第122話 準決勝

 俺は舞台の上に立ち、憎しみを込めた目を向ける女性を見つめ返す。


 彼女は短めの杖を持ち、服は狩人が着るような軽装。

 これは舞台の上ということで、動きやすさを重視しているのだろうか。

 彼女のとある部分は大きく、今までで見た中で一番かもしれない。

 何が……とは言わないけれど……。


 ただ、彼女の姿を見たことが今まで一度もないため、なぜそんな視線を向けられるのかはわからない。


 そこで、実況がマイクに向かう。


『それでは準決勝の時間です! ちなみに、前回の準決勝からこのステージは結界が張られ、死んだとしても復活することができます! なので、よりえげつない本気の攻撃を見ることが出来るでしょう! さて、それでは選手紹介です! ここまで1歩も動かずに強敵を倒してきた最強、シュタル! 今回もそれをすることが出来るのでしょうか!?』


 そして、目の前に立つ彼女の説明もしてくれる。


『それに対するは狩人と魔法使いの両方をこなす異色の経歴を持つビネラ! 彼女の速さについて来れるか!? ついて来れたとして彼女の放つ魔法の数々を避けられるのか!? 楽しみな一戦になること間違いなし! それでは、レディ……ファイト!』


 実況が一から十までビネラの戦い方を教えてくれたお陰で面白味が減ってしまった。

 でもまぁ……実際にどんな物か戦ってみるまではわからない。


 俺はのんびりと彼女に先手を譲る。


「……」

「……」


 しかし、彼女は動かない。


「どうした? 何か話したいことでもあるのか?」

「……アンタ……バカにしてる?」

「? 別にそんなことはしていないぞ?」

「なら……なんでその場から一歩も動かないのかしら?」

「その必要がないからだ。必要があれば動く」

「それが……それがバカにしてるって言ってんのよ! あいつも……アンタもふざけたことして!」

「あいつ?」

「反対サイドのライデンに決まっているでしょう!? あいつもアンタみたいに、地べたにずっと座ったまま戦っているのよ!?」

「ほう。そんな奴だったのか」


 沼地で出会った彼のことだろうか。


「許さない……こっちが……こっちがどんな気持ちでここにきているか知りもしないで……」

「くくく」


 俺はおもしろくて笑ってしまった。


 すると、ビネラは目を吊り上げて叫ぶ。


「何で笑うのよ!」

「これが笑わずにいられるか。想いを持っていればそれが伝わる? しかも忖度そんたくしてもらえるとでも思っているのか? お前こそバカにするな。俺がどうしてここに立っているのか。それを知らないのは、お前も一緒だろう?」

「く……うるさい! 死ね! 『火球魔法ファイアボール』!」


 彼女は1mほどもある大きな火球を作り出し、俺に向かって放って来た。


 ただ、その程度では無駄だ。

 俺は拳を振って魔法を消した。


「な……」

「お前の想いはその程度か? 勝ちたいと、四天王になりたいと願っているのだろう? 貴様の想いはその程度か。今まで……一体何をしていたんだ?」

「くっ……こうなったら許さない。お前だけは……お前だけは!」

「逆恨みも行き過ぎると困りものだな」


 俺はそう言うけれど、彼女は目をつむって集中している。

 この瞬間に攻撃をすることは簡単だが、俺はあえて受けることにした。


「蒼天は焼け、地平は燃え上がり、世界は煉獄へと変わり果てる。究極の焔は汝を連れ去り果てにゆく。『火炎煉獄フレイムワールド』」


 奴は長い詠唱を始め、そして魔法を使う。

 ただ、その魔法は俺も聞いたことがない物だ。


 しかも、周囲の観客が慌てている。


「あれは! 大規模殲滅せんめつ魔法!?」

「結界自体壊す気か!?」

「に、逃げろ!」


 慌てているけれど、実況がそれを止める。


『観客の皆さま! ご安心下さい! この結界は魔王軍魔道部隊が力を結集して作られた結界です!大規模殲滅魔法の10くらいならば防げます! だから慌てないようにしてください!』


 というような事を言って落ち着かせようとしていた。

 

「なるほど。それがお前の本気か」


 俺がそう言うと、魔法が完成したのか周囲が漆黒の炎で包まれた。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


 視界が全て黒に変わり、全身がほんのりと熱い。

 ただ、このままでは不味いことが分かった。


「服が溶けるのは洒落にならんか。『氷結領域アイスゾーン』」


 自身の周囲を守るようにして魔法を展開する。

 よし、これで氷が溶ける気配もないし、服も燃えるような事がない。


 しばらく待つと、炎も収まった。


 舞台の上には、地面に座り込んでこちらをにらみつけるビネラだけが残っている。


「もう終わりか?」

「何で……なんで……何でなんでなんで! なんでアンタはそんなに強いのよ!」

[ふぅ……そんなことを説明する必要はない。時間の無駄だ。ではな」

「はぅ!」


 俺は拳の拳圧を飛ばし、彼女を場外に吹き飛ばす。


『決着あああああああく!!! あれだけの魔法を使われて無傷! これぞ最強! シュタルがその実力を見せつけたぁ!』

「後は……」


 俺は視線を動かして、観客席にいる次の試合相手であろうライデンを見る。

 彼も、じっと笑顔で俺を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る