだけだった

楽しい高校生活だったなー

でも


【高校生活も終わりだ】


「おまたせ」


紅衣は暖かいミルクティーを持ちながら私の隣のベンチに座る

卒業したのにこんな公園で座るのも変な話だけど

ここは私と紅衣が初めて話した公園

苦くもあるけど今は好き


「はあー明日から大学生に向けて色々やるのかー

めんどくさくなってきたなー」


私はだらけた声で紅衣にくっつく


「おい、大学にはあたし居ないからな?」


「わかってるよ、きゅ〜ちゃんとのんちゃんも専門でしょー?

紅衣とマイクは音大に行くもんねー

寂しいなー」


「おい、隠すな?こばしりがいるだろ」


「う、うん!いるよ?」


「結局付き合うの?」


「…まだわかんない、でも、前向きには考えてるよ」


「そうだな」


「私頭悪いから一つの事しか頭に入れられないからね

ピアノとか!」


「頭悪いのはごもっともだ!」


「けどね、ピアノ以上に大事な存在って結局なんだろうって考えたことあるの」


「なに?」


「人だよ!」


「……まあそうだな」


紅衣はふっと微笑む


「ふーか、大学行ったらどうすんの?

あたしはもう居ないし1人でやっていけるの?」


「やっていけるよ」


「ほんとかよ!電車降りる時も降りますって言える?

道がわかんなくなったら人に聞けるの?

心配だよ!!」バウッ!!


「大丈夫だよ」ニャオン


「連絡は?してくれるの?」


「するよ」


「しなさそー!!」


「するってば」


「もういい!あたしから連絡する!

やっぱふーか1人じゃ心配だよ!」


紅衣は私の手を取って涙ぐむ


「あたしだって寂しいんだよ!

ふーかと離れるの嫌だよ!

だから、連絡するし、連絡して」


「紅衣…」


私はまた紅衣を抱きしめる

私と紅衣はどこまでもお互いを頼って生きている

紅衣には色んな事を言ってもらったなー



『あんたのピアノ、あたしは聞いてたよ』


『黙ってたってあんたのピアノから、伝わるものがあるんだよ』


『でも、おかげで色々と思い出せた気がする

あたしこそありがとうだよ、ふーか』


『ふーかはあたしの1番の友達だから』


『まあ今日のふーかはかっこよかったぞ』


『お前の気持ちはどこにあんだよ!

ぶつけてよ!あたしに!友達だろ!!

"親友"だろ!!』


『ふーかのピアノに救われたんだ!』


『あたし達はお互いのピアノで繋がってたんだよ』




「ふーか、何があっても、どこに行っても

あたし達は"親友"だ」


「うん!私も、紅衣に出会えてよかった」


モノクロの世界がまた色付いた

別々の世界に行ったとしてもその色は褪せることはない

どこに居ても、私達は2つの音で繋がってるんだから


End……

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