第128話 表彰式


「わあああああああああああ!!!!!!」


 周囲では観客たちが湧きたち、スタンディングオベーションをしている。

 皆の笑顔は人間との違いを感じさせるものではなかった。


「……後は表彰式か」


 そう思ったところに、リュミエールとアストリアが飛びついてきた。


「シュタルさん!」

「シュタル!」

「どうした。2人とも」

「どうしたではありません! おめでとうございます!」

「流石シュタル! 勝つと思ってたよ!」

「当然だ。俺は最強だからな」


 何を今更。

 俺は最初から最強だと言っているのに。


 そう思っているが、2人はどうやら違ったらしい。


「何言っているんですか! 相手のすごさはアストリア様に聞かせて頂きました!」

「そうだよ! っていうか何あれ? 世界構築魔法なんて……今まで使わなかったのに……」

「その必要がなかったからな。まぁ、何でもいい。後は表彰式か?」

「そうですね。その時に……魔王にもお会い出来るんですよね?」

「確かな」


 俺が彼女にそう返すと、すぐ後ろに降り立つ音が聞こえる。

 そして、後ろの者は声をかけてくる。


「早速だがおめでとう。君が新しい魔王四天王だ」


 俺が振り向くと、そこには妖艶な姿をした女性がいた。

 遠くからは見ていたが、かなり美しい女性らしい体つきをしている魔族……というのが言った方がいいだろうか。

 真紅の美しいウェーブのかかった髪を腰まで伸ばしていて、瞳は灰色だ。


 彼女は怪しく微笑み、片手を差し出している。


 俺はためらわずにその手を握った。


「ああ、よろしく頼む」

「……では、細かい話は後で」

「承知した」


 彼女はそれだけ言うと瞬時に消え、元の席に戻る。

 それから、少し時間を開けての表彰式となった。


『えーそれでは、魔王四天王武闘大会の表彰式を始めます!』


 実況がそう宣言し、式はつつがなく進行されていく。

 そして、眠たくなる長い話が終わり、俺は再び魔王と向かいあう。


 因みに、リュミエール達は少し離れたところにいて、俺の事をじっと見ていた。


「さて、先ほども軽く挨拶をしたが……貴様。あたしの部下として、四天王になるつもりがある。その考えで良いのだな?」

「そのつもりはない」


 俺は元々思っていた言葉をハッキリと告げる。


「……」


 しかし、俺が告げた言葉が届かなかったのか、それともあえてスルーをしているのか、魔王はじっと俺を見ているだけだ。


「どうした?」

「……貴様。やはり人間か?」

「ほう。どうしてそう思う?」

「貴様の様な化け物が居て、話題にならない方がおかしい」

「しかし、人間の国でも有名な者はいたのか?」

「知らん。だが、魔族として、貴様の様に強い者がいれば、普通に放っておくことなどないだろうよ」

「なるほどな。それはあるのかもしれない。それで、貴様どうする?」

「一つ聞きたい」

「なんだ」

「お前がここに来た目的を教えろ」

「お前を打ち倒す」

「……つまり、あたしを……この現魔王であるあたしを殺す。そのつもりでいいのだな?」


 魔王からは圧力が全力でぶつけられ、灰色だった瞳は藍色に変色していた。

 しかも背中からはコウモリのような羽が生えていて、戦う気がありありと見える。


 そんな彼女の姿を見た観客たちは驚いて周囲と顔を見合わせていた。


「勘違いするな。お前を殺すつもりはない」

「ではどういうつもりだ?」

「簡単だ。お前を観客たちの前で打ち倒し、お前を屈服くっぷくさせる。そして、俺の支配下におく」


 俺はそう堂々と言い放つ。

 やるべきことのためにはそれが必要なのだ。


 彼女は俺の言葉を聞き、顔を真っ赤にして怒る。


「貴様……それがどういった意味か知っているのか?」

「当然だ。そのために貴様が必要なのだ」


 魔王という地位は必須だ。

 俺がやるべきことの為に、俺はやらなければならない。


 魔王はちょっとだけ視線を逸らし、ごにょごにょと言う。


「ま、まぁ……貴様が……あたしに勝つ……というのであれば、いいだろう。貴様の物になってやろう。だが、あたしは魔王。決して負けぬ」

「いいだろう。ただし、場所を変えるか。ここでは……被害が出てしまうだろう」

「いいだろう。ではついてこい」


 彼女はそう言って、俺を警戒するように空に飛び立つ。


 俺は彼女の後を追いかけ、魔王城から5キロは離れた荒野に降り立った。


「さて、ここで……貴様に誰が一番強いのか真実を教えてやろう」

「ああ、見せてみろ。俺が全力で……叩き折ってやる」


 こうして、俺と魔王の戦闘が始まった。

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