拷問室の天使(続き)
地下の部屋を後にしたカレンは、少しでも新鮮な空気を吸おうと、顔を覆うレースを剥ぎ取った。
薄いブルーの瞳と、アメジストの深い青紫色の艶を帯びた長い黒髪がのぞく。
控えめな顔立で大人しそうにも弱々しそうにも見えてしまいそうだが、上品に結ばれた口元に浮かぶほくろが、場違いな神秘さを醸し出している。
そのまま地下から地上階に出たカレンは、大きく息を吸って深呼吸した。
地上階に上がってもなお、湿っぽい空気が漂っているが、地下よりは随分マシだった。
ほっと一息ついた矢先、カレンを呼ぶ明るい声が聞こえた。
「カレ〜ン! 休憩が長すぎて退屈しちゃったよ〜。そろそろ、オレが変わってあげようか?」
待ちかねた様子の、兄のパトリックだった。
軍服に身を包んだパトリックは、その凛々しい軍服姿とは似つかないような、気さくで陽気な顔を浮かべている。
こんな時でも陽気に笑うパトリックを見ていると、カレンは、自分や兄が携わる『仕事』のことなど、思わず忘れてしまいそうだった。
「パトリック兄さん。いいんです。もうそっとしてあげてください。あの人、もうすぐ亡くなります。私が変わった時には、もう……『そう』なっていましたから」
カレンは、残念そうに目を伏せ、微かに震える手を押さえつけながら、淡々と答えるよう努めた。
「ふ〜ん。そう? まあでも、これでお客も満足さ。あとはオレがどうにかしておくから、カレンはもう帰っていいよ〜! お疲れ〜!」
パトリックは相変わらずの陽気な調子で、カレンと同じブルーの瞳でウインクすると、後ろでまとめた淡い金髪をなびかせて軽快な足取りで去ってった。
パトリックの言う「どうにかする」とは、あの男の死を世間に疑われないように偽装しておくことだと、カレンは理解していた。
事故死や自殺として扱われるだろう。
新聞記事で目にすることになるかもしれない。
「……はい、お願いします」
カレンは力なく呟くと、パトリックの背中に向かって軽く会釈し、踵を返した。
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