1小節…モノクロの世界2-2


中学二年生になった私は

ある経験をしてしまった


「ス、スキです!」


「………え?」


す??き??


「チャイコフスキーじゃなくて??」


「好きです!付き合ってください!!」


「えええええええーー!!!!!!」


告白をされてしまった

な、な、な、な、な、なんで私!?

中2だけどクラスの人とあんまり馴染めてないのに?

地味だし放課後部活もしないでこっそりピアノ弾いてニヤニヤしてる私だよ!?

こんな私にす、す、す、好きだなんて!


「どどどど、どうして私なんですか?」


見た感じ1個上の先輩っぽい

なら尚更私が好きなんて意味がわからなすぎるよ!


「合唱コンクールで、ピアノ弾く天地さんを見て

……一目惚れした」


「……一目惚れ?」


ピアノを弾く私は…どんな風に映ってたんだろう

そこを気にする私だけど

私は気にしてる場合じゃなかった


「ピアノ、好きですか?」


私は純粋に聞いてみた


「……好きだよ」


「………え」


先輩も…ピアノ好きなんだ……


「じゃあ私も好き〜〜!!」


ピアノ好きに悪い人は居ないことは知ってるから!

クラスに友達っていう友達は居ないけど

かかか、彼氏出来たら勝ち組ってことも知ってるから!

大丈夫!私なら大丈夫!


「付き合いましょう!」


彼氏が出来た

1個上の岡田先輩です

私の耳情報によると岡田先輩は引退しちゃったけどサッカー部の元キャプテンで女子からは大人気の先輩らしい

そんな人が私のピアノ弾いてる姿見て好きだなんて…

しかも……岡田先輩もピアノ好きらしいし

何かの運命だと信じよう!

じゃじゃじゃじゃーん!

ベートーヴェンもびっくりの出来事だよね


そして


「今日から転校生が来ます」


転校生が?


「入ってきなさい」


先生が呼ぶとそこには


「うげ!!」


金髪で色白で細い女の子が居た

き、金髪!?

ヤンキーだ!!もしくはギャルだ!!


「自己紹介をどうぞ」


「鬼頭紅衣【きとうくい】よろしくお願いします」


こ、怖すぎる〜〜!あんまり近づかないでおこ

カラコンもしてて金髪でなんで先生たち何も言わないの!?

ほら、教室ザワついてるし

怪しいと思ってる音、怖いと思ってる音、

ん?なんか喜んでる音も聞こえる

見た目は…可愛い、背もちっちゃいしなんかお人形さんみたい


放課後、私はいつものように教室でピアノを弾いていた

もちろん誰もいなくなったタイミングで弾いてるから誰にも邪魔されない

いやー、この時が1番楽しいなー

…あ、そうだ、岡田先輩の教室に行かないといけなかった

私が教室を出ようとした時


「うげ!!!」


転校生の金髪ギャルが居た

名前は確か……加藤?伊藤?

でも、この方は私とは真逆の世界に居る人だから!

ピアノ……聞いてたのかな

まあいいや、私には関係ないよね

私は岡田先輩の教室に行く


「おおおお、岡田先輩!」


「…お!冬華ちゃん!」


「おおおお、岡田先輩!」


「2回も呼ばなくていいよ」


「あ、すみません!」


コミュ障の私〜!なんでこうなっちゃうの〜!


「教室で何してたの?」


「ピアノ弾いてました!ショパンのバラード4番です!」


「あ、あーあれね、いいよね」


「はい!!あの哀愁漂う中の優しさのある旋律が好きなんですよ〜

わかってくれますか?」


「う、うん!それな!」


先輩もやっぱりピアノのことは詳しいみたい


そして2週間が経つ

………あれ

………ん?

………え?

………なぜ


なぜ、転校生の加藤?伊藤?さんがまだ教室に残ってんだろ??

この時間は私がピアノを弾く時間なのに!!

無駄に金髪少女との時間が続く

そんな時だった


「……あの」


「!?」


金髪少女の加藤?伊藤?さんが私に話しかけてきた


「な、なんでしょう?」


恐る恐る聞いてみると


「……今日はピアノ弾かないの?」


「………え!!」


き、聞かれてたの?

…そりゃこの間も教室のドアの所にいたし…

で、でも


「ひ、弾きません!!」


【ブワーーー!!!!!】


私はダッシュで逃げた

なんで話しかけられたの!?

まさか!私のピアノ弾いてる姿を見て


『あーあー陰キャの戯れはこんなもんなのかー』


なんて思ってたり!?そうだよね!ギャルだもんね!!

とりあえず岡田先輩のとこ行こ…


「岡田先輩〜」


「おー冬華ちゃん、今日は早かったなー」


「はい、ピアノ弾けなくて」


「あ、ああ、そうなんだ」


「あ、先輩の教室誰も居ないですか?

そしたらピアノ弾いてもいいですか?」


「い、いいんじゃないか?」


そうだ、私がピアノ弾いてるところを見て好きになったって言ってくれたから

岡田先輩なら……私のピアノを聞かれてもいい


【♪〜〜♪〜♪〜】


私は鍵盤を弾く

あー心地いいなー

ピアノの音はなんでこんなに落ち着くんだろ?

