第127話 観戦者たち
時は少し
***アストリア視点***
「すごい……」
ボクは思わずため息を漏らしてしまう。
舞台の上ではシュタルがライデンと人外と言ってもいいような戦いをしている。
そして何より恐ろしいのが、2人の動きがどんどんと早くなっているということだ。
2人とも笑いながら、剣で互角に振るい合い、ちょっとでもミスったら死にそうな攻撃を繰り出しあっていた。
「私には……もう……ほとんど見えません……」
リュミエールはそう言っているが、それでも、なんとか目を凝らしてシュタルの事を見ようと頑張っていた。
「ちょっと……強化してもいいんじゃない?」
「そう……ですね。では……少しだけ失礼して、『魔陣構築:ゾーン』」
リュミエールはボクと彼女の2人だけが効果範囲に入るようにした。
そのお陰で鋭くなっていく2人の動きを把握出来るようになる。
それから少しして、シュタルが薄暗い世界を構築した。
「嘘!? あんな一瞬で世界を!?」
「アストリア様?」
「リュミエールはあれのすごさがわからないの!?」
「あれ……ですか?」
「そうだよ! あんな風に世界を魔法で構築するなんて……世界を構築する魔法って、平気で半日とかかかるんだよ!? しかも、それだけじゃない。大賢者と呼ばれるような桁違いの魔力を使ってやっと……ていうレベルなんだよ!?」
「そ、そうなんですね」
「そうだよ! しかも、戦闘中に詠唱破棄するなんてありえない!」
「あ、アストリア様。落ち着いて……」
リュミエールにそう言われると、周囲の人達がボクの方をじっと見つめていた。
それどころか、実況の人がボクの声をマイクで拾おうとしている。
「あ……ご、ごめんなさい……」
ボクがそう言うと、実況の人がボクの手を引いて実況席に連れていく。
「え? え?」
「ちょっとこちらへ」
「何々!?」
実況の人はそのままボクを彼女の隣に座らせ、マイクのスイッチを入れる。
『さて! 舞台では何が起きているのかよくわかっていないので、解説をお連れしました! それでは、今は何が行われているのでしょうか!?』
「あ、え、えっと、今は……『
『しかし、それを連打しているということはシュタル様はどうなっているのでしょうか!?』
「ボクらでは測ることができないレベルの魔法技術……ということだと思う……思います」
『なんと!? しかし、彼はライデン選手と切り合えるほどの剣術も持ち合わせていると思われるのですが!?』
「まぁ……それは彼が魔剣士ですから」
『なるほど! それはすごい! それではライデン選手について……』
「あ、はい」
ボクはそれから、試合が終わるまでずっと解説に付き合わされて続けた。
******
***魔王視点***
魔王専用の席で、あたしは決勝の試合を見ていた。
側にいるのはゼラだけ、彼女が口を開く。
「あれは……不味いですね」
「不味い……という言葉で終わらせられたらいいんだがな……」
それほどに、2人の戦いは桁違いだ。
お互いに舞台を本気で壊さない。
壊してしまった方が負け、という縛りでも課しているのか、今のところは無事ではあるけれど、どちらかが本気になったら簡単に結界ごとこの場所も吹き飛ぶだろう。
それほどに今までの戦いとは次元が違っていた。
「私では……勝てる気がしません」
「だろうな……。あたしも……どうだかな……」
「魔王様であれば……何とかなるのでは?」
「不意を突ければあるいは……」
「不意を突ければですか、ではなんとかして……」
「だがな……。あ奴らはその不意を突くのも厳しそうではないか? 10体の分身を作り出すとかどういうことだ? あたしは全く出来る気がしないぞ」
「それは……私もですが……」
舞台の上では、シュタルが押しているのかライデンが傷ついている。
それでも、一瞬でひっくり返る状況だろう、どちらが勝つのか想像もできない。
「なんだ……あれは……」
そんな事を考えながら見ていると、シュタルが魔法を使う。
それも……伝説で聞いたことのある様な神話の魔法。
世界を構築する魔法の中でも、もっとも格が高いとされる魔法だ。
「使える者がいる……なんてな……」
「ええ……その……一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「魔王様は……勝てますか?」
「あいつが……あたしに時間をくれれば……だろうな」
「難しい……ですかね」
「……」
あたしは何も言わず、2人の決着がつくのを見届けた。
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