13小節…モノクロの過去
13小節…モノクロの過去1-2
「夢咲来夢…私のお父さんなんだ」
「……は!?」
紅衣は驚愕したように体をビクッとさせていた
驚くよね、そりゃ
「お、お前!よくもそんなこと隠し…
へっ…へっ…へっくしゅん!!」
紅衣は豪快にくしゃみをした
「あああ、寒いよね!?中入る?」
「入る、あとよだれでたからふーかで拭く」
「き、汚いいいー!!!」
紅衣を家の中に入れる
お風呂に入って貰うために私は服を用意する
「紅衣、私の服じゃ大きいと思うから妹の服でいい?」
「余計な気使いありがと」
私は服を置いて自分の部屋に戻る
ついに…家族じゃない他の誰かに話す時が来た
私のお父さんは夢咲来夢
本名は天地友和
日本のピアノコンクールで最優秀賞を受賞した数は7回
そのうち5年間は5連続で最優秀賞を受賞するほど私のお父さんは有名なピアニストだった
【ガチャ】
私の部屋のドアが開く
紅衣が帰ってきた
紅衣はタオルで頭をごしごししながら
「お風呂とタオルと妹の服ありがとう
服のサイズぴったりで何よりだ」
「よかったよかった」
紅衣は私のベットに座る
「じゃあ、聞かせてもらおうか」
紅衣はどことなく緊張の響きが混ざった声で私に聞いた
「うん、物心がつく前のことかな?」
私のお父さんは夢咲来夢
さっきも言ったけど日本で1番有名なピアニスト
ピアノだけじゃなく日本の作曲家のとしてでも有名で
有名なゲームの曲、海外ドラマの曲
様々なジャンルで活躍している
そんなお父さんとはちゃんとした会話をしたことはあんまりないような
でも、ちゃんと覚えてることがひとつある
『お母さんをよろしくね、ふーか』
そう言ってお父さんは海外に行った
お仕事が海外でやることになったみたいだから
海外でも活躍をしているお父さんはきっとすごいんだろうなー
よくわかんないけど勝手にそう思ってる
よくわかんないって言うのが私の本音だった
私が小学1年生の頃
お父さんは海外で有名なゲームの作曲を担当したらしい
日本でも名前は誰でも知ってる名作ゲームの続編みたい
私はそのゲームのすごさも作曲のことも正直わかんない
でも、私が人が嫌いになるきっかけにもなった
『夢咲さんの娘だ!』
カメラとマイクを持って近づいてくる大人の人が数人居た
な、何これ
『お父様の夢咲来夢さんが快挙を成し遂げたということで娘さん何か一言ください!』
いっぱい写真を撮られる
…怖い、なに?
『お父様とはどういうお話をしてましたか?』
『お父様との思い出を聞かせてください』
毎日毎日
私が学校に行く時度に大人の人がいる
毎日ストレスだった
『ついてこないでください』
私は知らない人にやっと言えた一言だった
その一言で振り切ろうとした
『待ってよ!夢咲さんのこと話して!』
『ついてこないでください!』
私は泣きながら叫ぶように言った
もうこんなの嫌だよ
毎日大人の人に囲まれて
よくわかんないお父さんのこと聞かれるなんて
……人が嫌いなんだ
その後はお母さんに相談したらその大人達は来なくなった
でも、小学3年生の頃に近所のピアノの音を聞いてピアノにハマった
そして中学の時、合唱コンクールでピアノを弾くことになった
そっか、私、代表でピアノ弾けるんだ
そのために練習もした
元々好きだし練習も苦じゃなかった
けど…本番になると
人がいっぱいいる…人が私を見てる
こんなに人がいっぱいいる状況で…ピアノ弾けないよ…
合唱コンクールのピアノは正直覚えてなかった
けど自分でも納得のいく演奏は出来なかったし
改めて私は人前に経つことが苦手だってわかった
あの日以来苦手なんだ、じゃあもう人前でピアノ弾くのはやめよう
ピアノ自体は大好きだからやめるつもりはないけど
ピアニストとかは…以ての外かな
そんなことがあったから文化祭でピアノは弾きたくないし
ピアニストにはなりたくない
それを紅衣に全部話した
「ふーか、ひとつ言ってもいいか?」
その話を真剣に聞いてくれた紅衣が一言
「お前、ほんととことん遺伝子に恵まれなかったんだな」
「一言がマルカート!」
マルカート=はっきりと
「でも、ふーかのことはわかったよ
話してくれてありがとう」
「うん、だから私は文化祭とか人が嫌いっていう理由がそれなの」
「まあ、理由がそれなら仕方ないと思うし
嫌なことを無理矢理やらせようとは思わない
だからさ、せめて、ふーかがピアノを始めようと思ったきっかけの場所に連れてってよ」
紅衣が飛び上がるように顔を近づけた
「あそこからはもうピアノの音聞こえないよ?」
「いいから、行くぞ!」
相変わらず行動力がアレグロだ!
私と紅衣は傘を差して外に出る
「この辺かな?」
案内した場所に行くと
「……ふーか、ここって」
紅衣は目を丸くさせて遠くを見つめていた
「この奥の方からピアノの音が聞こえたんだ」
「………ふふっ」
「え?」
紅衣が笑っていた
なんでわからないけど不思議に思わなかった
紅衣は私の前では笑ってくれる
それは親友だからだよね
「じゃあ、ふーか、今度はあたしの番だ」
「え?」
紅衣はまた私を引っ張る
紅衣が連れてきてくれた場所は
「紅衣の家?」
そう、紅衣の家だった
「あたし、やっぱふーかとピアノ弾かないと納得出来なくなった
だから、あたしの気持ちも知って欲しい」
そう言って紅衣は私を家に入れた
紅衣の家に入る
相変わらず広くはない家の中に綺麗なベヒシュタインが置いてある
私が家の中に入ると紅衣の家の飼い猫、リベちゃんが出てくる
「おーリベ、ふーかに慣れたんだな」
「私昔から動物には好かれるんだよね」
「同じまぬけだからじゃないか?」
「悪口のレパートリーどんだけあんの!!」
紅衣はケラケラと笑う
「そうだ、じゃあ手始めにリベの話をするか」
紅衣はリベちゃんを抱き抱える
リベちゃんは抵抗しないで紅衣の手を舐めていた
飼い猫もモノクロだなんて面白いよね
そんなことを思ってた時
「リベはね、捨て猫だったんだ」
「へぇーそうなんだ」
じゃあモノクロになってたのはたまたまか
「あたしがドイツにいた時の話してあげる
ドイツにいた時のあたしの名前も」
紅衣は抱き抱えたリベちゃんを放す
ドイツにいた時と、このリベちゃんと何が関係してるんだろ?
「あたしがドイツにいた時の名前は"エリーゼ"」
……エリーゼ??
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