第2話 若返り

  ハッピーライフ計画(仮)はざっくり言って3段階ある。


①.今現在の自分のコピーを作る。(②の作業をさせる為に必要。)

②.自分の体を若い自分に作り変える。(老いた体をホムンクルスに置き換える。)

③.好みの女を複製する。(最終目的:人体のかけらを手に入れ理想の女を作る。)

  ⇒ウハウハ生活突入。


 つまり計画は最終的に自分含め3体のホムンクルスを作製する事が目的だ。


 第一段階は成功したので早速第二段階に取り掛かる。

綺麗な女性が傍にいても自分がヨボヨボの体では意味が無い。

第二段階は自分がホムンクルスの体で若返る事だ。


 どうせ若返るならいい男に若返りたい。

だが自分の技術ではハンサムな他人の体を模倣出来ても自分の魂は移せない。

結局、魂の定着しているこの年老いた自分の体しか成功の可能性は無いのだ。

しかしホムンクルスコピー体完全に移すことは出来ない。

ならば、何とかこの体を強引に若くするしかない。


 人体のかけらを利用して心ごと体を複製し、魔核を使ってその体を若く維持する。

第一段階が成功した今は理論的に難しくないはずだ。

今度はこの自分そのものを情報体とした「魔核」を作る。

それを中心にして若い自分の体をホムンクルスで作製すればいい。

ただしその前提条件は若い頃の自分の体の情報がある事だった。


 現在、唯一残っている自分の若い時の「人体のかけら」は18歳の物だ。

この計画を始めた時に数日間かけて家中をひっくり返して見つけておいた。

この世界では18歳で成人として認められる。

成人の儀の時に自分の血を結晶に封じて記念にしたものだった。

まさか将来こんな事に使うとは思わなかったのでそういう意味では運がいい。

しかし18歳の時の自分はヒョロヒョロして見かけも頼りなかった。

正直、もう少し大人のものがあればよかったが、無いものは仕方がない。


 若返りの準備は整った。

この肉体を18歳当時の血の情報通りに書き換える。

理論的には大丈夫と確信していてもやはり不安はあった。

命を懸けた文字通りの一発勝負だからだ。


 この体を情報体として魔核に融合させるなら一度体を分解する必要がある。

そして、魔核が再び若い体を再構成する間は何もできない。

万が一予測不能の事態が起こった場合に対処できるとしたら今現在の知識を持つ自分自身コピーだ。

だから何より先に自分のホムンクルスを用意する事が必要だった。


 自分の命を懸ける前に色々と試したかったが何回も実験するだけの材料は無い。

成人記念に保管していた若かりし頃の『人体のかけら』は、ほんの少しだ。

無駄遣いなどできない。覚悟を決める時だ。

たとえ万が一失敗したとしても後悔は無い。

どうせ遠くない未来に死んでいくだけの人生だ。

そう心を決めて自分の分身に声をかける。


「後の事は頼んだぞ。」

「分かった。まかせろ、ご主人。」


 自分自身にそう言われるのは違和感があるな。

だが今は文字通り自分ホムンクルスを信じて任せるしかない。

意を決して「人体のかけら」を調整槽に取り付け、魔核を飲み込んだ。

飲み込む力が衰えた自分にはなかなかきつい。

のどに使えながらなんとか飲み込む。

この魔核はやがて体の中心に定着し、体を分解して情報を取り込む。

後は魔核を中心にの人体のかけらがの情報で体を若く再構成するはずだ。


 その後、呼吸管を口に咥えて調整槽の中に横たわった。

若く生まれ変わる前に溺死したらシャレにならん。

体が分解されるまで呼吸管は必要だ。

やがて胃の中に入った魔核を中心に体が引っ張られていく様な感覚を覚えた。

箱の周囲に書いた魔法陣に魔核が反応し、体が一度解体されてゆくのを感じる。

そして意識は深く沈んでいった。





 調整槽に入って約一月後に意識を取り戻した。


「おおっ! やったぞ!」


自分の体を見て小躍りする。

第二段階も無事成功だ。

自我を保ったままホムンクルスとして体が若く作り直されていた。

人類史上初の人間とホムンクルスのハイブリッドである。

窓を開けて大っぴらに叫びたい。

出来ない事がつくづく残念だ。

 

 体を様々に動かしてみるが全く痛い所が無い。若さは素晴らしい。

おまけにホムンクルスの体は魔核からの情報で常に若い時の情報が維持される。

魔核を破損しない限り基本不老のはずだ。


「ふっふっふ。後は儂好みの女を作るだけじゃあ!」

「ご主人、自分の呼び方を替えた方がいいぞ。後、喋り方も若く。」

「そ、そうか。そうだな。」


 自分から突っ込まれたよ。

確かに第一人称が「儂」では18という年齢に似つかわしくないな。

この年齢ならば私的な場の一人称は「俺」でいいだろう。

不要な事で目立つのは得策ではない。


 テオのハッピーライフ計画は徐々に成功へと近づいていた。

後はいよいよ最終段階だけだ。

改めて計画を整理する。

 

 計画発動以前には「若返った時点で誰か女性と付き合う」事も考えたが、結局その考えは却下した。

第一に不器用な自分に女性をナンパする事はハードルが高い。

第二に交際女性が出来てもこの体では一緒に年老いていく事は出来ない。いずれ破局する事が目に見えている。

第三は理想の女性を複製できる技術があるのにわざわざ女性と付き合う努力なんてしたくない。


 特に予定変更の必要は無かった。予定通りに進む事にする。

好みの女性の人体のかけらを拝借しよう。

髪1本あればいい。


「腹が減ったな……。」

 

 考えればこのひと月食事などしない状態で寝たきりだったな。

ホムンクルスになった今でも生命維持の為の食事は必要だ。

食事をして健康な肉体は保たれる。

そして健康な肉体が生み出した魔力を取り入れて「魔核」は機能する。


 水槽に寝た切りの時は全てホムンクルスに面倒を見て貰っていた。

適時、液状の最低限の栄養素を経口摂取させてもらった。排泄も同様だ。

ま、自分自身に世話される分には恥ずかしさは無い。


体が若返ったので歯も再び生えそろった。

このひと月まともに食事をしていないのだから、がっつり系の固形物を食べたい。

成功のお祝いに今夜は外食に行く事にしよう。

ホムンクルスと二人で歩いていても問題ないはずだ。

どこから見ても祖父と孫にしか見えないだろう。


「分厚いステーキなんていいな。いや~肉を思い切り頬張るなんていつ以来かなぁ。」


着替えた俺は足取りも軽く研究室の扉を開いた。

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