第121話 準々決勝


 翌日。

 俺はまたしても武闘大会の舞台の上に立っていた。

 目の前にはレイピアを持った剣士。

 彼は全身真っ白な服を着ていて、俺をかなり警戒している。


 そして、昨日と同じように実況が叫ぶ。


『さてそれでは武闘大会準々決勝! 今回の対戦カードはこちら! 今までの移動距離は0! 全てその場で一切動くことなく敵を倒してきた不動の最強! シュタル! 彼を一歩でも動かせる者はいるのか!』


 俺の紹介をしているらしい。

 そうか。

 確かに昨日もずっと同じところから動くことはなかった。

 今回こそは動かして欲しいものだが。


 実況は相手の説明も始める。


『そしてそんな最強に挑むのは魔族の星! あらゆる困難を乗り越え、そしていつも笑顔で帰ってくる! 素晴らしいのは人望だけではない! その全てを持って人々の星となる男! レイナード! それでは早速行きましょう! レディ……ファイト!』


 実況が開始の合図をすると同時に、レイナードが突っ込んで来る。

 そして、一瞬で距離の半分を詰め、レイピアを抜き放ち突き込んできた。


「そこそこか」


 俺はつぶやきながら体をくねらせてかわす。


「! これなら!」

「甘いな」


 奴はレイピアをしならせ、ほとんど動かすことなく攻撃してくる。

 細くて曲がるレイピアだからこそ出来る芸当だろう。


 だが、それ故の欠点もある。


 ガン、パキン


 俺は拳でレイピアをさらに横から殴りつける。

 すると、レイピアは簡単に真っ二つに折れた。


「くっ!」


 奴は後ろ飛びで俺から距離を開けて、新たなレイピアを取り出した。

 そして、俺を警戒しながら話しかけてくる。


「君……本当に何者? 信じられないくらいに強くない?」

「実況が最強だと説明しただろう? それ以外に何がある」

「いや、最強って何者かを現すのとは違くない?」

「違わないぞ」

「どういうこと?」

「最強とは俺のことを表す言葉だ。だから違いはない」

「すご……その自信はどこから来るの?」

「……貴様に言う必要はない。それよりも来ないのか?」

「いやぁ……どこに打ち込んだらいいのか……ね。ちょっと……考える時間くらい頂戴よ」

「……別に構わん。俺が勝つことに変わりはない」


 俺はのんびりと奴が打ち込んで来るのを待つ。

 ただ、油断している訳ではない。


 それからしばらくして、レイナードは動く。


「ふっ!」

「ほう」


 さっきよりも早い。

 1.3倍といったところだろうか?

 及第点を上げてもいい。

 踏み込みも十分、普通の相手だったら反応したころには串刺しだろう。


「俺にはまだ届かんがな」


 俺は顔に向かってくるそのレイピアの一撃をつかんだ。


「は……!?」


 しかし、奴はその程度ではへこたれない。

 瞬時にレイピアを手放し、飛びのく。


「ちょっと……ほんと……どうしていいんだろう……これ」

「もう終わりか? 終わりなら……こっちから行くぞ」

「っ!」


 ヒュン


 俺は拳圧を飛ばして奴の腹に叩き込む。

 そして、そのまま場外に飛んでいった。


『決着ぅぅぅぅぅ!!! 魔族の新星も最強の前では無力だったぁ! しかも無傷! 実力者はここにも隠れていたぁあああああ!!!』

「きゃー! 結婚してー!」

「私たちの村にきてくれー!」

「魔王様の為に頑張ってくれー!」


 観客たちの声が俺の耳に届く。

 なるほど、魔王もそれなりに支持は得ているのかもしれない。


 そんなことを思いながら控室に戻る。


「お帰りなさい! シュタルさん!」

「お帰りシュタル!」

「ああ、ただいま」


 俺は2人に挨拶をして、控室の中に入っていく。


「ねぇ、シュタル。あの……さっきの人の一撃、見えてたの?」

「当然だろう?」

「本当? ボクは全く見えなかったよ……。あんな突きがあるんだ……って勉強になったくらいだもん」

「そうだな。そういう意味ではお手本としてもいい様な実力ではあったのかもしれないな」

「でも、ボクだって負けてやるつもりはないもんね」

「その心意気だ」


 俺がアストリアにそう言うと、リュミエールも話しかけてくる。


「シュタルさん。回復はいりますか?」

「ありがとうリュミエール。必要ないぞ」

「分かりました」


 俺達はそんな事を話しながら次の試合が始まるのを待つ。

 すると、10分もしない内に係員が案内に来た。


「シュタル様。準備をお願いいたします」

「ああ、分かった」


 俺は返事をして舞台に向かう。

 すると、相手は魔族の魔法使いだった。

 ただ、服装は魔法使いの物ではなく、狩人等に近いと思う。


 そして、彼女は……俺のことを憎しみの瞳で見つめていた。

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