モノクロと二つの音

ゆる男

1小節…モノクロの世界

1小節…モノクロの世界1-2


7年前のある日の学校帰りのこと


「………ん?」


【♪〜〜♪〜♪〜】


「ピアノ?」


私はどこかの家からピアノの音が鳴り響いていてその音を探した

誰がどこで弾いてるかはわからない

けど、何故か心に響くくらい綺麗な音に聞こえた

こんな綺麗な音、ピアノから出るんだ

そのメロディは時に激しく、時に優しく、時に悲しく、時に明るく流れる


次の日の帰り道でもピアノの音が聞こえる

なんか止まって聞きたくなる音色

こんな聞き入るようなピアノを弾く人は誰なんだろ?


「ちょ、ふーか?どこに行くの!?」


「落ち着かないからピアノ聞いてくる」


夜になってもピアノの音を聞いていた

その日以来私はピアノを聞くことが日課になっていて

もし、このピアノを弾いてる人と……

な、仲良く……なれたらな!

そんな淡い期待を抱き2ヶ月が経った


「……あれ?」


ピアノの音が聞こえない

今日はお休みなのかな?

そう思い込んでいても、次の日もその次の日も

……なんでだろ

ピアノの音が聞けなくなっただけで

途端に世界が騒がしく聞こえるようになった

車の音、風の音、虫の音

洗濯物を干す音、犬の足音、近所の子供の音

うるさくは無いけど心地悪い

ピアノの世界は静かに、安らかに音が階段を登って羽ばたくように宙を舞うのに


……私も、ピアノ弾いてみようかな


お父さんの部屋にピアノがある

お父さんが仕事で居ないことをいい事に部屋に入り暗闇の中ピアノの蓋を開けた


「…………」


暗くても綺麗なモノクロだった

本物のピアノは見たことはあったけどこんなに間近で見たことない

鍵盤?って言うのかな?

少し押してみよう

そう思って人差し指を鍵盤に押し込もうとする


【パチッ】


お父さんの部屋が明るくなった


「……っ!」


私は悪いことをしてる自覚もあったためか隠れる場所もなく咄嗟に頭の中で言い訳を考えた

……けど、何も出てこない


「こら!ふーか!お父さんの部屋で何してんの!」


お母さんが鬼の形相で私に近づく


「こ、これはね、あ、あの」


「この蓋は重たくなってるから手挟んだりしたら危ないのわかってる?

もし挟んだら骨折れるんだよ?」


「ひいいぃぃぃ!ほ、骨?」


私はお母さんの口から骨が折れるというワードが出てきて一瞬で青ざめる


「そう、だからピアノにはいじらないで」


「……うん」


……ピアノには…触れないんだ

私はその悲しさで一気に頭が真っ白になる

私も1回でいいからピアノ弾きたかったな

お母さんはなんかお父さんとあまり仲良くなくて

ピアノ好きのお父さんの影響でか私と妹にピアノを触らせたがらない

だから、心のどこかで、私はピアノを弾いちゃいけないものだと思ってる

だから……私はピアノを…


「ふーか、ピアノ弾きたいの?」


お母さんが優しい顔で聞く


「……え」


理解が追いつかない私はもう一度聞き返す


「ふーかがやりたいなら、ピアノ弾いてもいいよ」


「……いいの!?」


私は喜んだ、心の底から喜んだ

私もピアノ弾いてもいいんだ!


それから私は毎日ピアノを弾いてる

あの学校の帰り道で聞いたピアノより全然下手くそだけど

でも、私はこのピアノの音を聞くとモノクロの世界が色付くように明るくなる


こうしてピアノを引き続けて、中学生になり

合唱コンクールのピアノを弾くことになった

でも、昔のことを思い出してあんまり上手くいかなかったけど

楽しいな、ピアノを弾くことがこんなに楽しいなんて


私、天地冬華【あまちふゆか】は

モノクロの世界から1歩踏み出せた気がした


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