9小節…モノクロの姿

9小節…モノクロの姿


天地冬華side



あれから1週間が経つ

きゅ〜ちゃんの様子がおかしいのは言うまでもない

学校で話しかけようとしても


「きゅ〜ちゃん!」


「ごめん、用あるから」


あんなに元気だったきゅ〜ちゃんが落ち込んでるようだった

やっぱりあんなことあったら話しにくいかな

私はきゅ〜ちゃんと仲良くしたいよ

きゅ〜ちゃんは何も悪くないよ


放課後、紅衣はバイトに行き私はある人を呼んだ


「こばしり君!」


「なんだ?」


「ちょっと、話さない?」


私はこばしり君を屋上に呼び出す


「なんだよ、井ノ原のことなら知らねーぞ?」


こばしり君も何かを察してるようだった

でも私は知りたかった

2人がどんな関係だったのか


「きゅ〜ちゃんとこばしり君は昔何があったの?」


私が聞くと


「何もねーよ」


こばしり君は否定した

でも、どこかきゅ〜ちゃんを庇ってるようにも聞こえた


「何も無かったらこんなことにならないじゃん

話してよ!」


「……お前なーお人好しのつもりでやってんならうぜーぞ?」


「…………」


はっきりと言われると悲しくなる

……でも


「お人好しにさせてよ、私今まで人と関わったことないんだもん、こんな事、大事件だよ

誰かが暗くなったり、誰かが傷付いたところを見過ごすわけにはいかないよ」


「…………」


こばしり君は少し俯いていた

そうだよ、私は高校生になって紅衣以外の人と仲良くなれたけど

誰かがバラバラになったりするのは絶対に嫌だ


「全くよーコミュ障はしょうがねーよなー」


「はい!コミュ障ですよ!悪かったですね!」


私も引き下がるわけにはいかない


「俺、何回も井ノ原に告白されてんだよ」


こばしり君は重い口を開いた

……そうだったんだ


「俺も好きでもないやつと付き合うのは悪くはねーと思ってる

そうしてきたこともあったしな

でも、あいつとは付き合えねー

俺が好きじゃないとあいつは傷付くばかりだろ?

それに俺はあいつを好きになれない

もうその感覚は固定されてるみたいなんだ」


「………こばしり君って優しいの?」


「は、はあ!?優しいに決まってんだろ!ぶち殺すぞ?」


「でもきゅ〜ちゃんを傷付けたくないなら柔らかく言う事も出来るじゃん!

紅衣もそうだけどはっきり言われるの傷つくんだよ?」


「じゃあ柔らかく言ったら止まんのか?」


「………」


「何回も断ってもあれだから仕方ねーだろ

それに、俺がそうまでして付き合わない理由も傷付けたくない理由もあるんだ」


「……なに?」


「嫌いじゃねーんだよ、あいつのこと」


「…………」


こばしり君は思い詰めた表情で言った


「俺だって、井ノ原の性格は嫌いじゃねー

だから今後もあいつとは仲良くしていきたいと思ってるよ」


「こばしり君こそお人好しじゃん」


「何言ってんだお前?」


こばしり君はきゅ〜ちゃんを恋愛感情で好きじゃないかもしれない

けど、これ以上傷つけないようにとか、きゅ〜ちゃんのためを思ってのことなら尚更だよ

怖そうに見えてお人好しなんだね


「こばしり君はピアノと同じくらい素敵だよ」


「……な!」


私はカバンからiPadを出す

そのアプリで私はピアノを弾いた

シューマンの献呈

なんかこの曲が頭の中から出てきたから弾かずには居られなかった


「何してんだよ」


「………」


何も聞こえてない、ただ弾くだけ

けど、私がピアノを弾く姿を誰かに見せたのは…


「私、人が好きじゃないんだけどさ

みんなと会えて、きゅ〜ちゃんと会えて、人が好きになれた

こばしり君の事も好きだよ」


「…………はあ!?」


「だって!ピアノ弾く姿を見せるの好きな人だけだもん!

楽器屋さんでも弾いたけど、私がピアノを弾く姿見せれるのは紅衣とこばしり君だけ!

紅衣も好きだしこばしり君も好きだよ」


「……お前な、コミュ力もうちょい上げろ」


「え?なんで?」


「うるせー」


なんか様子おかしい気がしたけど

思ってる以上にこばしり君はいい人だった


「俺は帰るぞ、マイクとこの後飯食うんだ」


「うん!ありがとー!」


「…………」ドキッ


話は大体聞けた

こばしり君はきゅ〜ちゃんが嫌いなわけじゃないんだ

それならあとは話が早いかもね

私も人のために頑張ろう!

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