10小節…モノクロの気持ち

10小節…モノクロの気持ち


次の日、私は紅衣と一緒に学校に行く


「だから紅衣もきゅ〜ちゃんのために人肌脱ご?」


「それ、あたしだけが脱ぐんだろ?」


「そう!お願い!助けて!」


「バウッ!!」


「ひいいい!!ごめんて!私も何とかするけど1人じゃ不安なんだよ〜〜!」ニャオン


「ったく!あたし居ないと何も出来ねーのかよ!」


「出来ません!」


「こういう時だけはっきり言うな!」バウッ!!


久しぶりに紅衣と漫才出来て楽しいけど

今日はそういう日じゃない


学校が終わり放課後


「きゅ〜ちゃん!待って!」


私はきゅ〜ちゃんを追いかけた

きゅ〜ちゃんは1人で帰ったりしてたけど

その隣を寄り添うようにのんちゃんが一緒に居る

そんな毎日だったけど、もうそれも終わりにしたい


「何?」


「ここここ、公園でみんなでお喋りしようよ!」


「そんな暇ないよ

みんなで話してて」


きゅ〜ちゃんは突き放すように言った


「おい、きゅ〜」


そんかきゅ〜ちゃんに紅衣は


「逃げんなよ、あたしらは正面からお前とぶつかるつもりだぞ」


紅衣がそう言うときゅ〜ちゃんも覚悟を決めた顔をした


「わかったよ」


私と紅衣とのんちゃんときゅ〜ちゃんで近くの公園に行く

喧嘩とかじゃないし全然心配はないんだろうけどなんか緊張するなー

紅衣がなんか言わなきゃ良いけど……

紅衣の方を見る


【お前最近なんなんだよオーラ】メラメラメラ


めめめめ、めちゃくちゃ睨んでる!!

お、抑えて!紅衣!!

今は争う場面じゃないの!


「お前最近なんなんだよ!」


言ってしまったー!!!

紅衣!我慢してってば!

強く当たるとややこしくなるんだよ!


「なにってなに?」


きゅ〜ちゃんも反発するように聞く


「お前が1人輪の中から抜けようとしてるから聞いてんだろ」


紅衣が強い口調で聞く


「そ、そうだよきゅ〜ちゃん!

