第1話 窓

 「はぁー、今日はついてたなぁー」

 ゲーミングチェアに寄りかかり天井を見ながら、今日のゲームの反省をしていた。それが一通り終わると次第に眠くなり、体は自然とベッドに向かっていった。私の部屋はそんなに広くなく、振り返ればすぐそこにベッドがある。ベッドの横には壁の三分の一を占める窓があるが、ここ最近この部屋に自然の光が差し込んだ事はない。ベッドに倒れるように寝ころんだ私は、枕の横にあるスマホをのぞき込む。スマホを使う機会はほとんどないが、こんな私にもそれなりの大事なデータが入っていたりする。私は、寝る前に必ずスマホを見る。何をするでもなく、ただスマホを光らせ見る。毎日何の変化もないスマホをただじっと見る。そして眠る。それが私のルーティンだ。今日もそのルーティンをこなし、現実から離れようとしたその時……

コンコン

と音がした。ドアを叩いた音か。いや、私がたまに開く石でできたような木の扉がそんな軽い音を出すはずがない。どうせ風に負けた窓が鳴らした敗北の音だろう。窓が完全に白旗を挙げたときは、自然の光が入りこむことになるだろう。何わけの分からない事を考えているのだろうか。ゲームのやりすぎで、おかしなことまで思いつくようになったらしい。

コンコン

また風か。

コンコン

今日の窓は、私と違って負けすぎじゃないか。

コンコンコンコンコンコンコン

……これ絶対風じゃない。

私は勢いよく飛びあがり窓から離れた。日頃体を動かしていないはずの私がここまでの瞬発力を発揮したのは、自分でも驚いた。これがいわゆる火事場のバカ力なのか。いや、そんなアホみたいな事はどうでもいい。今この状況の対策方法を考えよう。

1,逃げる。

2,助けを呼ぶ。

3,カーテンを開ける。

ここでいつもの私なら、助けを呼ぶだろう。しかし、その時の私はゲームで勝ち続けたからなのか。何が相手だろうと勝てる気がした。意を決して小学校の頃に後々皆の前で名前は呼ばれ親に怒られ置き場に困り買った事をめちゃくちゃ後悔した木刀を手に取った。やっとこの木刀も役目を果たす時がきたとほこりを抱え、この部屋の空気を変えた。木刀を持ったことにより、自然と手はカーテンの方に向いた。木刀でカーテンを開けようとしたが、一枚の布でできているはずのカーテンが十二単衣なみの重さに感じなかなか開けられない。十二単衣を着たことはないけれど、たぶんそれぐらい重い。こんな忙しない私の頭をよそに、ずっとなり続ける窓。私が住んでいるのは、ごく普通のマンションだ。隣にだって、寝ているか、起きているか分からないが多分人は住んでいる。いつ苦情がくるか分からない。焦り始めた私は、もう一度意を決して、木刀を片手に自らの手で、カーテンを思いっきり開けた。

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