第3話 聖王女と煩悩少年

 計画も大詰めの第三段階にきた。

いよいよ理想の女のホムンクルスを作ることにする。

いやぁ、ここまで長かったなあ。

さて、誰にするか。


「どうせなら、胸が大きくて色っぽい女性がいいな。」


 俺は未来のイチャイチャ生活を妄想してニヤけた。

実はオリジナルコピー元を誰にするかはまだ決めてなかった。

夜の店の色っぽい女性。街で評判の美人。貴族令嬢等々。

事前に何人かを付けていたが迷ってしまって決めきれなかったというのが正しい。

散々迷っている理由がもう一つある。

ホムンクルスの作製に当たって最も重要な「魔核」が最後の一個だからだ。

人体を作製した後で悔やんでもやり直しは出来ない。

 

 しかし、いい加減決めなくては。

俺は寝床で転がり悶え、散々悩んだあげく決心した。


「……よし決めた。王女の複製を作ろう。」


 肉感的な美女もいいが、どうせなら普通に手の届かない女がいい。

そんな考えで決心する。

俺は『聖王女』アデリナ第一王女の顔を思い浮かべた。

諸外国には妹の第二王女と共に帝国の宝石とも称えられている美姫だ。


 アデリナ王女の年齢は18歳。

王族は市井の学校に通わず、王宮に様々な分野の講師を呼び寄せて学ぶ。

国内選りすぐりの識者をつけるという事で錬金魔術に関しては俺が担当講師だった。

正直言えば研究に没頭したかったので乗り気ではなかったのだが王命ではしょうがない。

年齢が年齢なので公的役職から離れていた事も王族側から都合が良かったのかもしれない。

とにかく俺は講師として幾度となく王宮を訪れて王女殿下と会っていた。

つまり彼女は教え子である。

その教え子をコピーしようというのだから少し良心がうずいた。

しかし、あえて無視する。


 俺の名誉に誓って言うと王女と接していた時に変な感情を抱いた事は無い。

そもそも身分も年齢も違い過ぎるし身に纏ったオーラが違う。

面と向かってそんな劣情を抱けるほど俺は図太くはない。

そもそもついこの前までしわがれた爺だったのだ。


 実の所、王女をホムンクルスとして複製したらどうなるか単純に興味がある。

複製の過程で王家だけに代々伝わる光属性魔法の秘密の一端がわかるかもしれない。

加えて、胸の大きさも決して小さくなかった様な気がする。

誰にも言えない事であるが俺は巨乳好きであった。

尤も、邪な目で見た事が無かったので正直詳しく断言できないが。


ー どうせなら大きくあってくれ ー


俺は星に心から祈りをささげた。


 さて、決めたからにはどうやって王女の髪を手に入れるか。

それについては漠然と考えていた作戦がある。

来週、王女の誕生パーティがあったはずだ。

王族講師の一人だったテオ・ホーエンハイムもその席に呼ばれている。

何とか隙を見て髪一本手に入れられるといいのだが。


 入城には事前申請が必要だ。

警備する側としては招待されている誰かの身内のふりをして曲者を招く訳にいかない。

俺にはかつて戦災で失った妹がいた。

その遠縁の少年がこの俺という設定だ。

長年国に貢献してきた身元の確かなテオが言うのだから審査はパスするだろう。





 誕生会当日、俺はホムンクルス俺のコピーと共に正装して城へ出かける準備をした。

服装にある仕掛けを仕込んで余計に時間がかかる。

少し遅刻気味だがしょうがない。


「……さて、これから王宮に行くわけだが改めて確認するぞ。」

「うむ。」

「本来、招待されているのはテオ年老いた自分だけだ。だが身内を連れてきてもいい事になっている。」

「事前審査はパスしたな。」

「ああ。俺はお前さんの遠い親戚で錬金術を学んだ弟子という設定だ。話し方を間違えるなよ。」

「承知。」


 俺にご主人呼びは間違ってもしてもらってはならない。

ほんにんは今日、テオ・ホーエンハイムホムンクルスのおまけだ。

後、見た目はひい爺さんと孫くらいだが俺が独身なのは知られているのでひ孫とは名乗れない。

この計画を思いついた時から、周囲には事前に機会ある事に親戚の存在を匂わせていたのだ。

いつか来るこの時の為に。

妹よ、情けない兄を許してくれ。


「受付で問われたらそう言って自然に俺を紹介してくれ。」

「了解した。」

「よし。じゃ、行ってくるぞアイン。留守をよろしくな。」

