第7話 消失
「それで、どういうことなのか。教えて。」
私は部屋に着くなり、上着も脱がずに椅子に座り机の上にいる黒猫に問いかけた。
「その前にあなたに見せたいものがあるの。」
黒猫は机の上から床に飛び降りた。すると、急に半透明の水色の煙に覆われ、猫の影がだんだんと人間の影に変わっていった。
「これが私の本来の姿なの。」
そう言った黒猫の姿は私だった。正確に言うのなら、今の私より少し背が高くて、髪の長さも今の私は肩まであるが彼女は顎までしかなかった。その姿はまるで…
「未来のあなた……私は未来の雨夜月樹なの。」
未来人。にわかには信じがたいけれど、今までの出来事がこの嘘のような話を本当の話に仕立て上げている。
「…とりあえず、未来の私、ややこしいから黒猫からとってクロと呼ぶけど、クロが未来から来たってことは信じるよ。」
私は、疲れきった頭でなんとか思考を繰り返して今の状況を把握しようとした。
「…まず、聞きたいのは何で…クロが過去に戻ってきたの…か。」
急に今日の疲れがでたのか、だんだんと体が重くなり、瞼も重くなってきた。私はなんとか抗おうとするが、抵抗出来ず、体は自然とベッドの方に向かった。そのまま倒れこむようにベッドの上にうつぶせになった。クロが私に布団をかけてくれた。
「私が……から来た……は、桂を助ける……だったの。」
かすかに聞こえるその声を最後に私は夢の中に沈んでいった。
翌日目が覚めると、昨日と同じようにほぼ1日眠っていた。それなのに、疲れは取れていない。でも眠気はなかったので、クロから話を聞こうと思ったが部屋を見渡してもクロはいなかった。外に出ているのかと思って1日待ってみたが、クロは戻ってこなかった。私はクロが置いていった願いを叶えてくれる指輪をつけて、クロを呼び出したが来ることはなかった。私は1日中考えた事によってある1つの答えにたどり着いた。クロは確かに未来の雨夜月樹だと言っていた。そして私は後1年もたたずにこの世からいなくなる。少なくとも私がクロのあの容姿に残り1年でなるとは考えにくい。ということは、私が死ぬ未来よりもう少し先の未来の雨夜月樹ということだ。ということはクロはあるはずがない未来の私となり、この世に存在する事が出来なくなったということなのだろう。あくまで私の推察にすぎないから真実とはいえないが、今の状況を見るとこれがもっとも真実に近いだろう。
「そうなると、クロから話を聞けなくなったってことになる。」
クロがいなければ、私が死ぬ理由もクロの存在自体の謎も桂を助けるためだといった謎も知ることが出来ない。そんな絶望的な状況のはずなのに、私は絶望よりも安堵の方が大きかった。だって、私はずっと生きることから解放されたかったから。大人は皆死ぬことを残酷なことのように言うが、私は生きることも残酷に感じていた。生きていればいい事があるよと言う大人の無責任な言葉にも何度も傷つけられた。周りには私の辛い状況を理解しようともせず、自分の自己満足のために綺麗事を並べる大人達しかいなかった。そんな残酷なこの世界から私はやっと解放される。死が救いだと思っているわけではない。死ぬのは私だって怖い、でもそれ以上に生きる事の方が私は怖かったのだ。開け切った窓から涼しい風が入り込んだ。夜空は雲に覆われ月の光さえ見ることは出来なかった。私はスマホを手に取り、充電コードに差し込み、電源を入れると1つの通知が来ていた。桂からメッセージが来ていたのだ。
『再来週の土日に、僕の高校で文化祭があるんだ。時間があったら来てくれないかな?』
という内容のものだった。高校の文化祭は一度も行ったことがなかった。死ぬ前に一度は行ってみたかったか。
『分かった。楽しみにしてるね。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます