第2話
「あれ? でもその理屈で行くと、メジャーな神様ってほとんど交代しないんだよね」
「そうね、たとえばー……運命の神様とか、戦の神様とか、恋愛の神様とかは殆ど変わらないわね!」
「ああ、なるほど。で、交代した前の女神様ってのはマイナーだったってことは……ハナもマイナーな神様ってことだよな? 司るものって代々引き継ぐの?」
「ううん、その時その時で、誰かが祈ったことが芯となって、私みたいな神候補に宿るのよ。そしてそれを
意義を与えるのは人間であり、神はそれを受けて生まれ恩恵をもたらすのだという。
そして彼らが信じる心を失うと神は消えて、どこかで新しい信仰が芽生えて新しい神が誕生する……それを繰り返しているのだとか。
神が溢れかえっても困るので、この世界を作った創造神が上限を定めたという話だが、実際のところどのくらいの神がいるのかはハナも知らないということだ。
ヨシヤは『なんて
「じゃあハナは一体なんの女神なんだい?」
「ええとね」
はにかみ笑顔を見せながら、ハナはどこか誇らしげだ。
だが、彼女の笑顔を可愛いと思いながらヨシヤは固まってしまった。
「私ね、妊婦の神なの」
(前途多難の予感がするッ!!)
妊婦。それは妊娠した女性を示す言葉だ。
命をその身で
会社の中にも、女性は『女なのだから妊娠できて当たり前』と考える人間が何人かいた。
人体の神秘だし、大変そうなのになあと子宝に恵まれなかったヨシヤは思ったものだが、それこそ十人十色の考え方なのだろうと割り切ってもいた。
だが、だからこそ、それが信仰に繋がるかと問われると首をかしげざるを得ない。
なぜなら、妊娠したいと神に祈ることはあっても明確に『妊娠の神』なるものを崇めるよりはもっとざっくばらんに『家庭円満の神』とか大手の神を頼ることが目に見えているではないか。
(うちの妻、不憫可愛い……)
決して自分だけは見捨てることなく、彼女を支えていこうと思うヨシヤであった。
そのためにはまず、情報が必要である。
営業をするためには、自分が扱う物を理解しなくてはならない。それがヨシヤの信条だ。
「……具体的に、信者を増やすってどうするの?」
「私も神になって知識を与えられただけだから、どうってはっきりは説明出来ないんだけど……ヨシヤさんにもわかりやすく説明するとね、私たちはレベル1からのスタートなの」
「まあそうだろうね」
なんせ異世界に来たのは初めてなのだから当然だろう。
納得の話だとヨシヤは頷いた。
「んんんー……」
なにやらハナが目を瞑り、なにかを集中しているようだ。
ヨシヤが首をかしげていると、ぱっと彼女が笑顔になった。
「ゲーム好きなヨシヤさんがわかりやすいようにちょっと調整してみたの! ねえねえ、ステータスって言ってみて!」
「は? なんだって?」
「いつもヨシヤさん話してくれていたでしょう? ゲームだとステータス画面があって、色々確認出来るんだよって」
「え、うん。いやわかるけど、そうじゃなくてね?」
「いいからいいから! ここは私を信じてやってみて!」
「……はあ、うんわかったよ……。ステータス」
ここまで来たら拒否するのも難しいだろうとヨシヤは言われるままに声に出してみた。
声に出すとなんだか自分が痛い大人な気がして恥ずかしくなったが、目の前に画面が現れたことにぎょっとする。
「な、なんだこれ!?」
「前にヨシヤさんがやってたゲームの画面を参考にしてみたんだけど、どうかしら」
褒めて褒めてと言わんばかりのハナに対して、ヨシヤは目を丸くする。
そして画面に視線を向ければそこに確かに自分の名前があって、彼はこれが現実なのだとようやく実感した。
「ん……?」
名前は吉田ヨシヤで合っている。名前の横にある女神の眷属という部分も、レベルが一という表示であるということも理解出来る。
だが次の項目にある『職種:
「んん!?」
「ど、どうしたの?」
「いや、あの、この職種って」
「ああ、この神域の外……つまり私たちが来た異世界はまさにゲームみたいな剣と魔法の世界なのよ」
「そ、そうなんだ。それでね? 職種って……」
一度は誰もが夢に見たことがあるんじゃなかろうか、剣と魔法の世界。
めくるめく冒険、使ってみたい魔法という架空の力。
それをゲームが叶えてくれたと妻に対してヨシヤは熱弁を振るった記憶がある。
残念ながらハナはゲームには興味が無い性格だったが、ヨシヤが楽しそうならいいと笑って許してくれて惚れ直したものだ。
だからこそ、彼が異世界生活に馴染めるようにとこうしてゲームのような画面を作ってくれたのだろう。
付き合いの長いヨシヤは、そんな妻の優しさを理解する。
その心遣いはありがたい。
大変感謝している。
よく出来た妻だと褒め称えることだって、いくらでもしようではないか。
だが、ヨシヤにとって今、問題にするべきはそこではなかったのだ。
「職種はね、この世界だと特性を神が判定してその方向に進むらしいの。私の眷属ってことで自動的に判定があったんじゃないかなあ。どんな職種だった? 技術者とかかな!」
「……むし」
「え?」
「むしつかい、だって……」
「え……?」
ハナの笑顔が固まった。
なにせ最適な特性で職種が決められたというのなら、それは覆すことが難しいのだろうとヨシヤも思う。
だが、最適なことと、それを本人が受け入れられるかは別問題である。
そう、なぜならば――ヨシヤは、虫が大の苦手だったのだ!
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