第3話ツンデレと体育会系

 佐々木と神崎が同じクラスになってから早一か月が過ぎた。最近では神崎と普通の友達のような会話ができるようになってきた。まさに今こそが佐々木にとっての春というやつだ。相変わらずクラスメイトとは会話はしていないが困ることはない。佐々木は周りの人間と仲良くできなくても全く気にしない人間だったかからだ。


 だが、佐々木にも神崎以外に話す相手は居た。そう橘である。席は近いし神崎とは友達だしで嫌でも目に付くアイツである。佐々木は朝の教室の隅で一人橘への憎しみをつのらせる。


「はあ、今日朝練ないの忘れてた」

 教室のドアが無造作に開け放たれた。最悪だ。橘について考えていたら橘が現れた。

「げっ、なんで佐々木が居るの? まだ7時半なのに」

 教室に居るのは佐々木一人だけだ。それもそのはず朝の会が始まるまでにあと一時間はかかる。朝練がある運動部以外はまだ誰も登校しない時間帯だ。

「居たら悪いの?」

「悪いっていうか、アンタ帰宅部でしょ。なんだっていうのにこんな朝早くから学校に?」

「勉強するため。家に居ても集中できないし」

 佐々木の机の上には数学の問題集が置かれている。

「真面目か」

 橘はツッコミを入れながら佐々木の斜め前の席に座る。


「橘も教室に居るつもり?」

「いや、だってほかにすることないし」

「運動部らしく校内でも百周してくればいいじゃない?」

「無理言うなし」

 

 それきり会話は途絶えた。佐々木は数学の問題集の続きを解き、橘はスマホをいじっている。別に特段話すこともない。以前より衝突することは減ったが友達ではないからだ。このまま神崎が登校するまで無言のままだろうと佐々木は考えていた。

 

「佐々木って、勉強得意?」

 沈黙から15分後、橘が佐々木に質問を投げかけてきた。

「別に得意ってほどじゃないわ。前のテストもギリ50位以内だったし」

「50位! それで得意じゃないって嫌味かよ」


 橘は佐々木の発言が信じられなかった。全校生徒300人中50位だったら十分頭がいい部類ではないかと。勉強が苦手な橘からしたら舐めてんのかと言いたくなる。


「で、なんでいきなり質問してきたのよ? 勉強、教えろとかそういう話だったら断るわよ」

「ないない。今から勉強する気力はウチにはないから。テストは基本徹夜づけで頑張る」

 橘は徹夜づけなことに誇りもっているかのような声音だった。

 佐々木は非難するのも馬鹿らしいと思いそのままスルーすることにする。再び二人には沈黙が流れた。教室には鉛筆の音とスマホの音だけが流れる。

 

 それから、また10分後またしても橘は佐々木に質問をしてきた。

「佳奈とアンタっていつから知り合い?」

 さっきより意味が分からない質問だ。なんでそんなことを聞くと思いながらも佐々木は答える。

「入学式に少し話をしただけ。そこから本格的に話をしたのはクラス替えからよ」


「へえ、じゃあ一年の時は話したことないの」

「ないわよ。さっきからいったい何? アンタが私にわざわざ話しかけるなんて」

 話をすることはあるがそれは神崎がいるときだけだ。今までこうして二人きりの時に話かけてくることはなかった。


 橘は図星を突かれて無理な笑みを浮かべてごまかそうとしだした。

「そ、そんなあ。目的なんてないよ」

 橘は普段からは想像もできないような猫なで声を出した。佐々木からすると余計に怪しいだけだ。

「目的もないのにアンタが私に話しかける訳ないでしょ」

「確かに」

 橘は諦めて降参した。ごまかすのは苦手な性分である。


「結局、橘は何がしたかったのよ」

「佳奈が佐々木とも仲良くできるように努力しなさいっていうから。会話しようと」

 神崎は前から佐々木と橘の関係について気にしていたが、そんな指示までしていたのか。それと橘は神崎の言うことにはやけに素直だ。神崎に橘は頭が上がらないのかと佐々木は思う。


「神崎って結構世話焼きね」

「そうそう。佐々木には友達がいないようだから陽菜ちゃんも友達になってあげてってうるさくて」

「そ、そんなことを神崎が!」


 神崎が自分のことを気にかけてくれていたのが分かって小躍りしたいくらいに嬉しくなった。それと同時に無性に恥ずかしくなって自分の体温が上昇していくのが分かる。神崎が自分のことを考えている時間があると考えると体がボッーとなる。正直友達なんてどうでもいいが神崎の優しさでニヤけてくる。いろんな感情がないまぜになって自分でもどうしようもない。


