紙と指輪

奏 そら

プロローグ

 今日は何日なのか。朝なのか夜なのか。そんな当たり前のことも分からないようになったのは、いつだろうか。生きることも死ぬことも怖くなったのはいつだろうか。

一年前の元気に暮らしていたあの頃が今は遥か昔に感じる。時計の秒針を見ると時間が止まっているのではないかと思うことさえある。

今日もつぶやく、挨拶のかわりに

『いつになったら生きることから解放されるのだろうか』……と。


 私は、世間で言われる花のJKだ。青春の真っただ中におり、毎日が幸せで満ちている。そんな投稿を毎日SNSに挙げている。そんなのはもちろん全てでっち上げにすぎないが。どうせみんな同じようなものだ。幸せそうに見えているやつらも皆。嘘、偽りの仮面をかぶり写真を撮りSNSに投稿する。自慢しないと自分が幸せかも分からないやつらだから仕方がない。残念ながら、私もその一人ではあるが。いや、少し違うな。私は、今自分が幸せではないことを自覚している。だから、SNSの中だけでも理想の自分でありたいのだろう。そんな私のほうがよっぽどダメ人間だ。

花のJKとは言ったが、実際のところ私は、現在高校には通っていない。世間で言う不登校というやつだ。不登校になった理由はただ、自分の部屋から出られなくなっただけだ。自分では認めたくはないが、世間で言うところの引きこもりだ。理由も単純、人間が怖くなった。しかも、死に対しての恐怖感に襲われてたまにパニックになることがある。そのパニックがいつおこるかわからない恐怖のせいで外にでることがよりいっそう怖くなってしまったのだ。

 

 こんな事を鍵のついたアカウントでSNSに投稿する私は何がしたいのか。自分にも分からない。引きこもりの私には、特にやることがない。暇なときは決まってゲームをするか動画を見るかの二択しかない。何かしていないと不安に襲われる気がして起きている間はずっとパソコンの前にいる。最近では、この堕落した生活をいつまでも送れない恐怖も感じ始めている。だからといって、何かするわけでもない。そんな自分からも逃げるようにゲームにのめり込む。そんな代り映えのない繰り返しの毎日を送っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る