第130話 スキル強奪


「【スキル強奪スキルテイカー:最強】」

「まさか!?」


 魔王ヴァニラはそう言ってスキルを発動させる。


 俺の体から彼女に何かが流れているようだった。

 しかし、考えている時間はない。


 俺は即座に魔王を殺すべく剣を抜き放って奴の首を切り飛ばす。


「甘いな」

「く……遅かったか……」


 俺の剣は彼女の皮膚を切り裂くことが出来ず、喉元のどもとで止まっていた。


「ああ……これは……素晴らしいな。この力……こんなにもすごいだなんて……。こんな力があれば最強と名乗りたくなるのもわかるわね? ほら」

「ぐっ!」


 俺は彼女の攻撃をガードし、そして吹き飛ばされる。


 いつもの俺であれば簡単に避けることができるか、受け止めること出来るはずだったのに……。

 しかし、彼女の力は桁違いに強くなっていた。


 彼女は俺を追撃してきて、拳で連打を浴びせてくる。


「ほらほら。形成逆転よ? 【スキル強奪スキルテイカー】は強力だが、その分相手から奪い取るのに時間がかかる。それをのんびりと戦ってくれるとはね。それにあの時に握手。怪しいと思わなかったの?」

「なるほどな……。確かにそれはそうかもしれない。だが!」


 俺は彼女の連打をかわし、腹に掌底を打ち込む。


「かっは!?」


 攻めに徹していた彼女は思わぬ反撃に防御が間に合っていなかった。


「まだ終わらんぞ!」


 俺はそのまま彼女の意識を刈り取るべく首筋に攻撃を叩き込む。

 しかし、今度は片手でガードされてしまう。


「やるじゃない……。まさかスキルを奪われたのにこうも対応出来るなんてね」

「最近スキルを無効化されることもあったからな。慣れただけだ」

「……やはりあなたが3人を殺したの」

「いいや? 俺が殺したのは2人だな。もう一人はアストリアが殺した」

「アストリア?」

「ああ、勇者だよ」

「勇者! もう来ていたのか!」

「そうだ。まぁ……お前を倒すのは俺だ。だから……気にするな。心配する必要はなくなる」

「……許さぬ」

「はは、さぁ来いよ。【最強】俺もたまには挑戦する側に回ってみたいと思っていたんだ。最強であり続ける。ただ守るよりも、攻め続けるのが俺の主義なんでな!」

「くっ!」


 俺は奴が力を使いこなす前に叩き込む。

 俺が勝つにはそれしかないだろう。


「舐めるなよ!」


 しかし、奴は防御を解いて、俺の攻撃を徹底的に防ぐ。

 焦ってこちらに攻撃を仕掛けてくれれば簡単だったのに。

 だが、これがいい。

 これでいいのだ。


 最強と分かっていて、勝つことが分かっている戦い等面白くはない。

 勝てぬ相手だろうと俺が勝つ。

 勝敗を決めるのはスキルを定めた神でも、他の誰でもない。

 俺なのだ。

 俺は勝ち続けなければならない。


 しかし、その気持ちは少し焦りを含んでいたらしい。

 彼女は今度はお返しとばかりに俺に掌底を打ち込む。


「甘いな!」


 ドス!


「ぐぅ!」

「なるほどなるほど! このスキルは意識を高く保つことが大事なのだな!」

「ちっ」

「あたしが慣れる前に殺そうとしたのだろう? 流石だな! だが、あたしだって散々多くのスキルを奪ってきた! 色んなスキルの使い方は慣れているんだよ!」


 奴はそう言って、今度こそ俺が反応できない速度で連撃を打ち込んで来る。


 俺はなんとか反撃の糸口を掴むために耐えるけれど、奴の威力はドンドン増していき、俺の体はダメージが増していく。

 久しく感じなかった腕の骨が折れる感覚、肺の空気が全て抜けていく感覚、頭がシェイクされ、遊ばれる感覚。


 懐かしい記憶が思い起こされる。


「クソが!」


 俺は吐き捨て、多少強引にでも前に出る。


「なに!?」


 俺は彼女の猛撃に耐えながら、彼女の顔を拳で吹き飛ばす。


「きゃぁ!」


 彼女は俺に連打を浴びせながらも、俺のたった一発で吹き飛んでいった。


「さて……まだ戦いは始まったばかりだ。逃げるんじゃないぞ」

「お前……お前は……本当に……本当にすごいな!」


 彼女は顔から血を流しながらも、俺に再び向かってくる。

 そして、お互いに防御を捨てて殴り合った。


「スキルも無くなったのによくやるじゃないか!」

「スキルなんて物はなくても俺は強い! 俺は最強だ! それはスキルが無くても変わらない!」

「ははは! 中々面白いな! だが、それは違う! スキルを使ってこそだ!」

「甘いのは貴様だよ。神に与えられた物を誇って何がいい。貴様が為したことをこそ誇るのが人だろうが!」

「っ!」


 俺達は連打を打ち合うが、流石に彼女のスキルは中々だ。


 最初は同じくらいに打ち合えていたけれど、徐々に……徐々に差が生まれていく。


「そうは言っても無理だったんだな! これがスキルの差だよ!」

「く……」

「そら! 空いたぞ!」

「ぐあ!」


 彼女の一撃に、俺は頭を殴られて、意識が飛ぶ。


 その時に、リーサの姿がよぎる。


『逃げて、シュタル』

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