第5話 睡眠
家に帰った私は倒れこむようにベッドの上にうつぶせになった。毎日家に引きこもっている私の体を普段感じないような疲れが重くした。そのまま目を閉じて今日の事を思い出さないように私は現実から離れることにした。
「私に気づかないほどとは。今日は相当疲れたみたいだね。」
今にも寝そうな私の体はその声に驚き一瞬軽くなった。上半身だけ起き上がると、ここの飼い猫かのように、堂々と机の上に座っている黒猫と目が合った。黒猫には聞きたい事が山ほどあるが今の私は黒猫を問い詰められるほどの力を持っていなかった。私は錆びた金属のように動かない口を、残っている力全てを使い動かした。
「……なんで、私のスマホ…すぐに返したの?」
「そもそも、私は君のスマホが欲しかったわけではない。」
私とは打って変わって黒猫は流暢に話した。
「……じゃあ、なんで」
「君と桂を会わせたかったんだ。」
「えっ…なんで」
「君が次、起きた後に話すよ。今の君には頼めそうにないからね。」
黒猫がそう言ったとたん私はベッドに倒れこみ、目を閉じた。
私が起きた時は、太陽が真上で騒がしいほど輝いていた。
「やっと、起きたか。」
私は目をこすりながら上半身だけ起き上がらせ、寝る前と変わらずに机の上に居座っている黒猫を見た。
「ふぁー……それで、なんで私と桂を会わせたの?」
大きなあくびを手で隠しながら、私は黒猫に問いかけた。
「桂に聞いてほしい事があるんだ。」
「桂に…だったら自分で聞けばいいじゃない。だって、あなたは人間になれるんでしょ。」
黒猫は桂にスマホを渡す時、女の人になっているはずだ。だから確実に黒猫は人になる事が出来る。なのに、何故わざわざ私を通して彼に聞くのか。謎は深まるばかりだ。
「確かに私は人になれる。でも、君ではなければ教えてくれないだろう。」
「私じゃないと教えてくれないことって。」
いくら何でも怪しすぎる。ただでさえ、魔法という現実離れな事を目にしているから命の危険性さえ感じてしまう。
「内容によっては聞くか考えるけど、とりあえずその聞きたいことっていうのは何?」
「魔法の小屋の2階には和室部屋があるだろ。その部屋の押し入れに小さな箱がある。その箱についてある南京錠の番号を彼に聞いてほしいんだ。」
「ま、まって。まず何であなたが押し入れの中を知ってるの?そもそも小さな箱なんて見たことないしそれに桂がその南京錠の番号を知っているって何で分かるの?」
私はとめどなくあふれる疑問をそのまま黒猫にぶつけた。黒猫の返答は答えになっていなかった。
「それは……いつか話すさ。それで、聞いてくれるのか。」
いつかって、絶対話す気ないでしょ。と呆れるような怒った顔で黒猫を見つめたが、黒猫は何も言わなかった。危険性はなさそうだし、黒猫が欲しがっている箱の中身が気になってしかたがない私はつい、頼み事を引き受けてしまった。黒猫は「また後で来る。」と言い残し、どこかへ行ってしまった。私は、さっそく桂に連絡をした。昨日、桂とは連絡先を交換していた。私は、メッセンジャーアプリを使って桂にメッセージを送った。
『桂に聞きたいことがあって、明日魔法の小屋で会える。』
メッセージは数分で既読され、返事が返ってきた。
『ちょうど、明日はカフェが休みだから、明日の夕方6時に待ち合わせでも大丈夫?』
メッセージを見て、今が平日の月曜日だということを認識して焦ったが、ちょうど昼休みの時間だから怪しまれることはなかったみたいで安心した。
『大丈夫だよ。じゃあ、また明日』
練りに練った文章だが、結局そっけないものになってしまった。たったこれだけの文章でも悩んでしまう性格が嫌になる。私は疲れて、またベッドに寝ころんで目を閉じた。起きた時に明日の夕方になっていれば、余計な事を考えなくていいのに、っと思いながら私は夢の中に沈んでいった。
「……今何時だ?」
起きた時太陽は寝たときとあまり変わらず、騒がしく輝いていた。沢山寝た気分ではあるが、どうやら数分しか眠れなかったらしい。ふと、時計を見ると眠る前より4時間巻き戻っていた。
「……え、時計が壊れた?」
私は机の上にある電子時計を何度も目をこすって見たが時間は変わらなかった。私は枕の隣にあるスマホを取り時間を確認した。しかしスマホの時計も電子時計と同じ時間を示していた。ここ最近摩訶不思議な出来事に出会っていた私は、すぐさまタイムリープというやつかと思った。そうなると、一体いつまで戻ったのか気になった私は、スマホの時計の下の日付を確認した。そこには9月28日火曜日と書かれていた。
「……昨日って9月27日だったよね。」
私は不安になり、メッセンジャーアプリを開き昨日の桂との会話が残っているか確認した。メッセンジャーアプリにはしっかりとデータが残っていた。
「ということは、ただ長時間眠ってたってこと……」
私は長時間というよりほぼ1日に眠っていたということだ。今までの人生でこんなにも長時間眠ったことがなかったので、不安に思ったが、らしくない事をして疲れたのだろうと結局気にしなかった。私はその後約束の時間までいつもと変わらない日常を送った。
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