全ての心が洗われるようだ


「………」


私は無我夢中でピアノを弾いた

その時だった


「ふ、冬華ちゃん!」


「……はい!」


岡田先輩は勢いよく私を呼んだ

な、なんだろ?

もしかして…このベートーヴェンのピアノソナタ、月光を聞いて

岡田先輩は感動を覚えたのかもしれない

そんな期待をしていると


「帰ろう!帰って公園に行こう!」


「公園?」


岡田先輩は私の手を引っ張った

手を握るわけでもない、掴んで引っ張って痛かった

どうしたんだろ…

手も握られないまま公園に着く


「どうしたんですか?」


先輩の顔がだんだんと怖くなる

な、何かしたかな?


「冬華ちゃん、ここ座って」


岡田先輩はベンチを指差す


「は、はい」


私は言われた通り座った

その隣に岡田先輩も座る

……近い

男の人と話したりするのも慣れてないせいか

この距離感はあまり嬉しいものではなかった

しかし先輩は


「冬華ちゃん…」


私の頭を押さえる


「……え?」


な、何?

岡田先輩はそのまま私に顔を近づけて

キスをしてきた


「……っ!!」


私は咄嗟に顔を離した


「冬華ちゃん、嫌なの?」


「…………」


突然のことに私は言葉を無くす

……怖い…それでも絞り出して言えた言葉が


「嫌です」


「何言ってんだよ、俺たち付き合ってんだろ?

キスくらいするだろ」


「心の準備が出来てません」


「いらないよそんなの!」


岡田先輩はまた私に顔を近づけ2度目のキスをする

その拍子に先輩の手は私の胸元へ伸びていた


「やめてください!」


私は思わず先輩を突き飛ばした

ベンチから倒れる先輩を見て私は急いで帰ろうとする

しかし


【バコン!!】


岡田先輩は走って追いかけて私の足を蹴る

その衝撃で私はその場で倒れてしまう

そして先輩は私に馬乗りになり腕を押さえた

それに必死に抵抗しても男の人の力には勝てない


「おい、付き合ってんだろって

お前なんのために俺と付き合ってんだよ!」


息が荒くなる先輩の唾がかかる

それすら体が凍るほど嫌悪感でいっぱいだった


「私は!岡田先輩がピアノ好きだって言うから」


私は素直に思ってることを言った

告白された時はそうだと思った

ピアノを弾いてる私が好きだって

ピアノが好きだって


「嘘に決まってるだろ!」


「……え」


私はその言葉に体が脱力した


「お前が好きそうな物で釣ったんだよ

俺が見てたのはこの体」


岡田先輩は私の制服を捲り上げる


「や、やめてってば!」


……もう信じられない


「お前がピアノ弾くところなんて誰も見てねーんだよ!」


「…………」


私は涙が溢れた

私のピアノ…誰も聞いてないの?

……そうなんだ

あんまり聞かれてもなって思ってたけど

本当に内心は私のピアノを聞いて欲しかった

先輩と付き合ったのも私のピアノを聞いてくれたからだった

……でも、誰も聞いてないんだ


「あんたのピアノ、あたしは聞いてたよ」


【カシャ】


「………え?」


「………」


私も岡田先輩も固まる

私たちだけだったこの公園からもう1つ声が聞こえた


「な、何撮ってんだよ…」


顔を青ざめて岡田先輩は私から離れる

声のする方を見てみるとそこには

金髪少女が居た

名前は…加藤?伊藤?さん

なんでこんな所にいるんだろ


「け、消せ!今の撮ったろ!」


岡田先輩が怒鳴るように金髪少女に言う


「あんた、受験生だったよね?」


「………」


「こればらまかれたくなかったらその子を離して」


「………」


「Von ihr weg」(彼女から離れて)


「………ば、ばらすなよ?」


岡田先輩はまだ顔を青ざめていてそのまま帰っていった

その間に私は立ち上がって涙を拭く


「きったないよ、制服汚れてる

これ使って」


彼女は私にハンカチを渡してきた


「……ありがとう」


私はそのハンカチを受け取って涙を拭いた


「怖かったの?悔しかったの?」


彼女から聞かれるとまた涙が溢れる

怖かった…初めて男の人の力を目の当たりにして

このまま何されるかわからなかった

でもそれ以上に…悔しかった

先輩の言葉で私のピアノが価値のあるものだと思ってたのに

騙されてこんなことになってしまっている

こんな私を見て彼女は


【ガバッ】


私を抱きしめてきた

小さな体なのに何故か暖かい

金髪の髪が私の顔にかかる

……人の温もりだ


「何も言いたくないなら何も言わなくていい

黙ってたってあんたのピアノから、伝わるものがあるんだよ」


「ありがとう!加藤さん!」


「……鬼頭なんだけど」


私の人生はピアノばかりだった

でも、鬼頭紅衣との出会いは

ピアノと同じく、私のモノクロの世界を変えてくれるのだった

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