『人形使い』の『人形』2
「親子で拷問って、そんなまさか……それは知りたくなかったな……」
「拷問のプロ一族ってかぁ? 変わった家族もいるもんだねぇ。ウチより変わってるじゃ〜ん。もはや笑えるぅ」
呑気に「はははぁっ」と声を上げたアリスに対して、エリオットもつい声を荒げてしまった。
「変わりすぎだろ! どう考えてもまともじゃない……。ああ、気持ち悪い……」
「確かにキモいけど、わたしに拷問の仕方レクチャーしてほしいくらいだなぁ。役に立ちそうだしさぁ」
「何言ってんだよ……」
すでに気分が悪くなかけているエリオットは思わず、「ありえない」という目でアリスを見つめた。
分かってはいたが、こういう時だからこそ、アリスがおよそ『普通の女の子』の感性を持ち合わせていないことがよく分かる。
幼少期の境遇のせいで、『普通』や『一般常識』を努力して身につけるしかなかったエリオットにも、それくらいのことは理解できた。
「悔しいですが、その『まともじゃない』一族の名前までは、さすがに口を割らなくて、聞き出せませんでした。ただ、『貴族階級だ』とは言っていましたね。下級貴族か、上級貴族かまでは分かりませんが」
「『拷問貴族』、か……。ますます闇が深いなぁ」
エリオットは天井を見上げて、途方に暮れるように呟いた。
「でもさぁ、そ〜んな汚れ仕事をする貴族もいるのねぇ。ふつう、貴族様ってそういうの大っ嫌いでしょう? 変なのぉ」
ツインテールの片方をクルクルと指に巻き付けながら不思議そうに呟くアリスを見て、ロイは準備していたような皮肉な微笑みを浮かべた。
「逆だよ、アリス。『そんな汚れ仕事』を何百年もやっているからこそ、大貴族にすらも恐れられる存在になった上に、皇帝一族にも認められて、卑しい下民から貴族にまで上り詰めたんだ。それが本当なら、大した下剋上一族だよ」
ロイは小さく鼻を鳴らして冷ややかな口調で言い放った。
「「何百年……?!」」
さすがのアリスも、すでに気が滅入ってきていたエリオットも、すっぽりと闇に飲み込まれたように絶句した。
「そう。魔女狩りの時代から続いているって噂らしい。
もっと言うと、その一族はこの国の警察や政府から拷問の委託を受けている可能性がある、と言うか、これはほぼ確定です」
「ああ……。マジかよ」
エリオットは、深淵から目を背けたいとう面持ちで、目頭を押さえた。
「ふぅん、そりゃすごいやぁ。なるほどねぇ。確かにそれなら、政府は直接拷問に関わってないってことになるし、同時に、その『拷問ファミリー』と結託して邪魔な人間を拷問し放題ってことね! うまくできてる」
冷静な科学者のように状況を呑み込むアリスを見て、エリオットはゾッとしながらも、内心舌を巻いた。
こんな時でも冷静に頭が回るのは、恐ろしくもあるが、さすがとしか言いようがない。
改めてエリオットは、自分よりも一回り年下の末恐ろしい子ども、いや、もはや単に『子ども』と呼んでも良いのかもわからない存在たちと仕事をしているのだと実感した。
「さらなる仮説を言うと、その一族は軍とも結託していると思う。拷問といえば、医学や人体実験、兵器開発とも関わりがあるものだから……」
アリスとエリオットは、ほぼ同時に「あっ」と目を見開いた。
「そうか! お前の身体!!」
「そうです。その一族を追跡すれば、僕のこの身体のことも、何かしらのことがわかるんじゃないでしょうか?」
「なんだ! その手があったかぁ!! そういう大事なことは、もっと早く言いなさいよぉっ!
っていうか……あんたまさか、『お人形くん』が失踪しなかったら、その情報独り占めしようとしてたんじゃないのぉ?!」
アリスは、パッチリしたグリーンの目を釣り上げてロイを睨みつけた。
「そんなわけないだろ? 現にこうして、二人に共有しているじゃないか」
アリスの追及に対して、ロイは能面を貼り付けたような無表情で弁解した。
青白くも滑らかな肌が、まるで蝋燭で塗り固められた人形の顔のように無機質で、感情が読み取れない。
アリスにもエリオットにも、ロイの真意は分かりかねた。
「ふ〜ん? どうだかなぁ〜?」
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