第118話 後ろを歩くことの意味

***アストリア視点***


「よし。それじゃあボク達も見に行こうか。ボク達用の席もあるんだってさ」

「そのようですね。私たちもちゃんと応援しなければ」


 ボクとリュミエールはシュタルの応援をするべく、控室を出る。


 そして、目的地に向かって歩いていると、係員に話しかけられた。


「あ、すいません。選手のお付きの方ですか?」

「うん。そうだよ」

「あの……申し訳ありません。事前に説明していた部屋が既に埋まってしまい、これ以上の観戦は出来ず……」

「ええ! じゃあボク達見れないの!? 普通の観客席は……」

「ご安心ください。別の部屋を用意いたしましたので、そちらの部屋をご利用下さい」

「本当? 良かった」

「ではこちらです」


 係員の人はそう言ってボク達を案内してくれる。


 ただ、進む先は下に向かって行くようで、どう見ても観戦することは難しそうに感じた。


「ねぇ……本当にこっちであっているの?」

「はい。ご安心下さい。特殊な部屋ですので」

「そ、そう……」


 ボク達はしばらく歩き、地下牢かと思うような狭い部屋に案内される。


「ここは……?」

「こちらの中です。おはいり下さい」


 そう言う係員はボク達を中に入れようとする。

 部屋の外には魔法陣が描かれていて、それで試合でも見るのだろうか?


 ボクは言われたままに中に入ろうとすると、リュミエールに止められた。


「待ってください」

「何?」

「この部屋の中に入ってはいけません。入ったら……二度と出られないかもしれません」

「どういうこと!?」

「この魔法陣は中に入った者を閉じ込める効果があります」

「それは……」


 ボクは係員を見ると、彼は面倒そうに舌打ちをする。


「っち。ガキが。魔法陣を知っているとはな……。だが……まぁいい。シュタルが降参するまで……ちょっと遊んでてもらうからよ」


 彼がそう言うと、周囲からどこにいたのか。

 そう思えるほどに人がわらわらと出て来た。


「貴方達は……」

「次のお前の対戦相手の仲間だよ。安心しろ。抵抗しないなら殺さないからよぉ!」

「くっ!」


 係員はそう言いながらボクに掴みかかってくる。


 ボクはそれを避け、彼掴んで他の敵に向かって投げつけた。


「ぐあ!」

「ガキが! やるじゃねぇか!」

「囲め! 囲んでしまえばガキ2人じゃどうにもできねぇ!」


 奴らはボク達を囲み、地下牢の中に追い立てようとする。

 でも、中に入ってしまえば……。


 ボクはリュミエールに向き直って聞く。


「リュミエール。自衛は出来る?」

「アストリア様。バカにしないで下さい。私だって、シュタルさんの後ろをついていくと決めたんですよ? 問題ありません」

「分かった。ボクが前に出るから、自衛だけしてて」

「分かりました」


 リュミエールはそう言ってくれたので、ボクは守るのではなく、攻める。


「はぁ! 『雷の槍ライトニングランス』」

「何!?」

「魔法!?」

「ぐああああ!!!」


 ボクが魔法を使えると思っていなかったのか。

 一度に5人の気を失わせる。


「ガキが!」

「油断するな! あのシュタルと一緒にいたやつだ! もう一人の方を先に狙え!」

「くっ!」


 敵も嫌な手を打ってくる。

 ボクに集中してくれればいい。

 そう思って派手に動いたのに……。


 でも、ボクはリュミエールを甘く見ていた。


「甘いですよ。『魔陣構築:プリズム』」

「なんだと!?」


 リュミエールの姿が10人に分裂した。

 まさかこんなことが起きるとは思わずに、ボクも目を見開いてしまう。


「ど、どれが本物だ!?」

「いいから全部捕まえていけ!」

「わ、分かった!」


 敵も慌てているけれど、リュミエールは落ち着いて次の行動に移す。


「『魔陣構築:プラントガーデン』」


 リュミエールの作り出した魔法陣から、緑色のツタがこれでもかと現れる。

 そして、リュミエールに向かってくる敵に向かってからみついていった。


「な、なんだこれは!?」

「固い! しかも絡めとられるぞ! 気をつけろ!」


 ボクはリュミエールの攻撃をみて安心する。

 そして周囲の敵を倒すことに努める。


「皆してリュミエールばかり見てていいのかな?」

「はっ!」

「ぐふっ!」

「こいつら、強いぞ!?」

「くそ! このままでは!?」


 慌てる敵を無視して、ボク達は敵を全員倒す。


「ふぅ……まさかこんなことして来るとはね」

「ええ、少し驚きました」

「でもま、リュミエールもそんなに強くなっているなんてね。びっくりしたよ!」

「シュタルさんの後ろをついていく。それは……ただ後ろに隠れていることではありませんから。アストリア様。あなたのことも、後ろから支えたいと思っていますよ」

「リュミエール……」


 彼女はボクに微笑んでくれる。

 その笑みを見ていると、ボクは何か……満たされるものを感じる。

 これが……光の巫女の何かなのだろうか。

 こんな笑顔をずっと見て来たなんて、シュタルがちょっと憎い。


「アストリア様?」

「あ、ううん! なんでもない! いいから戻ろう! シュタルの試合が始まっちゃうかも!」

「そうですね。戻りましょう」


 ボク達は部屋に戻ると、シュタルがそこにはいた。


「あれ? もしかして……もう終わった?」

「いや、そんなことはない。さっき来た係員は偽物だった。俺に試合もまだ先らしい」

「そうなんだ……なーんだ」


 ボク達は部屋の中に入ると、シュタルは嬉しそうに言ってくれる。


「アストリア。リュミエール」

「何?」

「はい?」

「よくやった」


 そう言って、頭を撫でてくれる。


「子供じゃないって言ってるでしょ!」


 でも、その優しい手つきを、どけることは出来なかった。

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