第119話 アビブ
武闘大会はそこそこ長引き、そろそろかと思っていたところに係員から招集がかかった。
そして、俺はすぐに舞台の上に立つことになる。
目の前には俺が戦う相手。
どこか
その下には数多くの道具が隠されていることだろう。
そんなことを思っていると、実況が始まる。
『さぁ! 武闘大会も第6試合! 続いての対戦相手は全く異なる相手になります!』
全く異なる? 一体どういうことだ?
そう思っていると、実況がわざわざ教えてくれる。
『まずはアビブ! 彼は最初のリーグ戦の時も周囲を仲間で固めていた統率力に優れた人物! そんな人物が四天王になる為に殴りこみ! しかし、彼自身の実力は未知数! 一体どこまで勝てるのか!』
なるほど。
大人しく軍隊の後ろで隠れていればいいものを。
『そして方やあの魔王軍親衛隊隊長をあっさりと破った期待の新星! ダルツ村のシュタル! 予選では一歩も動かずに全ての敵を屈服させましたが、今回はどうなるのでしょうか!? さて、それではレディ……ファイト!』
俺の紹介も終わり、すぐに戦いの合図が始まった。
試合の時間も押しているのかもしれない。
まぁ、俺には関係ないが……。
俺は相手の出方を待っていると、敵が話しかけてくる。
「おい。お前。俺と取引しないか」
「いきなりか」
「当然だ。おれは四天王になる。だから、お前と削り合っている時間はない」
「断る。俺は俺でやることがある。いいからかかってこい。この問答は無用だ」
「……金を積んでもか?」
「無駄だ。俺にとって金などいくらでもある。必要が無い」
「ち……これだから田舎者は……」
「いいからこい。それとも、俺からいった方がいいか?」
「!?」
俺は少しだけ殺気を出して、奴の危機感を
奴はすぐにローブに手を突っ込み、俺に向かって何かを投げて来た。
「食らえ!」
投げられたそれは紫色の液体が入ったガラス瓶で、俺の少し前に落ちて割れた。
パリン
すると、次の瞬間には紫色の煙が舞台の上を覆いつくすように発生した。
「これは?」
「ははぁ! 言う訳ないよなぁ! だが油断して動かないなんて! バカのすることだ! それとも、そういうスキルか何かか!?」
「いや? 別にスキルは関係ない。だが……これは少々危ないな。『
この煙には毒が含まれている様な感じがしたので、観客席に届かない様に上空に巻き上げる。
そのまま人がいなかったライギョがいた沼の辺りまで運んでおく。
「よし。こんな物か」
「は……貴様……毒を吸ったんじゃないのか……? ドラゴンですら……あれの中に居たらもだえ苦しむ最高品質の毒だぞ?」
「ああ、俺は最強だ。毒程度にやられる訳がないと思わないか?」
「ふ、ふざけるなよ! 次はこれだ!」
奴は顔を真っ赤にさせながら、ローブに手を入れる。
そして、そのまま手を出すと、そこには魔法陣が書かれた紙を持っていた。
「これで終わりだ!」
奴はにやけながらそれを使い、魔法陣を発動させた。
俺は何が発動するのか瞬時に見切り、その魔法陣の紙を手刀の風圧で切り裂く。
「は……」
奴の持っていた紙は切れ、奴は何が起きたのか理解できない表情を浮かべている。
だが、それは当然だろう。
ここまで戦って分かった。
奴自身に大した戦闘力はない。
こうやって、道具を使うことでしか戦うことが出来ないのだろう。
だから、貴重なアイテムを消費したくなくって、俺を裏から倒そうとしていたのだ。
「なぜ……? 転移……の……魔法陣が……」
「効果が発動する前に壊せばいい。魔法陣を使うやつとは前に戦ったからな。対処法は知っている」
「そ、そんな……発動なんて1秒もないのに……」
「それだけあれば、俺はお前を殺すことも出来るぞ?」
「!!??」
「いいから全ての手を使ってこい。出し惜しみするな。最強である俺に挑むのだ。光栄に思え」
「く……舐めるなよ……これは奴に使いたかったが……。もう許さん!」
奴は遂に本気になったようで、ローブの中から刀身が真っ黒の剣を取り出す。
「ほう。それは?」
「これは魔剣〈ソウルイーター〉効果は……食らえば分かるぞ?」
「なるほどな。楽しみだ」
「では行くぞ。食らえ!」
俺はその魔剣の攻撃を正面から受けることにした。
名前的には……特殊な効果があるのかもしれない。
だが、俺は……それをあえて受けることにした。
「死ね!」
ブン!
奴は俺の切りかかり、服を切り裂く。
そして得意げに話し始めた。
「ふ……愚かな。この魔剣〈ソウルイーター〉に切り裂かれた者は即死する。それをノコノコと受けるとは……」
「即死……ルール的には殺しは禁止だろう?」
「安心しろ、蘇らせる魔道具を用意してある。だからすぐに蘇らせれば問題はないんだよ」
「なるほど。それで、いつになったら死ぬんだ?」
「は……? そ、そう言えば……」
まぁ、なんとなくそんなことだろうとは思っていた。
だが……。
「そもそもな。その剣。まず切れ味が良くないな。俺の肌すら切れていない」
「は? 肌すら切れない? いや、これ魔剣だぞ……?」
「その程度の魔剣では俺を殺すことはできんよ。まぁ……これ以上何かが出てくることはないだろう……な」
俺はそう言って、拳奴の腹に叩き込む。
「ぐふぅ!」
そして、奴はそのまま場外に飛んでいった。
『……き、決まったぁあああああ!!! シュタル選手! これまた一歩も動くことなく敵を圧倒! しかもアビブ選手の攻撃を全て受けきってのこの試合! これぞ最強! これこそが最強ということの証明か!!!???』
「わああああああああああああああ!!!」
歓声が俺を包むけれど、俺にとっては大したことではない。
早く明日にならないか待ち遠しい。
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