12小節…モノクロの真実
12小節…モノクロの真実
私は家に帰る
「ワン!!ワン!!ワン!!」
飼い犬のテンポがやけに吠えてる
「お姉ちゃんおかえりなさーい」
妹の小夏がテンポを追いかけていた
小夏は私の4つ下の妹
生意気だけど可愛いと思ってる
「お母さんは?」
「防音室にいるよ?」
防音室?お母さんが?
私は違和感を感じながらもピアノがある部屋に行く
部屋に入ると
【♪〜♪〜〜♪〜】
お母さんはピアノを弾いていた
軽快にそして時には激しく、それでも愉快に弾いてる
なんで?お母さんはピアノをよく思ってないはずじゃ…
「ふーか?」
お母さんは私に気付いた
「お母さん…ピアノ弾けたの?」
「……お父さんの影響でね」
お母さんがピアノを弾いてるとこは初めて見た
なんで…?
「お母さん、お父さんのことあんまり好きじゃないって言ってた?
言ってなかったっけ?」
私は日頃の疑問をお母さんにぶつけてみた
「言ったことないよそんなこと
お父さんはピアノ上手だしずっと尊敬してるわ」
「……そうなんだ」
「……びっくりしたよね、」
「びっくりだよ、ピアノも嫌いだと思ってたし」
「ピアノが嫌いなわけじゃないの
お父さんのピアノが好きだから
ピアノの音を聞くと、お父さんのことばかり考えてしまうから
でもね、お母さんも、ふーかと同じように変わらないといけないの
お父さんも、お母さんたちに見えないところで頑張ってるからお母さんも強くならないといけないと思って」
お母さん…そう思ってたんだ
私がピアノを弾きたいって言った時もちゃんと許可してくれてたし
お母さんなら…わかってくれるかな?
「お母さん、ピアニストってどう思う?」
なんの捻りもなしに聞いた
お母さんは何かを思い出すように微笑んで
「素敵だと思うわ」
こう呟いた
「……そっか、ピアニストって素敵だよね」
「ふーかはピアニストになりたいの?」
「………ちょっと無理かな」
「あら、残念、なりたいって言うと思ったのに」
そんなに私は周りから期待されてたの!?
それはそれで困る!
「なんでピアニストの事を聞いたの?」
「…実は、紅衣がさ」
私はお母さんに紅衣の事を話した
紅衣がピアニストを目指してること
私もピアニストになるものだと思ってならないと言ったら酷く落ち込んでたこと
文化祭の演奏会も出ないってこと
それをお母さんに話すと
「……んー紅衣ちゃんも真っ直ぐで正直な子だね
そんな子がお友達なんて素敵じゃない」
「そうじゃなくて!今後、紅衣といつも通りの日常を送るのは時間が経ってからになるのかなって」
私がそう言うとお母さんは
【♪〜〜♪〜♪】
軽やかにピアノを弾いた
「いい?ふーか、ピアノと同じく、人の心もモノクロであるべきだと思うの」
「…モノクロ?」
お母さんの言ってることが理解出来ず首を傾げる
「そう、何色にも染まる白、何色にも染まらない黒
人の意見を素直に受け入れられる気持ちの白と
自分の意志を強く持てる心の黒があればきっと
美しい旋律のように、ふーかの人生も美しくなると思うわ」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
モノクロの心
お母さんの言う通り自分だけの力じゃ生きていけない
だから人の言葉で自分を変えて、曲げたくないことは貫く
「お母さんもね、昔、ピアノをお父さんに勧められて
絶対やりたくないって思ってたけど最終的にはピアノを弾くことにしたの」
「そしたらどうなったの?」
「……世界が変わったわ」
「…………」
お母さんは私が子供の頃に感じたような気持ちになっていたみたいだった
…わかる、その気持ちわかるよ!!
「最初は上手くいかないことばかりよ
お母さんなんて、ピアノの蓋が閉まって指を挟んだ時、骨折したしね」
「あ!私が初めてピアノいじった時に言ってたよね?」
私は小学3年生の頃を思い出す
『この蓋は重たくなってるから手挟んだりしたら危ないのわかってる?
もし挟んだら骨折れるんだよ?』
経験者だったんだ!
通りで説得力あるわけだ!
「だからね、ふーかも怖がらずに立ち向かう事も大事よ
紅衣ちゃんがふーかにピアニストを目指して欲しい気持ちに少しでも寄り添えられたら
何か違う世界がまた見えてくるかもしれない
ピアノ弾いた時もそうだったでしょ?」
「……確かに」
私はお母さんの言ってることを全部理解して納得した
紅衣の言ってる事に寄り添う
自分では無理だと思ってることも挑戦したら…
私もピアニストを目指す未来があるかもしれない
【ピーンポーン】
インターホンが鳴る
この部屋は玄関から1番近いからモニターは見ずに私はそのまま玄関に行った
扉を開けると
「く、紅衣!?」
紅衣が居た
しかも雨に濡れてびしょびしょになっている
紅衣のその表情はさっきまでの弱気な紅衣とは違っていた
いつもの強気な紅衣の表情
「ど、どうしたの!?
今日バイトじゃないの!?」
「休んできた」
「……何しに」
「やっぱ納得出来ないんだよ」
紅衣は私の胸ぐらを掴んで玄関の外に出す
「あ、あぶな!」
【ドンッ!!】
そのまま玄関の扉に私を叩きつけるように押した
紅衣は顔を近づける
「教えてよ、ふーかのこと
文化祭に出たくない理由と、ピアニストになりたくない理由」
紅衣は依然として真剣な眼差しを私に送る
そんな紅衣の表情に負けじと私も答える
「…紅衣に迷惑かかるから」
「……迷惑?お前何考えてんだよ
いつもあたしに迷惑ばっか掛けてんだろ!慣れてんだよこっちは
こういう時ばっか迷惑がかかる?
ふざけんな!最後まであたしに甘えろよ!」
紅衣の言葉の真っ直ぐさがダイレクトに伝わる
……最後まで…
「お前の気持ちはどこにあんだよ!
ぶつけてよ!あたしに!友達だろ!!
"親友"だろ!!」
「……っ!」
私は紅衣の"親友"という言葉に震えるような喜びを得た
私と紅衣は親友
それは私も思ってたよ
「いつまでも殻にこもるなよ!
あたしはふーかの本音を知りたい!
ふーかの親友としてずっと一緒に居るんだから
あたしにだってお前の気持ち知る権利あるだろ!!」
まだ止まらない紅衣の真っ直ぐな言葉を私は受け止める
だから、私は…
【ガバッ】
びしょびしょに濡れてる紅衣を暖めるように抱きしめた
「……ありがとう、私の気持ち話すね」
紅衣の耳元で囁く
「…夢咲来夢って知ってるよね?」
「……うん、日本で1番有名なピアニストだろ?
ドイツでも有名だったぞ」
やっぱり、ドイツでも活躍してたんだ
私は深呼吸をする
呼吸を整えて、初めてこのことを口にする
「私のお父さんなんだ」
「………は!?」
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