「おーい。佐々木、自分の世界に閉じこもるなよ。ウチもいるんだけど」

 橘に背中をこづかれてようやく現実に戻ってきた。

「あっ、そういや。アンタも居たわね」

「急速に冷めんな。ムカつくでしょうが」

 そうはいっても愛しい人を考えている途中に、ムカつく相手の顔を見たら冷めるのも仕方がないではないか。


「はあ、神崎と仲が良いアンタが羨ましい」

 佐々木は橘を顔を見て深いため息をつく。こんなやつでも神崎とは親友なのだ。前世でどんなことをしたらそんな幸運が舞い込むのだろう?

 

「佐々木は佳奈のこと好きなの?」

 橘はそんな佐々木の様子を見て真剣な表情で問いかけた。

「はあ、な何言ってるの頭おかしいの?」

 佐々木は冷静さをまたもや失い顔を先ほどよりさらに赤い。

「ああ、やっぱりか」

 橘はマフィアのボスのようにニタリと笑った。


「なにがやっぱりよ」

「そういうことならウチに対する態度も可愛いものかな」

「だ、だからアンタはなんの話を」

「佐々木は佳奈のこと好きって話」

 まだ好きとも嫌いとも言ってないのに橘に決めつけられている。もちろん、正しいのだが。


「はっ、アンタまさか神崎に告げ口するつもりじゃ」

 佐々木はそう考えると橘の口を思い切り塞ぎにかかった。

「ち、違う。佐々木、待って。待ってってば」

 橘は口を塞がれまいと席から立ち上がって教室の隅に逃げ込んだ。

「橘、アンタ。私から逃げられると思っているの」

「ひぃー。誰か助けて」

 佐々木と橘の追いかけっこは二人が疲れこむまで続いた。

 

「ちょっと、タンマ。もう人も来ると思うし」

 2人は教室の隅の壁にもたれ掛って息を整えている。

 時刻はそろそろ8時5分。一般の生徒も登校してくる。いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかない。


「それもそうね。けど、本当に言いふらさないわよね」

「そんなことするわけない。まあ、ただどうなるのかは興味あるけど」

「ふうーん」

「佐々木は佳奈に告白しないの?」

「そんなことしたら神崎に迷惑じゃない」

 神崎に告白をしたら余計な負担を背負わせることになる。


「脈ありだと思うけどなあ」

 橘は佐々木に聞こえないようにつぶやいた。


「でもさ、佐々木。佳奈はモテるから早めに告白しないと誰かに取られるよ」

「と、取られる」

 佐々木はその可能性を忘れていた。けれども、普通に考えるとあれだけ魅力的な神崎なのだ。むしろ、誰とも付き合っていない今の状況が異常かもしれない。

「そのことも考えときなよ。後悔しないようにね」

 橘はそう言って立ち上がると佐々木に向かって手を差し出してきた。

「なんか優しくて気持ち悪い」

 佐々木はそう言いながらも橘の手を掴んで立ち上がった。


「まあ、いいじゃん。なんか今、走り回って逆にさわやかな気持ちだし」

「その感想、ヤンキーかよ。しっかし、走り回らせて悪かったわ。お詫びに勉強を教えてあげる」

「えっ、それは勘弁を」

「ありがたく思うことね」

 佐々木は嫌がる橘に無理やり勉強を教え込んだ。完全な善意からの行動だったけれども、橘からすれば地獄だった。たった20分の勉強だとしても。




「2人とも仲良くなったんだ。よかった」

 もう、そろそろ朝の会が始まる時間に神崎もようやく現れた。クラスメイトに囲まれている中でもやはり神崎はひときわ目立つ。

「か、神崎。おはよう」

 反応したのは佐々木だけだ。橘は勉強のショックで机の上から動かない。

「おはよう。佐々木さん」


「陽菜ちゃんはどうしたの?」

「元気だから気にしなくいい」

「そっか」

 神崎は特に気にすることなくうなずいた。神崎も雑なところがあるなと佐々木は思った。橘のこの状態はよくあることなのだろうか。


 それから、神崎はじっーと佐々木を見つめてからある発言をした。

「佐々木さん、突然だけれども来週一緒にお出かけ行けないかな?」

「お出かけ」

 佐々木はそれ聞いてフリーズした後一つの結論導き出す。

 それはずばりデートでは!



 

 









 

 









 











 












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ツンデレ少女の困りごと りりん @88mdneo

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