第14話
この世界でも宝石はそれなりに希少だ。
だからご神体として飾られることは少なくないし、金持ちなどの道楽では巨大な宝石で神像を彫ったりもするというからおかしな話ではないと二人で相談した上でのことだ。
信者を獲得するにしろなんにしろ、目に見えて『これ』とわかるものがあるのとないのとでは大違いだ。
ただただ『こういう神がいましてね』と説明する人はただ気が触れたのかと心配されるかもしれないが、モノがあって行動が伴えば、それっぽく見えるのではというちょっとしたセールスの手口である。
ただ問題は、そのセールスをするにもヨシヤは自分が上手くやれるビジョンがまるで見えていないという点だろうか。
それでも今は、目の前の夫婦に対してなにかしてあげられることがないだろうかという想い遣りの心がヨシヤを突き動かしていたのである。
「あの、よろしかったら」
「え?」
「マーサさんのために、お祈りをしても、よろしいですか?」
「……お祈り、ですか?」
「は、はい。あの、俺……行商を始めてすぐの頃、この石を拾って……お告げをもらったんです。今の今まで、どうしたらいいかまるでわかんなかったんですが……」
ヨシヤは本当に、どうしていいかわからなかった。
だからその気持ちは本物だ。
小さな嘘を混ぜた罪悪感はある。
しかし、もしマーサの、二人の愛の結晶に対して役に立てる能力があるのなら。
今はそこで止まるべきではないと、ヨシヤの良心は告げていた。
「折角だから、祈ってもらったらどうだい。ここまで話していて、ヨシヤさんはいい人だと思うし……」
「そう、ね……でもお告げってどんななんですか?」
マーサの不安そうな声に、ヨシヤは出来る限り安心してもらえるよう笑みを浮かべた。
リチャードが言うように、彼にマーサ達を害する気持ちはひとかけらもないのは、本当のことだ。
ちゃんと、ハナとヨシヤは話し合って信者を増やすにあたり、ルールを設けた。
それは彼らが無理に誰かを信者にするというような真似をするのではなく、誰かのためになるような形でありたいと願った結果だ。
嫌がられたらちゃんと止める。
ただ、お祈りをするだけ。
信者になってくれなければ、ハナはいつしか消えてしまうのだろう。
それを思えば、少々強引な手を使ってでも信者を増やさなければならないとヨシヤも理解している。
それでも、二人で話し合って出した答えは、それだった。
「俺の妻は体が弱く、そして俺たちには子供がいません」
「……まあ……」
唐突なるヨシヤの告白に、マーサが口元を押さえた。
リチャードも沈痛な面持ちをして、ヨシヤに対して何かかける言葉を探している様子だ。
そんな二人を見て、ヨシヤは『いい人達なんだなあ』と心が温まるのを感じた。
「だから、俺たちは思ったんです。俺たちのように子供が恵まれない人たちに、子供がいる人たちに、幸せな家庭を築いている人たちに……幸せが来たら、いいなあって」
「ヨシヤさん……」
「綺麗ごとでしかないことは、重々承知しています。実際、俺にできるのは祈ることくらいですしね……そんな時に、女神様が教えてくれたんです」
「なんと……?」
「あまり人には知られていない女神様で、妊婦の神様だそうです。祈れば、妊婦の苦しみを和らげられるかもしれない。御利益がどこまであるかなんてわかりません」
なんせ、レベル1なので。
その言葉をヨシヤは呑みこんだ。ここでそんなことを言っては台無しになることを、彼はよく理解していたのだ!
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