第3話 外出
私は、ダボダボな部屋着から灰色のパーカーと黒いズボンに着替えた。私が持っている服の中で唯一外に着ていける服だ。部屋着以外の他の服は、だいぶ前に記憶とともに炎の中に投げ入れた。肩まである髪を一つに束ね、部屋の中を散らかして見つけた外出用のメガネに変えたら、後は外にでるだけだ。
まずは、部屋のドアノブに手をかけた。部屋の扉は、今日は思っていたより簡単に開けることが出来た。私はすぐ近くにある玄関のドアの前で止まった。幸いなことに両親は出かけており、玄関のドアで立ち止っても不審に思う人間はいない。私は、そっとドアノブに手をかけた。気持ちが変わる前に私は勢いよくドアを引いた。
「あ、あれ……開かない。」
何度引いても開かない。鍵は開けたから、開くはずなのに。
「あっ………」
私は一度手を離し、落ち着いてもう一度ドアノブに手をかけた。そしてドアを押した。さっきとは比べ物にならないくらい簡単にドアは開いた。そして一歩私は外に出た。外に出ることがこんなに簡単だったことに笑みがこぼれた。少しの違和感を私は足に感じ、下を見る。そしてゆっくりと扉を閉め、
玄関にある段差に座り靴を履いた。その時に私は自分が思っている以上に緊張している事に気がついた。
私はもう一度ドアを開け、鍵を閉めた後、知り合いに見られたくないからそそくさとその場を離れた。今は日が暮れ始めてこの世界が少しずつ暗くなっている。私が住む場所は都会とは少し離れた住宅地であり、都会で働いている人が多く住んでいる場所でもある。駅へと向かっている私は、我が家に帰ろうとしているたくさんの人たちと逆に向かっているため、異端な存在に思え深くフードをかぶった。駅に着くと、人の波に逆らい電車に乗り席の端に座って流れていく景色を見つめた。目的の駅に着くまでは鼓動のはやい心臓を感じながら過ごしていた。電車を降りると昔とは少し違った景色に戸惑いながら記憶を頼りに駅をでた。駅前のビルも駅と同じく昔と違っていた。祖父との思い出が失われていくような気がして悲しみが湧き出た。私は目の前の景色がよく見られなかった。私は逃げるように自分の記憶にある道を探した。駅から少し離れると見覚えのある道を見つけた。記憶を頼りに魔法の小屋に向かった。魔法の小屋は住宅街の中にある。店としていいのかと思えるくらい主張をせず、普通の一軒家と勘違いして素通りしてしまうような店だった。それでも今は常連客やSNSの口コミでそれなりに人気のお店になっているらしい。祖父がお店をやっている時のお客さんはほとんどが常連客だった。しかし、祖父と話すのが楽しいみたいで毎日のように来る人もいた。そんなお店は暖かくて穏やかな私の居場所だった。今、私の目の前で魔法の小屋は私が昔聞いていた声より高い声を響かせていた。私は入る勇気が出なかった。知り合いに会いたくないという以上に祖父に対しての罪悪感が私の体を縛り
「お前にはこの店に入る資格さえもうない。」
とささやいてくる。とてもじゃないけど耐えられない。私の足は少しずつ駅の方に向いていた。スマホはあきらめよう。別に使わないデータしか入っていない。過去の記憶など全て捨てるべきだ。それにもう約束の時間だって過ぎているに違いない。時計が近くにないから確認は出来ないけれど。そう言い訳しながら私は駅の方に足を向けた、その時……
「るな……るなだよな!」
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