何があったか話して?」


私も心配しながら聞く


「あんた達には関係ないでしょ?」


きゅ〜ちゃんは拒否する


「関係ないことねーだろ、もう友達として関わってんだから」


「あんたが友達なんて、私はもう思えないよ!」


「………は?」


きゅ〜ちゃんは噴き上げるように怒りを見せた

それに対して紅衣も目の色が変わるようだった


「説明してもらおうか?」


紅衣が怒ってる…

いつもガミガミしてる感じだったけど本当に怒ってる姿はやっぱり怖い


「気付いてると思うけど、私はこばしりが好きなの」


「何が言いたいんだ?それとあたしが関係あるのか?」


「関係ある!私の気も知らないでこばしりにくっついて仲良くしてる

私よりも仲良くしてるじゃん!」


きゅ〜ちゃんは声を荒らげて言っていた

そんなきゅ〜ちゃんに微動だにしない紅衣


「ばかかお前、そんなのお前に問題があるからだろ」


「私の問題じゃないよ!紅衣は顔もいいし話しやすいし趣味だって夢だってある

私はずっと好きなのに私の好きなものを奪っていく…

そんな人と友達になれないよ!!」


【パァァン!!】


大きな音が鳴り響く

それは手のひらで肌のどこかを叩く音

大きな音になるということはそれほど強く叩いかということ

そしてその手のひらを振りかざしたのはのんちゃんだった


「………のん…ちゃん?」


いつもおっとりとして可愛らしくて優しいのんちゃんがきゅ〜ちゃんにビンタをした

信じられないけど事実だ


「玖、欲しいもののために大事なものを手放してどうすんの?」


のんちゃんはきゅ〜ちゃんの両肩を掴みながら言った


「こばしりのことは好きかもしれない、けど、ここに来てくれた私と紅衣とふーかは玖の事が好きだから来てくれたんだよ」


「………」


「好かれようとする気持ちは大事だけど

好きになってくれた人を手放すのは違うでしょ

これじゃあひとりぼっちになるよ?」


のんちゃんはいつにも増して真剣な眼差しをきゅ〜ちゃんに送った


「でも、私…辛いんだよ……

好きな人が…遠くなるのが……」


好きな人が遠くなる…

そっか、きゅ〜の気持ちわかるかも


「きゅ〜ちゃん、よく聞いててね」


私はiPadを取り出して


「紅衣、弾いてみて」


アプリでピアノを出して紅衣に渡す


「ん?」


不思議そうな顔をしながらも紅衣はピアノを弾いた

紅衣が弾き終わるときゅ〜ちゃんものんちゃんも不思議そうな顔をしてる


「じゃあ今度は私が弾くね」


私がピアノを弾くと


「へ、下手くそ!!」


紅衣がいつも通り私のピアノに文句を言う

同じ曲を弾いてるのになんか微妙なんだよね

でも、それが私ときゅ〜ちゃんが同じだってこと


「私、この通りピアノが好きで毎日ピアノを弾いて頭の中もピアノでいっぱいなんだよね

でもさ、全然上手くならないし、何回弾いても段々下手になってるんじゃないかなって思う時もある」


「………何が言いたいの?」


「私はピアノが好きなんだけどピアノからは好かれてないの」


「……………」


「好きだけじゃ上手くいかないんだなって思うよ

でもさ、好きだから貫くだけじゃやっぱダメだよ

好きになるって何でも辛いんだよ

好きだから好きで居続ける、居続けたら壁に当たる

壁に当たれば挫折をする、それでも体が好きを求めてるから自分を変えて、思考を変えてまたぶつからないといけないんだよ

人もピアノも好きっていう形は同じでしょ?」


「…………」


きゅ〜ちゃんは思い詰めた表情を浮かべる

少し震えてるようにも見えた


「こいつはばかだけど今回ばかりはふーかの言う通りだ」


紅衣も割って入る


「誰が好き、誰が気に食わない、誰が悪い

そんなのめんどくせー

少なくともあたしとふーか、のんはお前のこと見捨てるもんかよ

一緒に居て楽しいって思えるんだからよ

それがこばしりに伝わらなかっただけだ

いつも通りにしてみろよ、絶対伝わるはずだぞ」


「………紅衣…

酷いこと言ってごめんね」


きゅ〜ちゃんは涙を浮かべて紅衣に謝る


「バウッ!!」


「ええ!!吠えた!?」


きゅ〜ちゃんは紅衣の鳴き声に驚く

これは許してくれてるってことだね

サバサバし過ぎだよ紅衣は


「じゃあ、きゅ〜ちゃん復活ってことで!

出てきていいよ」


私はある人達に隠れてもらってた

その人達は私たちの前に現れる


「………こばしり」


そう、こばしり君とついでにマイクも隠れてた


「まあ大体の話はわかった

でも俺も悪いと思ってる、何度も突き放すだけだったからな」


こばしり君は伏し目になりながら言う


「お前に言わせてばかりで俺からは言ってなかったよな」


こばしり君は頭を下げた


「友達で居たいんだ、井ノ原と」


「…………」


きゅ〜ちゃんは溜めていた涙を流していた

こばしり君が好きだけどやっぱり届かない

それは悲しいけどこばしり君がきゅ〜ちゃんを受け入れてないわけじゃない

だからきゅ〜ちゃんはこばしり君との関わり方を変えて受け入れてもらえるようになった方が1番いいんだ


「はあ、しょうがないなー

それなら早く言ってくれればよかったのに」


きゅ〜ちゃんはいつものようにおちゃらけた口調で言った


「あんたたち!私を慰めるためになんか奢りなさいよ!

泣いたらお腹すいてきちゃった」


「急に偉そうだな」


きゅ〜ちゃんもいつも通りに戻ったみたい

よかったよかった!


そしてその帰り道

私は紅衣と一緒に帰っていた


「にしてもよ〜きゅ〜に友達って思えないって言われた時はどうしようかと思ったよ」


紅衣は弾むような声で言っていた

な、なんで!?それって……


「それって、串刺しにしようとか…

生き血飲まそうとかそういうの?」


「お前あたしにどんな偏見持ってんだよ

悲しかったんだ」


「か、悲しい!?紅衣にそんな感情あったの?」


「だからどんな偏見なんだよ!

悲しいだろそんなこと言われたら!!」バウッ!!


「そうなんだ…よかった普通の人だ」


「お前なぁ…まあ今日のふーかはかっこよかったぞ」


「……え?」


紅衣はボソッと何かを言った

い、今なんて……


「好きだけど好かれないって気持ちをきゅ〜に伝えるのって難しいと思ってたんだ

それをふーかが言ってくれてきゅ〜も納得したんだろ?

ふーかはそれでもピアノと向き合ってるんだなって思うと立派になったというかかっこよかったぞ」


紅衣が珍しく褒めてくれる

紅衣に褒められたら嬉しさがクレッシェンドだよ!!


「ふーかも立派なピアニストになれそうだな」


「……え?」


ピアニスト?私が?



「私…ピアニストになるつもりないよ?」

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