第120話 魔王城の一室
***魔王視点***
「それで、こいつはどうだった?」
あたしはアビブに聞く。
この場にはあたしと、ゼラ、親衛隊隊長のネビル、そして魔王軍師団長のアビブだ。
部屋は魔王城の一室で、質素だが質の良いものが置かれている。
アビブは、あたしの言葉に戸惑いを隠せないみたい。
「どうした?」
「申し訳ありません。魔王様。正直……私では奴の実力は全くと言っていいほど測れません。まぁ……ネビルの一撃を止めたのです。どうせ無理だとは思っていましがたが……」
「ああ、こいつは想像以上だ。なぜこんなにも強い奴が今まで在野にいた? というか、話題にすらならない? ダルツの村というのはそんなにもすごい所なのだろうか……」
ネビルはそう言って考える。
それに答えるのはゼラだ。
「私もダルツなんて聞いたことなかったですね。調べて初めて国境の村ということが分かったくらいです。ただ、こんな強いのがいるとは正直……」
あたしはそれを聞いて思う。
「もしかして……人間が紛れ込んでいる。ということか?」
「それは……流石に……分かりかねますが」
ゼラは自信なさげだけれど、可能性としては否定しない。
「では、我々はどうするべきだ?」
「とりあえずはこのまま様子を見てもいいのでは?」
アビブはそう言ってくるので、あたしは聞く。
「理由は?」
「どうしようもないからです」
「……続けろ」
「彼の目的がなんなのか分かりませんが、少なくとも、奴は武闘大会は真面目に出るつもりです。そして、優勝することが目的であることは、この街に来てからの行動からも間違っていないでしょう」
「ふむ」
「そして、人間だとしても、むやみに他者を傷つける様な人物ではない。なので、急ぎ解決する必要はありません。それと、ネビルで勝てなかったのです。他に強力な戦力を集めておかねば……せめて……奴が決勝で戦うであろう彼なら勝てると助かるのですが……」
「それが敵わない時はあたしが出よう」
「お願いします」
アビブはそう言うけれど、表情は暗い。
「だがまぁ……奴も……そのお付きのガキ2人も強いです。簡単にのされてしまいました」
「ふむ……ということは……【勇者】の可能性もあるのではないか?」
「ありえるかもしれません。他の四天王3人が倒されたのもそれが原因かもしれませんね」
アビブがそう言うと、あたしは怒りが湧き上がってくる。
「全く……勝手に侵攻しておいて、しかもそのまま返り討ちに遭うとは……ふざけおって……」
「過ぎてしまったことしょうがありません」
「そうは言うがな……」
アビブはそう言っていたけれど、あたしは許せない。
でも、ゼラもそれを止めて来た。
「魔王様。今は奴らのことを考えましょう」
「むぅ……しょうがない」
「もう……胸にばかり栄養を吸われているのでは?」
「ゼラ、ないものを気にしてもしょうがないぞ」
「……それで、ネビル。あなたの考えは?」
ゼラは話を強引に打ち切り、ネビルに振った。
「おれもそれでいいと思う。最悪、この魔王城がなくなるかもしれないだろう。周囲の兵士も集めておく方がいいかもしれない」
「それは無駄だ。あいつを倒すのはそれ相応に力を持つ者で無ければ意味がない。兵士など居ても犠牲者が増えるだけだ」
「それは……そうかもしれないが……」
「だから兵士は特に動かす必要はない。それに、報告では警戒もかなりしている。露骨な動きをして敵対させたくはない。だからこのままだ」
「分かった」
ネビルの案はアビブに否定された。
そして、彼はゼラに話を戻した。
「それでゼラ。貴様から見て奴はどのような者だった?」
「どのようなも別に……。まぁ、正直正面に立ちたくは無かったわね。攻撃を仕掛けても、通る未来が見えなかったわ」
「おれもスキルを使ったが……同じだった。おれの……最高の一撃だったはずなんだがな」
「それだけ強いのよ。勇者ってあんなのばっかりなの? やばくない? しかも殺してもまた帰って来るんでしょ? どうしたらいいのよ」
ゼラはそう言ってサジを投げかけている。
「そう気を落とすな。勇者を殺さないように捕縛すれば、数十年は稼げるんだ。それに、話が通じるかもしれない」
「そうだといいけど……」
「さて、大体は話したな? 他に何か言いたいことがある者は?」
「……」
誰も口を開かないので、あたしは今回の会議の終了を宣言する。
「よし。ご苦労だったな。今日はこれで終わりだ。明日は……頼むぞ」
表彰式の時に、あたしはもしかしたらシュタルと向かい合うことになる。
そうなれば……どうなるかわからない。
あたしは、不安を胸に抱きながらベッドで1人眠りにつく。
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