第4話 王女の複製

 王女の誕生パーティは続いていたが俺は急いで家路についた。

ハッピーライフ計画は今のところ全て計画通りだった。

髪の毛さえ手に入れればもう計画成功は目前だ。


 家路を走る馬車の中で、俺の頭の中には早くもアデリナ王女との新婚?甘々生活が浮かんでいた。

俺のニヤケ顔を隣の俺(のホムンクルス)が冷静な目で見ている。

ニヤケてる姿を冷静な自分に見られるのは嫌な物だな。


 家についたが部屋着に着替える間も惜しい。

早速俺は王女のホムンクルス作成に取り掛かる。

王女の髪の毛を魔核に添えて調整槽のエーテルの中に沈めた。

これで良し。

順調にいけば四週間位で完成するはずだ。

 

 初めの一週間はほぼ寝る暇も無く調整槽につきっきりだった。

人体情報が魔核にきちんと定着するのを確認するまで気が抜けない。

俺は魔核の変化をかじりつくように読み取り色々調整しながらその時を待った。

そして丁度十日後、魔核周りに肉片が形成されてきたのを見てようやくホッとする。

後は放っておいても魔核を中心にエーテルと万能鉱物から肉体が形成されるゆくはずだ。

ホムンクルス作成は順調に推移していた。


 人体が出来ていくのをリアルタイムで見るのは少々グロテスクだったが、錬金術師なら特に抵抗は無い。

医者の端くれでもある錬金術師は軍の要請で医療施設に出向することもある。

駆け出しの頃は兵士の失った足や腕の部分治療はさんざんやったもんだ。

人間の体を一体丸ごと生成に成功したのはこの世で自分だけだろうが。


 作成開始から20日程経った頃、俺は嫌な予感にかられた。

骨格が明らかに小さいような気がしたのだ。

しかし、最早後戻りするすべはない。

魔核が定着したからにはあとは見守るのみだ。


 気のせいだ。ここから大きくなっていくさ。


 自分にそう言い聞かして不安心を抑える。

そして開始から27日目、遂にホムンクルスは無事作製完了した。

だが……。

俺は調整槽の淵に肘をついて頭を抱えていた。


「嘘だろ……。」


 エーテルが浸された調整槽の中には一糸まとわぬ裸の少女が横たわっている。

ただしそれは、アデリナ第一王女ではなくエリーザ第二王女だった。


そんな馬鹿な、何でこんな事に……。


 あまりの事態に俺はへなへなと力なく調整槽の横にへたり込んだ。

先日の記憶を慎重に思い返してみる。

失敬した髪の毛は確かにアデリナ王女のドレスから失敬したものだ。

なのになぜそれがエリーザ王女の髪だったのか。


 アデリナ王女とエリーザ王女は傍目から見ても非常に仲がいい。

もしかして、アデリナ王女にじゃれた時にでもエリーザ王女の髪が着いてしまったのかもしれない。

絶対ないとは言い切れない。

よくよく考えれば同じ金髪のロングヘア―だ。

現実がその仮説を証明している。


 理想の女をホムンクルスで複製する。

計画は完全にうまくいっていたはずだったがこの事態は想定外だった。

絶世の美少女であるアデリナの妹であるからエリーザも負けず劣らず非常に美しい顔立ちである。

だが、何といってもまだ15歳だ。

人間ならば将来は姉に劣らない美女に育つかもしれない。

しかしこれはホムンクルスである。

魔核に戻さない限り死にはしないし多少のケガもいつの間にか回復する。

その代わり、ほぼ成長しない。

基本的には魔核が体を作った時の情報を維持するからだ。

つまり永遠の15歳。

俺は床にorzポーズのまま固まった。


「やってしまった……。 貴重な魔核が。」


 こんな少女相手にあんな事やこんな事をする訳にはいかない。

どうやら俺の邪悪な計画は最終段階であっさり失敗した様だった。

色々と妄想していたが全ては妄想のままで終った。

しかもこんな根本的な単純ミスで。

再度溜息が出る。


はあ。


 俺は床に崩れ落た。

落ち込んで項を垂れている俺の右肩を叩く者が居る。

頭を上げると愛犬のアインの顔があった。


「ワン!」


 気の毒だが、まあそう落ち込むな。

そんな感じだ。

犬にまで同情されてしまった。

またまた大きくため息を漏らす。

タップリ30分程経過して俺はようやく起き上がった。

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