「ワン!」


 アインに見送られて俺達は家を出た。

馬車にゆられて城下町に着くと「聖王女」の誕生祭に城下町もお祝いムード一色だった。

普段は見られない様々な出店が大通りに軒を連ねている。

絶え間ない人込みと雑踏。

平和な今の時代、開かれた王宮に対して庶民感情も悪くない。

研究以外目に入らなかった時は祭りなどに全く無関心だったが、今は違う。

自分はこんな楽しそうな事も面倒だと思って避けてしまっていなかったか。


 王宮の門をくぐると受付の顔見知りの騎士に声を掛けられた。

予定通り自分に自分を紹介してもらい、特にもめる事も無く通される。

広間に続く廊下を年老いた自分ホムンクルスの後について無言で進む。

王女の髪を首尾よく手に入れられるかどうか頭が一杯だったからだ。


 やがて王宮の広間に到着した。

玉座正面に国王陛下と皇后陛下が取り巻き貴族とグラスを手に談笑している。

そしてその近く、名士や貴族の面々に埋もれていてもすぐにわかった。

輝くばかりの美しい王女がそこにいた。

妹姫と二人並んで比較的年齢が近い貴族の子弟達と話している。

 

 綺麗な眉・青い宝石の様な瞳・形のいい鼻・微笑をたたえた口元。

顔立ちはまだあどけなさを残しているが、全てのパーツが絶妙な形で絶妙の所に配置されている。

そして大きい胸や絶妙なカーブを描く腰つき。

体はしっかりと一人前の女性であることを主張している。


 両陛下に挨拶後、機会を見はからい王女達の元へ向かう。


「失礼、殿下。御生誕お祝い申し上げます。」

「あら、ホーエンハイム先生! ありがとうございます。」


 陳腐な表現だがきれいな花が周りに咲く様なまぶしい笑顔だ。

早速、ホムンクルスが自分を紹介する。

初対面の印象は大切だ。


「こちらは弟子のレオと申します。私の親類です。」

「初めまして殿下。私からもお祝い申し上げます。アウレオルスと申します。レオとお呼びください。」

「初めまして。来てくださってありがとう、レオ。」


 そう言ってアデリナ王女は俺に微笑んだ。

うーむ。やはり綺麗だ。

改めてこの王女に決めて正解だった。

ちなみに俺が名のったものは正式な名前の一部である。

あまりにも長いのでずっと省略してしていたミドルネームだ。

妹殿下にも挨拶してから自然に会話に加わる。

こちらも姉に負けず劣らす美しい。が、まだ子供だ。

しかし年頃が同じ位なのも良かったのかもしれない。

会話を交わしつつチャンスを伺う。


「先生はご家族の事をあまりお話ししなかったですから、私と同じ年齢の御親戚がいらしたなんて知りませんでした。」

「帰国するのは久しぶりなんです。ずっと隣国に居たもので。」


 色々と話が弾んでいたが本来の目的は忘れない。

俺と年老いた俺ホムンクルスが交代で会話しつつさりげなく王女を観察しチャンスが無いか探る。

そして神はついに俺に微笑んだ。

長い金髪が王女のドレスに1本ついているのを発見した。

 

 チャァアーンス!!!!

すみませんね王女、髪一本拝借しますよ。


 俺はワインに酔ったふりをしてよろけた隙にドレスに付いていた髪をゲットした。


「す、すいません。失礼しました。」

「おお、これは申し訳ありませぬ。弟子が粗相を犯しまして。」

「お気になさらずに。大丈夫ですか?」


 王女に怪しんだ様子は無い。良かった、完璧だ。

教師としての俺の日頃の信用が弟子にも役に立った様だ。


「申し訳ありません。醜態を見せてしまいました。酔いを醒ましてまいります。失礼します。」


 口と態度で申し訳なさそうなそぶりをして王女の元を去る。

しかし自然と口元が緩むのを感じていた。


うおっしゃあぁぁあっ!!!! 王女の髪をゲットしたぞおぉっ!!!!


 実は俺の服装の腕部分には見た目には分からないが軽い粘着力のある樹液を塗ってある。

狙い通り髪の毛一本くらい一瞬ドレスに掠るだけで回収できた。

まんまと成功して小躍りしたいところだが態度に出すのは控える。

社交の場でこれ以上醜態を見せるわけにはいかない。

すぐ近くに本物の王女がいるのに今の俺の頭の中は早く帰ってホムンクルスを創造する事で一杯であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る