『物語』を読んでください。そして、読み終えましょう。
闇の中で、目を血走らせながら『物語』を読み返す。
しかし、今までの道のりや感情が確認できるばかり。
完と締められた『物語』に先は無い。
静寂が耳に痛い、タブレットの画面の明かり以上に明るいものの無い世界に独り。
途方に暮れるとはこの事か。
何度も『物語』を最初から読み直す。
何度も、何度も、何度も……
書かれてる内容に変化は無く、先が
バタンと倒れ込む、すべてを諦めたくなる。
倒れた
『ゲーム原案01』
横たわったまま、忌々しいテキストを再度開く。
駄文としか言えない概略のコーナーから読み直しだ。
なんとなく声に出す。ここに来たときのように。
「『審査員』である『私』は突然、『物語』に囚われてしまいます。プレイヤーは『審査員』として『物語』を読んでください。そして、脱出を図ります……」
『審査員』として物語を読む。
「『私』が『物語』から脱出するためには、『物語』を読む必要があります。読むことで『物語』は進み、いづれ読み終わるでしょう……」
声に出して読んで気付いた。
駄文だと読み飛ばしたこの文で、最初から言っていたのだ。
『私』は『審査員』として『物語』を読み終えてくださいと。
読み終えた『私』がするべき事は、ここで腐ることじゃなかったんだ。
思えば、ナニカの声もそうだ。
最初からヒントを出していたんだ。
ちゃんと読んで向き合えば、答えは出せたんだ。
起き上がった。
私は告げる、『審査員』として。
「不気味な臨場感があり、とてもリアリティのある『物語』でした。そして、結末の絶望感の演出はとても真に迫るものがありました。」
私は『物語』を『審査』した。
ちゃんと読んで、感じた評価を下すだけ。
それを言い切ったとき。
誰かが『してやったり』と笑った気がした。
_______________________
「……さん!……さん!」
声が聞こえる。リモートワークで、共に小説の審査をしてる同僚の声だ。
「すまない、ちょっとぼーっとしてた。」
今読んでた小説について所感をまとめたところだった。
「まったく、リモートだからってたるんでますよ!」
仰るとおりだ。
「少し熱心になりすぎてたみたいだ。ところで、そんなに私を呼んでどうしたんだ?」
「オススメの物語は見つかりましたかって聞いてたんですよ!なかなか返事が来ないので寝ちゃってるんじゃないかと思いましたよ。」
なるほど、ご懸念もっともだ。
ぐっと、組んだ手を上に上げて体をほぐす。
伸びた手の左手の薬指に違和感を感じる。
なんだか、指輪をしていた気がする。
私はずっと独り身なのに。
「オススメはありましたかー?」
同僚から催促の声が飛んできた。
「あ、あぁ、すまない。そうだな……それなら」
さっき読んだファンタジー小説はよかったな。
タイトルを思い返しながら口を開く。
「『私』は『ゲーム原案01』をオススメするよ」
「えー?なんですかそれぇ?」
私が思っていたタイトルと別のモノを口走ったような違和感がした。
だが、それを深く考える前にトラブルが起きた。
「うわっ!?コーヒーカップが落ちてる!いつの間に……少しタオルを取りに行ってくる」
タオルを取って帰ってくる頃には、違和感のことなど忘れていた。
おしまい
ゲーム原案01 QU0Nたむ @QU0N-TAMU
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